1学年だより「殻を脱ぐ」
日本人は、世界で一番エビを食べる国民である。
とくにおせち料理やパーティー料理などのおめでたい料理にエビは欠かせない。
エビの鮮やかな赤い色が料理を華をそえる点、そしてエビのまがった姿が人間の長寿のイメージにつながる点がその理由とされているが、エビが縁起のいい食材として扱われるにはもう一つ深い理由がある。
~ これはね、昔の中国で生まれた教えなんや。答えはね、エビの煮姿じゃないの、エビの一生に、この秘密は隠されている。エビはね、命ある限り殻を脱ぎ続けるらしい。立派になっても、どれだけ周りから賞賛されても、その厚くなった堅くなった殻を、死ぬ思いで脱ぎ続けるらしい。一生、次の自分に憧れを持たなくなったとき、苦しみの中からも、次の変化を楽しみに今を脱出しようとしなくなったとき、もうこれでいいやと思ったとき、エビはその一生を終えるらしい。死ぬらしい。(春山満・春山哲朗・宮内修『若者よ、だまされるな!』週刊住宅新聞社) ~
エビは単に長生きのイメージにつながるからではなく、その生き方がめでたいのだという。
繰り返し脱皮し、新しい自分になろうとし続けること。
変化自体が生きることであり、生まれ変わりをやめた時は、死である。
こんなもんでいいやと思うことは、生への歩みを止めたということになる。
この文章を書いている春山満氏は、介護、医療関係のオリジナル商品を次々と開発し商品化するとともに、大手の医療法人、企業、自治体へのコンサルタントも行う会社の社長さんだ。
春山氏が様々な介護・医療製品を開発できるのはなぜか。
それは、ご自身が四肢の機能を失っているからだ。
20代後半で進行性の筋ジストロフィーを宣告され、現在は首から下の機能をすべて失っている。
しかし病気がわかった頃、父親の不動産関係の会社がつぶれ、残された莫大な借金をなんとかしないといけない状況においこまれていた春山さんに、自分の運命を十分に悲しむ時間はなかった。
自分はどれくらい生きられるのか、どれほどのことができるのか。
自分のおかれた状況のなかで、「失ったもの」への感傷にひたっている時間はなく、ただやれることをやっていくしかなかった。かえってそれがよかったと春山氏は言う。
~ どんどんこれから身体が悪くなる。でもね、そのときお父さんの頭をよぎったのは、病気のことじゃなかった。どうやって生きていこう、それだけだった。だから、泣いて恨んで、宿命のせいにする余裕もなかった。これがよかったかもしれない。
人生っておもしろいよ。物事って、心のもちようでどうにでもなる。 ~