1学年だより「殻を脱ぐ2」
急速に身体機能が失われていく状況において、それを悲しんでいる暇は春山さんになかった。
父親がつくった莫大な借金を返すため、そしてうまれて来る子ども、妻との生活を支えるためにがむしゃらに働くしかなかった。
不動産業を一からスタートさせ、やがて独立するものの、病気の進行はいかんともしがたくなる。
身体がほぼ動かなくなり、医療機関に通い、介護サービスを受けるようになると、春山さんはとんでもない事実に気付く。
春山さんが接した医療や介護の世界は、どちらもサービス精神が全く感じられない、「上から目線」のものだったのだ。
そこで考えた。お客さんの目線に立った商品を開発すれば絶対に喜ばれる、必ず儲かると。
健康機器の会社を立ち上げた春山さんは、数々の商品を開発する。
そして、いつのまにか業界のトップランナーとなり、大企業がこぞって春山さんのもとに提携を申し出るようになった。
自分が難病にかかったからこそたどりついた道だった。
そんな春山さんだから、「なかなか就職口がみつからない」などと嘆く若者には、「甘えるな!」と一喝したくなるのも当然だ。
~ 今の世の中、不景気だって? これまでにない就職氷河期だって? 嘘ばっかりいうな。どこが不景気。こんなにも平和で、こんなにものに溢れて、こんなにも豊かなのに。どこが就職氷河期?大手企業は確かに大変だよ。でも中小企業は、人をこんなにも求めているじゃないか。きみたちが選り好みしているだけじゃないか。 … 僕にとって、いい時代悪い時代、そんなものはなかった。難病になって、転がるように坂道を落ちて、いろんなものをこの身体から失くしてきた。ただ、失くす端から、いろんなものを見つけてきた。今ある条件の中で戦ってきた。次の目標だけを見て、光だけを信じて、そこを這い上がってきた。いい時代も、悪い時代もない。 ~
与えられた運命をプラスにするのも、マイナスにするのも、それはすべてその人自身の受け取り方なのだ。
春山さんは、生きている限りはエビのように殻を脱ぎ続けたいという。
~ 生涯エビみたいな人生を生きたい。これが僕の目指す、生きる道。いろんなことがあったって、壁を迎えたって、大丈夫や。「今の殻を脱いで、やがて大きくなれる自分がある。そのための、今、脱皮への苦しみや」と思ったら。憧れをもって苦しみの中から、次の人生を切り拓こうぜ! ~