水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

部活小説

2013年08月14日 | おすすめの本・CD

 「本の雑誌9月号」に「夏だ祭りだ部活小説だ!」という小特集があって、大体読んでる本だろうなと思ってページをくったら、そうでもなかった。次の10作品が紹介されている。

 吹奏楽部『退出ゲーム』初野晴/角川文庫
 軽音楽部『階段途中のビッグ・ノイズ』越谷オサム/幻冬舎文庫
 野球部『大延長』堂場瞬一/実業之日本社文庫
 自転車部『キアズマ』近藤史恵/新潮社
 機械制御研究部『キケン』有川浩/新潮文庫
 文芸部『図書館の神様』瀬尾まいこ/ちくま文庫
 演劇部『スキップ』北村薫/新潮文庫
 剣道部『武士道シックスティーン』誉田哲也/文春文庫
 陸上部『一瞬の風になれ』佐藤多佳子/講談社文庫
 バスケ部『スラムダンク』井上雄彦/集英社

 最後のは小説じゃないけどね。
 『武士道シックスティーン』や『一瞬の風になれ』は、部活小説として日本の文学史上の頂点にある作品と言っていいだろう。
 もし、夏休みになんか本読もうかなと思って悩んだなら、まずこの二作品に手を出せば、はずれることはない。
 これでダメなら、小説はからだに向いてないかもしれないが、もっと男くさいのがよければ、これはどうだろう。

 ボクシング部『ボックス』百田尚樹/講談社文庫
 
 これは、アツい。百田尚樹にはずれなし。
 演劇部として『スキップ』があげられているが、演劇部ものとしては、これをはずすわけにはいかないだろう。

 『幕が上がる』平田オリザ/講談社

 いい小説を書ける人はいっぱいいるし、演劇界の事情を学校現場まで含めてすみずみまで知り尽くしている人も何人かいるが、その二つを兼ね備えた平田氏による奇跡のような作品だ。

 『一瞬の風になれ』は陸上の世界をまっすぐに描いているが、陸上という素材以上に人間を浮かび上がらせた、あさのあつこの『ランナー』シリーズもいい。とくにランナー2の『スパイクス』が。


 ~  「あたしね、久遠くんと同じなのよ」
 呟いていた。信哉が問うように顎を上げる。
「最初は選手として陸上、やってたの。トラックじゃなくてフィールドの方だけど。高跳び」
「へぇ、それは初耳だ」
「すぐにやめちゃったから。というか、自分が競技者よりマネジャーに向いてるって、気づいちゃったの」
 座ったまま真剣な面持ちで見上げてくる信哉に向かって、しゃべり続ける。
「マネジャーの質って何かって訊かれたら、加納くんじゃないけどちゃんと説明できないんだけど、だけど、選手としてじゃなく選手を支える側……ううん、そこからも離れて見てるとね……」
「一観客として、競技を見てるってことですか」
「うーん、それとも違うかも。一般の観客にはなれないの。やっぱ、東部第一の選手に勝ってほしいし、この競技が終わったらすぐに飲み物の手配しなくちゃとか、コンディションをどう整えようかなんて考えてるんだから。けどね、そこがおもしろいの。マネジャーとして競技を見ているとね、選手には味わえないおもしろさがわかっちゃうんだ」
 抽象的だ。抽象的すぎる。言葉が想いに追いつかない。
「あたし、それを知ってたの。マネジャーになってすぐに気がついた。陸上っておもしろいなって……うん、あたし、確かに知ってたのにね……」 (あさのあつこ『スパイクス』幻冬舎文庫) ~


 部活では当然プレーヤーが一番目立つけど、それをささえるマネージャーの存在も大きい。
 自分の中では、部活のマネージャーをやりたい心境って全く想像もできない、何がおもしろいんだろ、とずっと思っていたのだが、考えてみるとマネージャー的仕事ばかりやっている人生を過ごしていることに気付いた。
 プレーヤーではなく、マネージャーにしか見えない世界はたしかにあると思う。

 吹奏楽部コンクールの指揮台に立つ多くの顧問の先生方にも、プレーヤー比率の高い方と、マネージャー比率の高い方がいるところがおもしろい。
 吹奏楽部ものとしてあげられた『退出ゲーム』は読んでないなあ。
 考えてみると吹奏楽ものってあんまり読んだ記憶がない。『楽隊のうさぎ』ぐらいか。
 顧問を主人公にした部活小説ってないだろうか。
 あった、これだ。古い作品だけど。

 アメリカンフットボール部『俺はどしゃぶり』須藤靖貴/光文社文庫

 これは明らかにお隣の城北埼玉高校さんがモデルとわかる。川越市郊外にある男子校 … とはじまってて、えっ? と思ったものだ。母校に赴任した若い先生が、アメフト部をつくり鍛えていく作品だ。

 これも、その範疇に入れていいかも。純粋な部活小説ではないのだが、テイストは部活だと思う。

 野球部など『都立水商』室積光/小学館文庫

 体育の先生があつく語るセリフ。


 ~ 「いいか。人間はトレーニングによって、敏捷性は20パーセント高められる。つまり持って生まれた能力の2割は向上するんだ。筋肉のパワー自体は、3.6倍まで高められる。持久力に至っては、6.5倍までの向上が期待できる。もう、こうなると別の動物になると言ってもいいぐらいだ。つまり、持って生まれた才能や、運動神経だけでやってる奴には、努力で必ず勝てるんだ。いいか、絶対だ。絶対に勝てる。
 問題なのは、努力しないうちから、自分の能力を決めてしまうことだ。まずトライしろ。自分で限界を決めたら、そこで終わってしまうぞ。ただし、これが重要なんだが、世の中には自分より才能があるうえに、自分より努力している人間はいるもんだ。これには負ける。でもな、そういう奴に負けるんだったら、口惜(くや)しくないだろ。自分の持てる最高の力を発揮して、それでもっとすごい奴に負けるんだったら悔いは残らない。
 高校でのスポーツは、たいていトーナメント方式で戦われる。ということは、ほとんど全部の高校生が、高校生活最後の試合を、負けて終わるんだ。全国で一位になる選手やチームを除いてな。いい加減な気持ちで取り組んでると、いい加減な奴に負けるぞ。」 (室積光『都立水商』小学館文庫)~


 スポーツの場合は、頂点となる一校以外は、すべて負けて終わる。
 吹奏楽コンクールも、全国大会で金賞を受賞する10以外は、負けと言えば負けだ。
 大学に進めば、多くの学生はこういう形で勝敗を争う世界からは離れていく。
 高校の部活というのは、いかに負けるか、負けから何を見いだすのか、それを学ぶ場だと言っていいかもしれない。

コメント
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