水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

ブルーピリオド

2020年06月16日 | 学年だよりなど
  3学年だより「ブルーピリオド」

 矢口八(や)虎(とら)は頭がいい。
勉強もできるし、他人の気持ちもよく読み取る。
基本的にやさしいので、いつも他人の気持ちを慮って、暮らしている。
つるんでいる不良仲間たちは、そんな八虎をいいヤツだと思っている。
だから、八虎が美大を目指して勉強すると決めたとき、それは一緒に遊べなくなることを意味するが、仲間は八虎をなじらなかった。
むしろ、自分のやりたいことをやっと見つけたんだと安心したくらいだった。
きっかけはちょっとしたことだった。
仲間と遊び歩く渋谷の街。明け方、街が青一色に見える。
 美術の時間にそれを描いてみる。よく知らなかったクラスメイトにほめられ、泣きそうになるほどうれしくなる。
美術室に、八虎をひきつけた大判の絵があった。
「先輩が書いたんですか……?」
 美大を目指しているという3年の小柄な女子の先輩の作品だった。
 渋谷の街が青かったという話をしてみる。
「あなたにとって青なら、それは青なんだよ。りんごも、うさぎも、青くていいんだよ」
 先生に勧められて、スケッチをしはじめてみると、まったく経験したことのない感覚が全身を包むのを感じる。これが「自由になる」というものだろうか……。
 何のために大学に行くのか、考えてもわからなかった問いに、一つの答えがうかんできた。


~「食べていける保証がないなら、美大にいくメリットってなんですか?」
「そうねえ…、なら、どうして普通の大学なら食べていける保証があるんでしょうか?
 趣味で描くノビノビしてて良い作品はたくさんあります。
 だけどね、好きなことは趣味でいい、これは大人の発想だと思いますよ」
「…えっ」
「好きなことに人生の一番大きなウェイトを置くのって、普通のことじゃないでしょうか?」
「正直今、揺らいでて、でも確信が持てなくて。美大って、俺入れると思います…?」
「わかりません! でも好きなことをする努力家はね、最強なんですよ!」(山口つばさ『ブルーピリオド 1』講談社アフタヌーンコミック) ~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする