『町田くんの世界』は、心がざわついたときには繙いて、ああこんな風に生きよう、こんな男子になれればいいなと落ち着くことができる。『俺物語』と同じくらい素敵な作品だ。
物静かで、メガネで、しゅっとした顔立ちで(おれじゃなくて、町田くんね)、勉強できそうに見えるけどそうでもなく、運動は見た目通り苦手で、器用ではない。
自分にとりえはない、得意なこともないし、もてもしないし、イケメンでもないと、本人は思っている。
でも、実はみんなから慕われているのは、町田くんがみんなのことを実によく見ているからだ。
クラスメイトのこと、先生のこと、家族のこと。街中でも、見知らぬ人がちょっと困っている様子を瞬間的に察知し適切な対処をする。
いつも花に水やりありがとう、髪型かえましたね、少しやせた? レギュラーになれてよかったな … 。
3巻だったかな、六人目の弟が生まれる寸前、身重の母親を気遣って慢性的に睡眠不足だった数日間の冴え渡り具合いなどはすごかった。
こんな主人公って今までいただろうか。
『俺物語』にも共通するが、声になっていない思いがセリフの吹き出しとは別の四角い枠で表される。
猛男のそれは「好きだ」ばかり目立って、その純粋性が心をうつ。町田くんのは枠自体が多彩で、思いのレベルにもいろいろな次元があることが示されているのだろうか。
この技によって、映画とも、小説ともちがう形で、様々なサブテキストが露骨に明らかにされる。
サブテキスト、つまり語られていない意味を知るには、行間を読む、映像の意味も見抜くといった、相応の経験が必要だ。マンガはそれが可視化されることで、お話の深みが否が応でもわかる。
この有効な手段を、才能のある方は見逃さないのだろう。