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裏横浜 八木澤高明
題名通り「横浜」という都市の裏側の世界をジャーナリストとしての取材や著者自身の体験を通して教えてくれる一冊。今でこそ、みなとみらい地区の未来都市的景観、新しい観光スポットとして蘇った赤レンガ倉庫、元町のしゃれたショッピング街、家族で楽しめる横浜スタジアムや中華街など明るい名所が多い横浜だが、横浜の繁華街、歓楽街、歴史的建造物の明治以降の歴史を詳しく振り返ると全く違う様相が見えてくる。横浜の発展に寄与した捕鯨、生糸取引、米軍物資集積地といった横浜の特徴の裏側には、故郷を捨てて移り住んだ無数の労働者、劣悪な環境のもとで身を持ち崩した人々の痕跡が数多く残っている。横浜という混沌とした土地で、中国の革命家孫文が身を潜めた場所であったこと、連合赤軍の隠れ家があったこと、美空ひばりやアントニオ猪木といった著名人が輩出したことなど、色々知らないことも多かった。また、横浜地方裁判所でB級C級戦犯の裁判が行われ900人以上が戦犯として処刑されたという事実には驚かされた。読み始めて最初のうちは、著者自身がホエールズファンだったこととか実家のお店の話とかが多く、自分史を語る自費出版の本を読んでいるような感じだったが、読み進めていくうちにそうした記述が横浜の歴史解説に膨らみを持たせていることがだんだん分かってきてそれも面白かった。(「裏横浜」 八木澤高明、ちくま新書)
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