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五つの季節に探偵は 逸木裕
実家が探偵事務所という女子高校生が立派な探偵になっていくまでの出来事を追った連作短編集。読んでいて、探偵という職業について色々考えさせられた。刑事や探偵に求められる資質は正義心、洞察力、直感、経験、体力など様々だと思うが、このうちの2つ3つを備えていれば名刑事とか名探偵ということになるだろう。世の中のこれまでの多くの警察小説や探偵小説は主人公にこの色々な能力の組み合わせを与えることで個性を出していたと言える気がする。ただしこの小説で扱われているのは探偵にのみ当てはまるある資質に焦点を当てているような気がした。刑事と探偵の一番の違いは、刑事は社会のために動き、探偵は依頼人のために動くという点だろう。刑事は社会のために公権力を行使していてその目的や意義にブレが少ない。一方、探偵は依頼人のために動くので、極端な場合依頼人が悪者だったらとか真相が依頼人や社会のためにならなかったらという葛藤が生じる可能性がある。この葛藤が本書の肝の一つと言えるだろう。なお、5つの短編のなかでは「解錠の音が」「スケーターズワルツ」の2つが特に印象的で、前者は事件解決後の数ページの展開に心底驚かされ、後者はよくあるトリックにまんまとだまされた。著者の本を読むのは初めてだが、色々読んでみたくなった。(「五つの季節に探偵は」 逸木裕、KADOKAWA)
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