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ルカの方舟 伊与原新

大好きな著者の初期の作品。火星由来の隕石から生命の痕跡が見つかったという大発見から一躍脚光を浴びた研究室で起こる連続殺人事件を扱ったミステリーだが、更にその研究室に対する研究不正を告発する謎のメール、深夜の研究室で目撃された謎の少女と老人、研究室の全員の何かを隠しているような不穏な態度など、これでもかというくらい謎のオンパレード。大丈夫かしらと心配したが、最後に見事に全てがつながる爽快な作品だ。本作で最も興味深かったのは、現在の科学に携わる研究者達の様々な苦労だ。研究分野の細分化により論文の審査が困難になってしまっているという状況、そうした中で公正な審査を意識するあまり論文の質ではなく数や引用件数偏重に落ちいってしまっている問題、オーバードクターやポスドクの問題など、研究者のモラルを維持するのが困難な様々な状況がそこにある。研究不正に関わる事件としてはすぐにSTAP細胞の騒動が思い浮かぶが、本作が書かれたのはSTAP細胞騒動が発覚する1年も前のことだという。色々な意味で考えさせられる一冊だった。(「ルカの方舟」 伊与原新、講談社文庫)
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