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映画を早送りで観る人たち 稲田豊史
映画を倍速、10秒早送り、あらすじや結末を知ってから視聴する人が増えている、特に若者においてそうした行動が顕著であるという現象を、外的要因、内的要因の両面から分析した一冊。こうした行動を是とする人たちへのインタビューやアンケートを通して見えてくるのは、外的要因としてはネットの普及で視聴可能な作品が急増したこと、内的要因としては話題に遅れたくないという同調圧力やそこそこ個性的でありたいといった願望などがあると言う。こうした行動は若者に限らず、他人とそうした話題を話すことが皆無な高齢者である私自身も、会話のない場面は30秒早送りしてしまうし、倍速とまではいかないが1.3倍速の機能はよく使う。1時間のTVのクイズ番組ではCMやお笑い芸人の珍解答などを早送りして15分くらいで観終えるのが当たり前になってきている。それで楽しいかと言われても他の人と比べようがない。作り手の思いをないがしろにする愚挙と言われればその通りで、映画館に映画を観に行ってクライマックスのところでトイレが我慢できずに立ってしまうこともある自分としては返す言葉もない。こうした傾向は、ファストフードを早食いしたり、大食いしたり、シェフの繊細な努力の結晶であるフレンチを食べている途中でコーラをがぶ飲みしたりというのとよく似ているかもしれない。一つの面白い着眼からの論考に、自分の行動と重ね合わせながら色々考えさせられた一冊だった。(「映画を早送りで観る人たち」 稲田豊史、光文社新書)
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