書評、その他
Future Watch 書評、その他
ルカの方舟 伊与原新
大好きな著者の初期の作品。火星由来の隕石から生命の痕跡が見つかったという大発見から一躍脚光を浴びた研究室で起こる連続殺人事件を扱ったミステリーだが、更にその研究室に対する研究不正を告発する謎のメール、深夜の研究室で目撃された謎の少女と老人、研究室の全員の何かを隠しているような不穏な態度など、これでもかというくらい謎のオンパレード。大丈夫かしらと心配したが、最後に見事に全てがつながる爽快な作品だ。本作で最も興味深かったのは、現在の科学に携わる研究者達の様々な苦労だ。研究分野の細分化により論文の審査が困難になってしまっているという状況、そうした中で公正な審査を意識するあまり論文の質ではなく数や引用件数偏重に落ちいってしまっている問題、オーバードクターやポスドクの問題など、研究者のモラルを維持するのが困難な様々な状況がそこにある。研究不正に関わる事件としてはすぐにSTAP細胞の騒動が思い浮かぶが、本作が書かれたのはSTAP細胞騒動が発覚する1年も前のことだという。色々な意味で考えさせられる一冊だった。(「ルカの方舟」 伊与原新、講談社文庫)
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écriture新人作家杉浦李奈の推論 松岡圭祐
デビュー作で時の人となった作家の盗作疑惑に端を発した殺人事件を扱ったミステリー。事件の経過とともに、新人作家や弱小出版社の苦境、文学賞選考の舞台裏といった文壇や出版業界の闇が次々と明らかになっていく。さらに事件の中心人物が大学で文学を教える教授という設定で随所に文学論が交わされるのも面白い。この人も悪い人だったの?という感じで事件の真相はかなり意外。帯を見るとシリーズ第1巻とあり、既にシリーズ化が決まっているらしい。(「écriture新人作家杉浦李奈の推論」 松岡圭祐、角川文庫)
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できそこないの世界でおれたちは 桜井鈴茂
初めて読む作家の一冊。書評誌に「これほどの作品が大評判にならないのが不思議」と書いてあったが、自分も全くその通りだと思う。小説がヒットする仕組みとかに詳しいわけではないが、これだけ面白ければ何かの文学賞を取ったり出版社の人の目にとまったりして華々しく活躍するのではないかと思う。おそらくこれからそうなるのだろうなぁという予感がする。本書は著者デビュー作の登場人物達の十数年後を描いたものとのこと。解説を読んでそのことを知り、そのデビュー作を読んでから本書に取り掛かった方が良いかもと少し迷ったりもしたが、読んでいてその辺りのことが気になることは全くなかった。大きな事件が起きるわけではないが、文章の面白さと先が気になる構成の妙が際立つすごい小説だと感じた。(「できそこないの世界でおれたちは」 桜井鈴茂、双葉文庫)
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