蚊帳の内側で女が起き上がり 白地の浴衣の寝巻きが するりと片肌脱げた
白い背中に目を奪われる
酒が回って体が重い 隣の座敷の座卓に突っ伏して こちらもいつの間にか眠ってしまっていた
雨宿りに軒を借りていると家の中から女が声をかけてきた
「そこにいてもさして雨避けにはなりますまい あがって行きなさいましよ」
墓参りからの帰り道 車を置いた村共用の駐車場までは まだ20分ほども歩かなくてはならなかった
女の言葉に甘えて家に入ると昼間から飲んでいたらしく ぷんと酒の匂いが漂った
「おおこわ・・・・雷の音のひどいこと おひとついかがです」
湯呑みに酒を注いで寄越した
三十を超えたか超えないか 女の年齢はわからないが 妙に艶めき色っぽい
女の並べた酒のあては どれもクセのある味がした
勧められるまま飲むうちに酔い潰れていたようだ
大胆なもので女も一眠りしたとみえる
さしもの雷雨も寝ている間に勢いを失い小雨になったらしい
ひそやかな雨の匂いが庭から流れてくる
滑らかな女の背中が ぶつぶつ泡立つように膨れる
目の迷いかと思った
だが・・・・・
「さあ かわいい子供たち ご飯の時間だよ しっかりお食べ」
小さな蜘蛛がわらわらと女の背中から生まれる 女は蜘蛛を床へ落としながら立ち上がり 蚊帳から出てくる
振り向いた女の顔は目からも鼻からも口からも蜘蛛を撒き散らしていた
黒い絨毯のようにびっしり畳をおおいながら 蜘蛛の波が近づいてくる
そして気付く
動けないのは酔ったせいではない
体が 痺れている 痺れている
蜘蛛は近づく 押し寄せてくる
動けない
異形の女は 俺を見下ろし 蜘蛛だらけの口で にいいっと笑った