産まれた時に母親は亡くなりー取り上げてくれた医師・藍野松庵に育てられた娘おいち
松庵の亡き妻お里の姉で裕福な商家のお内儀おうたも おいちを気にかけ やれ晴れ着だの縁談だのと世話を焼いてくれる
おうたには実の子供が無くて おいちが可愛くてしかたないのだ
松庵とおいちの暮らす長屋に来ては 松庵と漫才のような会話の繰り返し
それはどちらも互いに心を許しているから 軽口もきけるというもの
死者の声が聞こえる 姿が見える
もしくは関わったものたちの何かの場面が浮かぶ
助けを呼ぶ声が・・・
そんな不思議な力があるおいち
これまでも危ない目にもあってきた
本所深川界隈あたりを仕切る凄腕の岡っ引き「剃刀の仙」こと仙五郎親分とも おいちは事件に関わることもある
長崎へ勉強に行っていた おいちの兄の田澄十斗〈たずみ じゅっと〉が江戸へ戻り 松庵のもとで更に医師の経験を積みたいと願う
十斗はまた おいちが願う医師の道へ進むために医塾へ通わないかと勧める
夫も医師であった石渡明乃が始めようとする場所には 医師になろうと志願しているお美代にお喜世という女性がいた
この「おいち不思議がたり」第一作からずうっとおいちに想いを募らせてきた新吉が遂に遂に・・・おいちに一緒になってほしいと
そしておいちは「はい」と答えるのだ
孤独なおいたちの新吉だがまっすぐな人間に育ち かざり職人として 遂には親方から店を譲っても・・・と腕をあげて見込まれるようになっている
これまでも新吉は炎の中からおいちを救い出したり おいちの為には自分の命などーそういうところを見せてきた
シリーズ第五作目にしてやっと新吉の想いも報われたのだ
おいちが手当した老女が行方不明になり 後に無残な躯となって見つかり 仙五郎から他にも行方知れずになっている人間が3人いてと教えられたおいち
その3人も惨い躯となり見つかった
十斗は思いだす 長崎でも似た噂があったこと
消える人間 そして酷い状態の躯
男に負けたくない
見返してやりたい
そんな思いから間違ったひとでなしの方向へ進んでしまった医学を志す女がいた
人を救うためのはずが 人を殺して・・・実験道具にして
このシリーズでは 藍野松庵とおうたのやりとりも楽しいです
本文より
《「〈中略〉ー香西屋〈おうたの夫が店主の店〉が贔屓にしている料理屋のお重をあたしがご馳走してあげるって、言ってるんですよ
あ、もちろん あたしとおいちだけじゃなく十斗さんの分もありますよ」
「義姉さん、わざとわたしの名を飛ばしましたな」
「松庵さん?あら、ごめんなさいよ。
松庵さんのことなんてまるで頭になかったわ。
ほほ。ほんと気の毒になるぐらい影の薄い男だからねえ」
「義姉さんが勝手に薄めてるんじゃないですか」⦆
なんてやりとりがあちこちにちりばめられています
そして事件が無事に解決し めでたく新吉とおいちの祝言も決まります
おうたも松庵も おいちの花嫁姿が見たいのでした
掃除は苦手だと言うおいちに新吉は言います
「おれは、おいちさんに掃除をしてほしいわけじゃねえんで。
けど、守ってもらいてえことはあります」
「親分の話を聞いていて〈おいちが下手人に刃物を突き付けられてさらわれたこと〉
心の臓が縮みました。だから」
「死なないでください」
「何があっても、おれより長生きしてください。それだけです」
職人として己の腕を磨き ただ おいちが一緒に居てくれたらーそれ以外は求めない新吉
そして 次作へと続いていきます
シリーズ次作品です↓