夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「繭の見る夢」ーゆきえー2ー

2012-09-28 13:53:44 | 自作の小説

さて何処へーと周囲を見渡した私は人の群れが向かう方角を眉をひそめて見ている古風な格好の女性に気がついた

あらためて見れば日本手拭いを姉さんかぶりにして 眉のあたりなど見えようはずもないのに どうして私はそう思ったのだろう

白い肌に赤い唇
けれど毒々しくはない
紬だろうか 着物

その女性は私に近づいてきた

「わたしの姿が見えるようで ございますね」

「あなたは?」私はたじろいだ

「おや あなたは腕に蛇をお持ちですね
良い蛇だこと
お名前を伺っても よろしゅうございますか」

その女性には妙な迫力があった

「華守ゆきえと言います」

「ああ 華守のー さようでございますか わたしは わ道具屋でございます
此の世にあってはいけないモノ 悪いことする黒い道具を集めております 」

「あのー失礼ですが あちらの方角を見ておられましたよね」

「悪いモノを集めて作られた場所がありましてね
中には手に負えなくなる暴れるモノがございます」

女性は溜め息をついた

「お嬢様が蛇をお持ちと言うことは 視(み)えない龍も居るのでございましょう

お嬢様 安心なさいまし
お嬢様の腕の蛇は 普通の人間には見えません

また お会いすることもございましょう

その蛇はお嬢様に仇なすことは ございません

お会いできて良かった

どうぞ くれぐれもお気をつけて

無事を祈っております」

もっと尋ねたいことがあるのに 声が遠くなる

あなたは 一体 何を知っているんですか

「ーぶ 大丈夫」
気が付くと私は道端に倒れていた
汽車で一緒だった女性が心配そうに 声をかけてくれている

「貧血かしら あなたぐらいの年齢の頃は 割と起こしやすいものだけれど」

私は半分起き上がった「すみません」

動くと ほっとしたように笑った
「これからどうするにしても 何か食べましょうか」

言われると急に親子丼が食べたくなった

お店に入って注文を済ませてから 私たちは名乗りあったのだった
相手の女性は久保山沙月と言った
墓参りに行った娘を迎えに行く途中だと言うが 何か事情がありそうだった

半熟とろとろの親子丼には小椀で蕎麦と わらび餅がついていた

沙月さんは天ぷらざる蕎麦
可愛いひと口おにぎりが三個ついている
私たちは互いの簡単な身の上話など食べながらしていた

沙月さんの娘は私より二つばかし上なのだった

沙月さんは美容室のお店を持っている

そんな事を話していたら 外が騒々しくなった
会計を沙月さんが済ませて 一緒に外へ出る

ゾッとした 先ほど わ道具屋の女性が見ていた方角
黒い煙が流れてきている
叫び声
程なく救急車やパトカーの音

「やっぱり」という声も聞こえてくる
割烹着姿の女性も「またー」と話している

沙月さんはにこやかにその話の輪の中へ入っていった
ごく自然に
「またーと言われるのは」

「あのホテルがあった所には映画館があったのだけれど 火事でかなりな数の人間が死んだの
焼け跡は駅前にも関わらず暫く廃墟のようになっていてね
なんか色々出るって ミステリースポットとかで テレビ局なんかも来てたんだけど 帰りに大きな交通事故に巻き込まれたとか 起こしたとか

見物に行った人も よくないことがあったらしくて

それが二年前 場所も駅前だしホテルの建設が始まって 工場中も事故が次々あって やっと完成したとこだった」

「呪われた場所」って若い子達も噂しているし

ろくなことがないって話をしていたらしい

悪いモノが更に悪いモノを呼び込む

汽車のアクシデントの影響と夏休みということで 新築のホテルには かなりな人間が集まっていたのだとか

沙月さんと私は目で頷きあった

旅は道連れ 袖触れ合うも他生の縁とは言うけれど ここで私は一人にはなりたくなかった

ここで別れては沙月さんどうしたか ずっと気になる

どこへ行くのか 娘さんと会えるまでとか

沙月さんには 人を安心させる何かがあって 私はくっついて安心していたかった

母が死んで以来 誰かに甘える気持ちが短い間にわいてきていた

母が元気な頃 母が決めた予定を守るだけで 日々は穏やかに過ぎて行った

私は腕に蛇を見て以来 長袖ばかり着ている
学校の制服は夏でも学校指定の藍色の薄いカーディガンが着られた

沙月さんの携帯が鳴る

「もしもしー はい? あら すみません
有り難うございます
分かりました ええ そうなんです
お世話かけます」

笑顔になり電話を切ると 説明してくれた
「娘の方も親戚の真さんと駅へ迎えに来てたらしいのだけど 汽車が停車しないまま通過しちゃって
すぐにこちらへ連絡とろうとしたけど 携帯がやはりダメで真さんが人を頼んでくれたらしいの

その女性が迎えに来てくれるのですって」

「私 私 ご面倒かもしれませんが ご一緒してもいいですか」

「それは構わないけど いいの?」

「予定なしの旅ですから」

やがて臙脂色の車が停まり 降りてきた女性は 加佐矢優希と名乗った

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー関連作です↓読んでいただければ嬉しいです

「愛しいあなた」

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「堕恋」-もしくは繭の見る夢・序ー

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「禁忌の水」

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「繭の見る夢」-1-

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「繭の見る夢」-1´ー

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