夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「客暦」-1-店主の独り言

2012-12-07 11:52:33 | 自作の小説

元々は祖母が始めた商売だった それも儲けというより・・・好きな食器の置き場に困って・・・・・

パンとコーヒーと出す簡単な店ーをバス停近くにあった家をちょこっといじって・・・・・・店は角地にあったので道路の一面側の壁をガラスにし そこへ好きな食器を飾った

祖母の妹が焼き物で有名な土地に住んでいて 会いに行くと妹の夫の案内で 焼き物を買いに行くうち 知り合いも出きて 

未亡人になった祖母が こういう店を出すのだと言ったら・・・仲良くなった女性がお弟子さんのを置いてくれることになり 喫茶店だけど 店の名前は「お茶碗屋さん」

学校を卒業した母は調理師の資格を取り 丼物や定食も出すようになり

ただ物事はうまくいかないもので 祖母は病気になり 看病に追われる母は・・・店を閉めざるを得なかった

結婚し子供達を育て 祖母が死んで・・・・姑・舅とこちらもきちんと看取った母は・・・・・暇になった

父の定年から先の生活を考えたのか 結婚してからは ずっと貸していた「お茶碗屋さん」あとの店舗付き住宅がタイミングよく空き家となり 母は祖母が死んで入った生命保険のお金を使って 少し手を入れた 水まわりとか外装とか 

お色直しした店を 再び「お茶碗屋さん」として開店した

それから十年ばかり 私が25歳になったとき・・・母が死んだ

定年後 母と温泉旅行を楽しみにしていた父はっがっくり・・・・

明るい母だったから まさか まさか 

就職して3年目の私

母が遺した店を片付けていて・・・・・まだ 母がそこにいるような思いにとらわれる

暮らしていた家は もしも自分が死んだら 兄に そしてこの店は・・・私にと残してくれた母だった

そのために再び暮らせるように随分色々手を入れてくれていたのだ

時々店を手伝っていた私なら 仕入れにもついていった私なら・・・・この店を続けようと思えば・・・できる

バス停のすぐ横 場所は悪くない

他のことをしようと思っても売れば何がしかの足しになるから

迷っていた 働く場所はある けれど けれど

母の一周忌が済むまでに 私は調理師の資格を取った

友人のお父さんがパン屋をしていて そっから仕入れたパンを使うのを店の目玉の一つにした

可愛がってくれた祖母や母の思い出が染み付いた店・・・・

仕入れてきた好きな食器を並べたガラスケースが店の一角を占める

そう高いものは置かない マグカップやスープにいい中鉢 手に持って嬉しくなるご飯茶碗 お湯のみ 箸置き ぐい呑み 可愛い杯 お茶用のお茶碗も たまに花瓶とかも置く

料理は難しいのは作らない コーヒー ココア 紅茶 ジュース スパゲッテイ カレー シチュー トースト サンドイッチ 日替わり定食

最初はそこから始めた 一人だと出来ることに限りがある

ただ母がしていたバスの始発時間の半時間前から開店する・・・・・・

定休日は決めておく これは心がけた

そうしてリズムができてきたら 一人二人のバイトを雇うこともできるようになり 人手が増えると 店でできることも出せるメニューも増えてくる

母と良い友人になっていた女性の陶芸作家は・・・・・お弟子さんのや自分の作品もちょっと預けてくれた

有難かった

私のことも可愛がってくれる陶芸作家の女性は ずっと昔に母が作品を気に入り「大事に使わせてもらいます」と買ってくれたことが・・・本当に嬉しかったそうだ

店を始めてからは そんなふうに見えない母の遺産が私を助けてくれた

私は店の中で母を感じる 曲がりなりにも三代目

兄は呆れていたけれどーお前らしいなーそう笑った

大学に寝泊りするような生活を続ける兄は わけの分からない研究をしていて たまに家に帰ってくる

父は休みのたびに墓参りしている 「先に死んでくれるな」って約束してたのにーといまだにぼやく

本が好きで映画が好きで カラオケも大好きで でも子供達が歌うのを嬉しそうに聴いていた母

「おばあちゃんは目が確かだったからー」 祖母の着物を大切にし 自分はそんなふうにモノを見る目はないーセンスもよくないと言いながら・・・・

ふんわりとお茶碗を手にのせて肌触りを愉しんで 選んでいた母

母は私のことを「べっぴんさん」「お姫様」なんて呼んでくれていた

「宝物だもん」って言ってくれていた母

欠点も全部ひっくるめて それでも 私のことが本当に可愛かったのだ 母は・・・・

ふとした瞬間に母のことを思い出す

そして私は 母が生きている間に素直に 「お母さんが好き」と言えなかった

得意料理ないなーって言う母に「でも私 おかあさんの作る料理好きだよ ビーフシチューもカレーライスもおかあさんが作ったのなら食べられる お母さんが作る料理はとても どれもおいしいもん」

そう言ったとき 母はちょっと嬉しそうだった

そうなんだ 母は得意料理がないんじゃない どれも・・・得意料理 

とびっきりおいしかった よそに食べに行っても そうおいしいと思わなかったもの

私の夢は 母が作っていたような美味しい料理をつくること

温かな雰囲気のお店 

生きている間に言えばよかった おかあさん大好き

おかあさんが選ぶお茶碗も どれもはっとさせられた

私らしさはこれから出せばいい

母が生きていた頃のような店に「お茶碗屋さん」をすることが とりあえずの三代目の目標です

お待ちしております 待ち時間の合間 どうぞ いらっしゃいませ


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