Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ワイルド・アニマル

2008-10-24 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★ 1997年/韓国 監督/キム・ギドク
「冷凍魚の怪」


画家を目指してパリに来たのに、今は他人の絵を売ることで生計を立てている男チェン。「鰐」に引き続き、監督お得意のサイテー男がまたまた主人公です。画家を目指しているのに、友の絵を売る。これは、裏切りは裏切りでも同胞への裏切り。同じ盗人でも店の物を盗むよりも、さらに悪い。いちばん卑劣な行為ではないでしょうか。

「鰐」は、身投げした人の金品を盗み、その上警察に死体の居場所を教えることで情報提供料をもらおうとする男、ヨンペ。その後の「悪い男」は、好きな女をスリとして捕まえさせ、あげくの果てに売春婦に仕立て上げる男、ハンギ。どいつこもこいつも、悪いことの倍掛けみたいな主人公ばかりです。この常識的な人ならば誰もが感じる彼らへの嫌悪感がふとしたきっかけで、純粋な愛、または慈しみの情を我々に感じさせるのがギドクの才能です。しかし、本作はハンガリー人女性への愛情と、脱北兵ホンサンとの友情の板挟みに苦しむため、お得意のピュアなるものを突き詰めるプロセスが分散されてしまったように思います。これまでギドク作品を見てきた人が初期を振り返るということにおいては面白さも発見できるでしょうが、これだけで楽しめるかと言うと正直難しいです。

でも、思わずギョッっとなるショットは、多々あって、その辺が初期作を見る楽しさと言えます。DV男が女を痛めつけるのが、なぜか凍った魚。冷凍庫を開けると、ずらっと並んでます。このショットが強烈で、「なんで、魚?」が頭から離れません。そして、最低男チェンが住み家としているのが、アトリエ兼用のかわいらしい白い船。このギャップ感がスゴイ。

こういう奇天烈なアイテムって、「絶対の愛」の唇マスクなんかもそう。だから、少しずつヘンなものを美しく見せるテクニックをギドクは努力して身につけていったんだろうなあ、と思います。ちょっと失礼な言い方かも知れないけど、ドニ・ラヴァンの存在自体もすごく奇抜でしょ。それらの奇抜なアイテムが浮いてしまっていて、全体を見渡すとギクシャクした印象になってしまったかな。でも、苦労してリシャール・ボーランジェとドニ・ラヴァンを口説き落としたってところは、ギドクの心意気を感じます。