Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

クワイエットルームにようこそ

2008-10-27 | 日本映画(か行)
★★★★ 2007年/日本 監督/松尾スズキ
「寄せ書きを捨てるということ」


「精神病院が舞台」というのは、題材として、とても難しいと思います。ひねくれ者の私は、患者たちの特異なムードを監督の「やりすぎ」「狙いすぎ」に感じることが多々あります。しかし、その特異性を描かないと、精神病院にならないですから、その塩梅をうまく表現することが大きなポイントなんでしょう。それで、思いっきり引いちゃったのが「ベロニカは死ぬことにした」。入院患者たちの舞台劇さながらの鷹揚な演技がダメでした。

ところが、本作で描かれている精神病棟の様子は、高校の女子寮みたいに見えなくもありません。りょう演じる看護師は、さしずめ鬼寮長と言ったところでしょうか。金の亡者に過食や拒食、引きこもり。どこぞの女子寮でも覗けば、こんな子たちがいそうです。常に脱走を試みる女子もいますし。ですから、精神疾患という、やや距離を置きがちな世界がとても身近な存在に見えてきます。ですから、「狙ってる」なんて穿った見方をせずに実にすんなり我が身に置き換えて見ることができました。

また、松尾スズキ監督のライトなノリが、本作ではうまくハマっています。そもそもタイトルである、拘束衣を着せさせられる独房を「クワイエットルーム」と表現する。そういった深刻なものをいったんライトなものに転換させて、観る側の興味を引きスムーズに心に落とさせる。そんなやり方が本作では成功していると思います。夫との生活が退屈で朝から晩までお笑い番組にのめり込むというのも、絵的には笑いを誘いますが、精神状態はずいぶん深刻ですよね。

明日香の経験したことは、言ってみれば、堕胎、離婚、仕事のストレスと、現代女性なら誰もが経験するかも知れない人生の分岐点。そんな彼女が隔離病棟の仲間たちとの交流によって、前を向いて生きることを選択する。しかし、病院を出るときには、寄せ書きを捨てること。このメッセージが、すごく効いています。人生をリスタートするためのほろ苦い選択。決別と決意。久しぶりの本格女優復帰となった内田有紀の演技もすがすがしく、なかなかの良作でした。