Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

奈緒子

2009-02-02 | 日本映画(な行)
★★★★☆ 2007年/日本 監督/古厩智之
「地味だけど、すごく好き」

大変いい映画だと思います。地味ですかね。この抑制ぶりが物足りないですかね。いえいえ、この暗いトーンの中に、何度もキラッ、キラッと光るものがありますね。この瞬間を見ることがたまらない快感でした。1時間経過したところで、この映画を見て良かったと既に思い始めたくらいです。

日頃スポーツとして駅伝をテレビなどで見ている人は、いわゆるリアリティのなさが引っかかってくるようです。しかし、私は全く気にならないのでした。三浦春馬くんは陸上経験があるんでしょうか。走る姿が大変美しい。これだけでも十分映画的な楽しさを味わえました。深々と卑屈なおじぎをし、自分の感情を表に出せない暗い少女奈緒子、まるで「のだめ」などどこ吹く風の上野樹里が堅実に演じています。やっぱり、この子はうまい。そして、まさか、べー師匠に泣かされるとは思いませんでした。なにゆえ、長崎で関西弁。しかし、実にしっくりと作品に馴染んでいる。いいなあ、と思うシークエンスには必ずべー師匠が絡んでいるのです。合宿中にいなくなり、部員同士の心がバラバラになりかけた頃、ぷかぷかと浮き輪につかまって登場するカット。あれには、やられました。

駅伝と言えば、いわゆる「たすき」をつなぐ、仲間たちの連帯感、友情。といったところがメインテーマになるのは、想像に難くなく、もちろんこの作品もそういうテーマが背景にはなっています。ラストの駅伝対決も結末としては大変ありきたりな展開です。おそらく、一歩転べば、ベッタベタの作品になります。そしてベタになるほどに、この手の物語はしらけてしまいます。しかし、古厩監督はこらえにこらえている。物語がふわりと浮いてしまうのを阻止するべく、常に重しをつけて地面から離れないようにしている。そんな演出に徹底していると思います。それが、逆に言えば感動できない、という感想にも繋がるのかも知れませんが、私はこういう筆致の作品がとても好きなのです。

「スイングガールズ」のような部活系映画や友情物語としてのカタルシスがある作品としての先入観は持たずにご覧いただきたいと思います。敢えて言うなら、前作「さよなら、みどりちゃん」と同じ。不器用な少年と少女が小さな一歩を踏み出す物語。その一歩に込められた思いや勇気を感じ取れたなら、大変心に残る作品になることは間違いありません。