Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

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2011-06-22 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 2011年/日本 監督/山下淳弘
<大阪ステーションシネマにて鑑賞>

「1秒、1秒に刻み込む渾身の演出」

大好きな山下監督、久々の新作。期待以上のすばらしい作品でした。

<全共闘運動が最も激しかった1960年代後半、週刊誌編集部で働く記者・沢田(妻夫木 聡)は、理想に燃えながら日々活動家たちの取材を続けていた。ある日、梅山と名乗る男(松山ケンイチ)から接触を受けた沢田は、武装決起するという梅山の言葉を疑いながらも、不思議な親近感と同時代感を覚えてしまう…>

妻夫木&松ケンというネームバリューのある俳優のW主演ってことで、ふたりがどんな演技をするのか期待して行ったわけですが、それよりもすばらしいのは、山下監督が全ての脇役陣に非常に緻密な演出をしていることです。知られたところでは、学生運動のカリスマである長塚圭史と山内圭哉が無茶苦茶いいですし、あがた森魚もいい。妻夫木くんの先輩の中平さんを演じる役者もとても印象的。そればかりか、例えば事件の尋問をするだけの一瞬の登場の俳優でも、それぞれがその役柄として見事に輝いているのです。

山下監督と言えば、独特の「間」が持ち味だったんですけど、本作は封印して、がっつりそれぞれの俳優を輝かせることに集中して演出しているのです。

さて、松ケン演じる左翼運動家。実にチンケな小者なんですね。その、チンケっぷりを松ケンが見事に演じています。時折見せる狂気はデス・ノートの「L」を思い出させますけど、こいつは「ニセモノ」。ニセモノのうさん臭さがぷんぷん臭って、いやホントに松ケンはうまいな。あの髪の毛をぺったり撫でつけた思いっきりダサイ風貌なんて、人気俳優ならもう少しスタイリストさんにキレイに見せるように頼んだら?といらぬ気づかいをしてしまうほどです。

だいたい、20歳や19歳で構成された5人ぽっきりのメンバーで左翼ゲリラ気取りも何もないですよ。安田講堂が落ちた後の、残り香って言うのかなあ。絞ったオレンジをまだ果汁が出るんじゃないかと絞り続けているような(笑)、そんな馬鹿馬鹿しさ、虚しさ。そういう雰囲気が実にうまく出されていましたね。そうそう、京大での撮影シーンでは熊切監督もメンバーのひとりだったみたいなんですけど、全然わかりませんでした。

妻夫木演じる記者にしたって、東大卒とはいえ、入ったばかりのド新人のくせにみんなから「ジャーナリスト」って、持ち上げられてね。それは、ないよね。でも、あの時代はそういう青くさい部分が誰にも突っ込まれずにいられた時代なんですよね。

思わぬ再会から始まるラストシーン。彼の流した涙の理由は何か。観客に様々な思いを想像させるすばらしいエンディングではないでしょうか。
ジャーナリスト気取りの自分が付いた嘘に対する罪の意識、地道に自分の人生を築き上げている友と自分との比較、そんないろんなものがないまぜになり、思わずあふれる涙。

とても良かったので、ぜひもう一度見たいです。