『Taxi to the Dark Side』
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2002年12月、アフガニスタンのピーナツ農家の次男ディラウォルは、遺体となって赤十字の職員に運ばれて無言の帰宅をした。
子どものころから乗り物好きだった彼の職業はタクシー運転手。市場で3人の客をひろって乗務中に民兵に拉致され、バグラム米軍基地で拷問を受けて亡くなったという。米軍が発行した死亡証明書には「他殺」の欄にマークが入っていた。だがそれを渡された遺族は英語をまったく解さなかった。赤十字も現地語で説明はしてくれなかった。
アメリカ同時多発テロ事件以降のアフガン侵攻、それに続くイラク戦争で数多くの一般市民がテロ容疑者として米軍に拘束され、多くが虐待され、拷問を受け、死亡事故も多発した。
ディラウォルというひとりの若者の死を軸に、米軍でどのような虐待と拷問がなぜ可能とされ繰り返されたのかを取材したドキュメンタリー。
2008年度アカデミー賞長篇ドキュメンタリー部門受賞作。
PRIME20周年記念国際シンポジウム「平和学のチカラ〜世界危機を読もう、考えよう、変えよう〜」での無料上映で鑑賞。
監督は未曾有の企業スキャンダルを題材にした『エンロン』で知られるアレックス・ギブニー。日本での一般公開は未定だそーです(50分バージョンがNHKで『闇へ』というタイトルで放送されている)。アメリカでは小規模な劇場公開はされたらしーけど、TVでの放送は一度中止になってそのままになってるとゆー。
まあでも無理だろね。だって長いもん(106分)。重いし。観ててちょー疲れたびー。内容はスゴイんだけどね。確かに。濃いです。けどねー、ドキュメンタリーを全編インタビューで構成されるとやっぱしんどいっすよ。何回もこれ書いた気がするけど(『敵こそ、我が友 戦犯クラウス・バルビーの3つの人生』『ヒストリー・オブ・ゲイシネマ』『FUCK』『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』他)。観ててめちゃ集中力要求されるから。
しかもムチャクチャ取材が細かいとゆーか緻密とゆーか綿密なんで、同じような話が証言者を変えては何十回も繰り返される。それさっき聞いたってば、ってシーンの連続。逆にいえばそれだけ証言に信憑性が高いってことなんだけど。
ただ映画としては同じ題材を拘束された生存者の側から描いたマイケル・ウィンターボトム監督の『グアンタナモ、僕達が見た真実』の方が断然見やすい。再現ドラマもうまく入ってたし、しっかり観客を意識した商業映画として完成してると思う。
2001年のアフガン侵攻以来、数万ともいわれる市民が「敵性戦闘員」の名のもとにとらえられ、ほんらい戦争捕虜の人権を守るべきジュネーブ協定の保護も受けられずに、轟音や光にさらされ続ける・眠りを奪われる・水を何ℓも点滴されてトイレを我慢させられる・逆さ吊りにされる・衣服を剥ぎ取られ下着を被らされたり人前での自慰行為を強要される、などといった異常な拷問を受けたという。
こうした拷問方法は実行犯である現場の尋問官が勝手にやってたわけではなくて、彼らも仕事なのできちんと上官に許可を申請している。だがその申請書には具体的な「量」は書かれていない。なるほどちょっと大きな音を聞かせるだけなら人権上さほど問題はないかもしれない。でも実際には被害者は何時間も、ときには何日も続けて手足を拘束されたまま虐待を受け続けていた。
そうして得た情報がどれほど米軍の役にたったのかはわからない。拷問を受けた者は誰でも、相手が求めるままに自白してしまうからだ。拷問で得た証言は裁判の証拠にはならないなんてのは法律に疎いぐりでも知ってる常識だけど、現に米軍は拷問されたテロ容疑者の嘘の証言に振り回された挙句、パウエル国務長官(当時)が辞任に追いこまれるに至っている。
なぜテロリストでもない「敵性戦闘員」がこれほど大量に拘束されたのか。
実はその95%以上はアフガニスタン軍(北軍)や民兵など、米軍含む多国籍軍とは別の現地の軍事関係者によって拘束され引き渡されていた。彼らの目当ては米軍の報奨金や被害者個人へのいやがらせ。アフガニスタン人が、イラク人が、私利私欲のために同胞を外国軍に売り渡したという。にわかには信じがたいが、それだからこそ米軍側は連れて来られた現地人が間違いなくなんらかの情報を持っているものと思いこんだのだろうか。そこのその根拠がぐりにはどうしてもわからなかった。
アフガンやイラクを題材にした映画を観るたび不思議になる。アメリカはいったい何をしにあんなところまでわざわざ出かけていったのか。どこをどうやって勝算があるとふんだのだろう。確かにアメリカの軍備は世界一だ。でも敵を知らなければ厳密な意味での勝算などみこめようはずもない。人種も文化も宗教も違う、まるっきり土地勘もない砂漠の国の何を、彼らは理解していたというのだろう。
ぐりにはどう考えても、この戦争には主体性というものがかけらも見い出せそうにない。
かつては米軍も捕虜を拷問せずに効率よく情報をひきだし、戦況を有利にコントロールしていた時代があった(『昨日の戦地から 米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア』ドナルド・キーン編/『日本兵捕虜は何をしゃべったか』山本武利著)。その時代の証言者もあっと驚く形で最後に登場する。なのに今じゃ「拘束されたときはテロリストじゃなくても、釈放されるころにはテロリストになってる(被害者の証言)」とゆーていたらくだ。
米軍という巨大組織が、いつ、どうしてこんなに変わってしまったのかが具体的に知りたかったんだけど、残念ながらなぜか質議応答は行われなかったのでよくわからないままになってしまった。誰か知ってたら教えてください。
先日就任したオバマ新大統領は未だに240〜250人が拘束されているグアンタナモ捕虜収容所の閉鎖を命ずる大統領令に署名したけど、今後彼らがどうなるのかはまだまったくの未定となっている。中には本国に送還されると身に危険が及ぶという人もいる。既に亡くなっている被害者遺族への補償問題もある。だいたいほとんどの被害者が裁判も受けず、拘束されて何年も弁護士をつけることすら許されていなかったのだ。
これはもはやアメリカだけの問題ではない気がする。この事実を見過ごし、許容してきたすべての現代人の罪なんじゃないかと思う。だって日本も含めた多くの国が、「テロとの戦い」を受け入れ、支持していたのだから。ヨーロッパでは「レンディション(国家間秘密移送)」という、拷問のアウトソーシングさえ行われていたのだから。
この映画の日本での上映権はアムネスティ・インターナショナル日本が保持していて、自主上映も受けつけている。詳細はHPで。
関連レビュー:
『リダクテッド 真実の価値』
『アメリカばんざい』
『告発のとき』
『キングダム─見えざる敵』
『華氏911』
『サラーム・パックス バグダッドからの日記』 サラーム・パックス著
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2002年12月、アフガニスタンのピーナツ農家の次男ディラウォルは、遺体となって赤十字の職員に運ばれて無言の帰宅をした。
子どものころから乗り物好きだった彼の職業はタクシー運転手。市場で3人の客をひろって乗務中に民兵に拉致され、バグラム米軍基地で拷問を受けて亡くなったという。米軍が発行した死亡証明書には「他殺」の欄にマークが入っていた。だがそれを渡された遺族は英語をまったく解さなかった。赤十字も現地語で説明はしてくれなかった。
アメリカ同時多発テロ事件以降のアフガン侵攻、それに続くイラク戦争で数多くの一般市民がテロ容疑者として米軍に拘束され、多くが虐待され、拷問を受け、死亡事故も多発した。
ディラウォルというひとりの若者の死を軸に、米軍でどのような虐待と拷問がなぜ可能とされ繰り返されたのかを取材したドキュメンタリー。
2008年度アカデミー賞長篇ドキュメンタリー部門受賞作。
PRIME20周年記念国際シンポジウム「平和学のチカラ〜世界危機を読もう、考えよう、変えよう〜」での無料上映で鑑賞。
監督は未曾有の企業スキャンダルを題材にした『エンロン』で知られるアレックス・ギブニー。日本での一般公開は未定だそーです(50分バージョンがNHKで『闇へ』というタイトルで放送されている)。アメリカでは小規模な劇場公開はされたらしーけど、TVでの放送は一度中止になってそのままになってるとゆー。
まあでも無理だろね。だって長いもん(106分)。重いし。観ててちょー疲れたびー。内容はスゴイんだけどね。確かに。濃いです。けどねー、ドキュメンタリーを全編インタビューで構成されるとやっぱしんどいっすよ。何回もこれ書いた気がするけど(『敵こそ、我が友 戦犯クラウス・バルビーの3つの人生』『ヒストリー・オブ・ゲイシネマ』『FUCK』『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』他)。観ててめちゃ集中力要求されるから。
しかもムチャクチャ取材が細かいとゆーか緻密とゆーか綿密なんで、同じような話が証言者を変えては何十回も繰り返される。それさっき聞いたってば、ってシーンの連続。逆にいえばそれだけ証言に信憑性が高いってことなんだけど。
ただ映画としては同じ題材を拘束された生存者の側から描いたマイケル・ウィンターボトム監督の『グアンタナモ、僕達が見た真実』の方が断然見やすい。再現ドラマもうまく入ってたし、しっかり観客を意識した商業映画として完成してると思う。
2001年のアフガン侵攻以来、数万ともいわれる市民が「敵性戦闘員」の名のもとにとらえられ、ほんらい戦争捕虜の人権を守るべきジュネーブ協定の保護も受けられずに、轟音や光にさらされ続ける・眠りを奪われる・水を何ℓも点滴されてトイレを我慢させられる・逆さ吊りにされる・衣服を剥ぎ取られ下着を被らされたり人前での自慰行為を強要される、などといった異常な拷問を受けたという。
こうした拷問方法は実行犯である現場の尋問官が勝手にやってたわけではなくて、彼らも仕事なのできちんと上官に許可を申請している。だがその申請書には具体的な「量」は書かれていない。なるほどちょっと大きな音を聞かせるだけなら人権上さほど問題はないかもしれない。でも実際には被害者は何時間も、ときには何日も続けて手足を拘束されたまま虐待を受け続けていた。
そうして得た情報がどれほど米軍の役にたったのかはわからない。拷問を受けた者は誰でも、相手が求めるままに自白してしまうからだ。拷問で得た証言は裁判の証拠にはならないなんてのは法律に疎いぐりでも知ってる常識だけど、現に米軍は拷問されたテロ容疑者の嘘の証言に振り回された挙句、パウエル国務長官(当時)が辞任に追いこまれるに至っている。
なぜテロリストでもない「敵性戦闘員」がこれほど大量に拘束されたのか。
実はその95%以上はアフガニスタン軍(北軍)や民兵など、米軍含む多国籍軍とは別の現地の軍事関係者によって拘束され引き渡されていた。彼らの目当ては米軍の報奨金や被害者個人へのいやがらせ。アフガニスタン人が、イラク人が、私利私欲のために同胞を外国軍に売り渡したという。にわかには信じがたいが、それだからこそ米軍側は連れて来られた現地人が間違いなくなんらかの情報を持っているものと思いこんだのだろうか。そこのその根拠がぐりにはどうしてもわからなかった。
アフガンやイラクを題材にした映画を観るたび不思議になる。アメリカはいったい何をしにあんなところまでわざわざ出かけていったのか。どこをどうやって勝算があるとふんだのだろう。確かにアメリカの軍備は世界一だ。でも敵を知らなければ厳密な意味での勝算などみこめようはずもない。人種も文化も宗教も違う、まるっきり土地勘もない砂漠の国の何を、彼らは理解していたというのだろう。
ぐりにはどう考えても、この戦争には主体性というものがかけらも見い出せそうにない。
かつては米軍も捕虜を拷問せずに効率よく情報をひきだし、戦況を有利にコントロールしていた時代があった(『昨日の戦地から 米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア』ドナルド・キーン編/『日本兵捕虜は何をしゃべったか』山本武利著)。その時代の証言者もあっと驚く形で最後に登場する。なのに今じゃ「拘束されたときはテロリストじゃなくても、釈放されるころにはテロリストになってる(被害者の証言)」とゆーていたらくだ。
米軍という巨大組織が、いつ、どうしてこんなに変わってしまったのかが具体的に知りたかったんだけど、残念ながらなぜか質議応答は行われなかったのでよくわからないままになってしまった。誰か知ってたら教えてください。
先日就任したオバマ新大統領は未だに240〜250人が拘束されているグアンタナモ捕虜収容所の閉鎖を命ずる大統領令に署名したけど、今後彼らがどうなるのかはまだまったくの未定となっている。中には本国に送還されると身に危険が及ぶという人もいる。既に亡くなっている被害者遺族への補償問題もある。だいたいほとんどの被害者が裁判も受けず、拘束されて何年も弁護士をつけることすら許されていなかったのだ。
これはもはやアメリカだけの問題ではない気がする。この事実を見過ごし、許容してきたすべての現代人の罪なんじゃないかと思う。だって日本も含めた多くの国が、「テロとの戦い」を受け入れ、支持していたのだから。ヨーロッパでは「レンディション(国家間秘密移送)」という、拷問のアウトソーシングさえ行われていたのだから。
この映画の日本での上映権はアムネスティ・インターナショナル日本が保持していて、自主上映も受けつけている。詳細はHPで。
関連レビュー:
『リダクテッド 真実の価値』
『アメリカばんざい』
『告発のとき』
『キングダム─見えざる敵』
『華氏911』
『サラーム・パックス バグダッドからの日記』 サラーム・パックス著