『らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】』 まりも著
最近、ポッドキャストで朗読を聞きながら仕事するのがマイブームでして。
アレ、いいですねー。だいたいは中学や高校で読んで内容忘れちゃってる文学作品なんかを、アンニュイな声音で淡々と読むのを聞いてると心も落ち着くし、本を自分で読むんじゃないから作業そのものの邪魔にはならないし。音楽聴きながら仕事ができないぐりにはもってこいでございます。
ちょっと前までは落語を聞いてたんだけど、噺家さんのノリがイマイチだったりすると逆にアラが気になっちゃったりしてね。あとお笑い芸人の深夜放送のポッドキャストもちょいちょい聞いてます。ニュース番組も聞きます。
それはさておきー。ぐりは本は好きだけど、ネット小説ってほとんど読んだことがない。ポッドキャストもそうなんだけど、ネットの文章って章をとばしたり戻ったりして確認しながら読むってことが難しいじゃないですか。できなくはないけど、めんどう。ケータイ小説なんかでそんなことしたらパケット代がおーそろしーことになってしまいそーですー。
この『らぶどろっぷ』は先日参加したポラリスプロジェクトのセミナーで紹介されて読んでみた。
17歳で家出した少女の転落と再生の物語。著者自身の体験に基づくノンフィクションとうたわれている。ってかケータイ小説?ネット小説ってそんなんばっかしでだいたい眉唾でしょーとゆーのが常識なんだろーけど、これはたぶんほんとにノンフィクションなんじゃないかなー?なにしろ彼女は『元AV嬢』というそのままなタイトルで既に一冊本を出している、実在の本物の“元AV嬢”ですから。登場人物も実在してるみたいで、ちょっと調べれば特定できるプチ有名人も出てくる。
サブタイにも“元AV嬢”と書いているが、彼女が経験した職業はAVだけではない。17歳で家出したあとの経歴は歌舞伎町の元キャバ嬢、元クラブホステス、元極道の女、元グラビアモデル、元TVタレント、元ストリップダンサー。堅実なサラリーマンと結婚して平凡な主婦になりたいと夢見たこともあれば、些細なきっかけで手を出したマリファナにハマりスピードを覚え覚醒剤中毒になって精神病院の閉鎖病棟に入院したこともある。これだけのことを彼女はたった5年間で体験してしまった。まさにジェットコースター人生の見本みたいなものだ。本人も女の転落人生としては陳腐だと自ら書いているが、これがノンフィクションでなければ誰も鼻もひっかけないだろう。文章も稚拙だし、誤字脱字も満載です。後から削ったパートでもあるのか、辻褄のあわないところ、かんじんの過程が意味もなく省略されているパートも目につく。
それでもこの手記は一読に値する。
彼女は家出したその足でキャバ嬢になり、給料を洋服やディスコ遊びに湯水のように遣いまくり、あっという間に援助交際までやるようになる。好奇心で暴力団幹部の愛人になってみたり、数ヶ月後に結婚を予定していながらなりゆきでAVに出演したりする。誰もが憧れるナンバーワンホストと交際しているのに、新人アルバイトに乗り換えて修羅場を演じてしまう。年下の真面目な恋人を心から愛していながら、ふたりもろとも覚醒剤にハマっていく。運命の人と数々の困難を乗り越えて結ばれるはずが、突然現れた有名人によろめいて大事な彼氏を家から追い出してしまう。17歳で最初の子を中絶した経験があるのに、その後も妊娠しては中絶を繰り返す。
一見脈絡がなく行き当たりばったりの無軌道な彼女の行動だが、手記にはそこに至るまでの彼女の正直な心情がごく素直に書かれている。自分でも行き当たりばったりで無軌道なことはわかっている。でも彼女はこうしたい、と思ったら即刻実行せずには我慢ができない。その実感が、そのまま書かれている。シャネルのピアスが欲しくて援助交際をした、どこへ行っても姐さんと呼ばれてみんなにかしずかれるのが気持ちよかった、クスリをキメたときの全身が覚醒する全能感、中毒になってからの誇大妄想の地獄、それらを緻密に綴った言葉そのものはごく活き活きとしていて、実際に体験していない人間にここまで鮮明に描写できるものなのかどうかわからないくらいだ。
少なくとも、医者の家に生まれ親兄弟にも恵まれ何不自由なく育てられたふつうの女の子だったはずの著者が、どうしてここまで堕ちなくてはならなかったかというほんとうの理由が、読めばちゃんと理解することができる。生きた実感がそこに漲っているから。
風俗嬢やAV嬢を含め性産業従事者を蔑視する人はほんとうに多い。
だが彼ら・彼女たちがなぜそこまで行き、そしてとどまっているのかを、どれだけの人がまともに認識し、自らの価値観でジャッジしているのだろう。
著者自身はこんな仕事はぜんぶカネのためだという。おそらく全員がそうだとはいいきれないだろうけど、多数派であることは間違いないだろう。なぜならそこではカネが全ての価値を決定するからだ。男がカネを出して裏ビデオを買う。デリへルを呼ぶ。そのカネがヤクザの収入になる。ヤクザはそのカネで若い女と遊ぶ。若い女は小遣いで着飾り、ホストと遊ぶ。ホストは女たちから巻き上げるカネでクルマや宝飾品を買い集めては見栄を飾り立て、しぼれるだけしぼりとって風俗に売り飛ばす。売り飛ばされた女はまた別の男とセックスしてカネをもらう。
カネとセックスの食物連鎖。その世界ではカネを持っている人間、カネを動かせる人間だけが尊敬される。ブランドものの服もバッグも靴も時計も高級車もドンペリも、全部それをわかりやすく表わす記号でしかない。そんな価値観が貧しいだなんて誰ひとり思わない。全員が蟻地獄でドッグレースをやってるようなものだ。悲しい話だ。
この手記は未完で、全体の4分の3ほどのところまでで更新がストップしている。
だが著者は現在は結婚して子育て中だというから、結末がまったくの不明というわけでもない。
できれば最後まで読みたいけど、新たに進展する可能性があるかどうかはよくわからない。
未完でも読みでのある文ではあるけどね。まーしかしここまで直情径行的に恋愛に突っ走れる性格はある意味羨ましいわー。あたしにゃ絶対真似できない。ナニゲに同世代らしくって(たぶんぐりより1〜2歳下)読んでて懐かしい場面も出てきたりするんだけどねえ。同じ女とは思えないです。情けないことに。
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関連レビュー:『すべては「裸になる」から始まって』 森下くるみ著
最近、ポッドキャストで朗読を聞きながら仕事するのがマイブームでして。
アレ、いいですねー。だいたいは中学や高校で読んで内容忘れちゃってる文学作品なんかを、アンニュイな声音で淡々と読むのを聞いてると心も落ち着くし、本を自分で読むんじゃないから作業そのものの邪魔にはならないし。音楽聴きながら仕事ができないぐりにはもってこいでございます。
ちょっと前までは落語を聞いてたんだけど、噺家さんのノリがイマイチだったりすると逆にアラが気になっちゃったりしてね。あとお笑い芸人の深夜放送のポッドキャストもちょいちょい聞いてます。ニュース番組も聞きます。
それはさておきー。ぐりは本は好きだけど、ネット小説ってほとんど読んだことがない。ポッドキャストもそうなんだけど、ネットの文章って章をとばしたり戻ったりして確認しながら読むってことが難しいじゃないですか。できなくはないけど、めんどう。ケータイ小説なんかでそんなことしたらパケット代がおーそろしーことになってしまいそーですー。
この『らぶどろっぷ』は先日参加したポラリスプロジェクトのセミナーで紹介されて読んでみた。
17歳で家出した少女の転落と再生の物語。著者自身の体験に基づくノンフィクションとうたわれている。ってかケータイ小説?ネット小説ってそんなんばっかしでだいたい眉唾でしょーとゆーのが常識なんだろーけど、これはたぶんほんとにノンフィクションなんじゃないかなー?なにしろ彼女は『元AV嬢』というそのままなタイトルで既に一冊本を出している、実在の本物の“元AV嬢”ですから。登場人物も実在してるみたいで、ちょっと調べれば特定できるプチ有名人も出てくる。
サブタイにも“元AV嬢”と書いているが、彼女が経験した職業はAVだけではない。17歳で家出したあとの経歴は歌舞伎町の元キャバ嬢、元クラブホステス、元極道の女、元グラビアモデル、元TVタレント、元ストリップダンサー。堅実なサラリーマンと結婚して平凡な主婦になりたいと夢見たこともあれば、些細なきっかけで手を出したマリファナにハマりスピードを覚え覚醒剤中毒になって精神病院の閉鎖病棟に入院したこともある。これだけのことを彼女はたった5年間で体験してしまった。まさにジェットコースター人生の見本みたいなものだ。本人も女の転落人生としては陳腐だと自ら書いているが、これがノンフィクションでなければ誰も鼻もひっかけないだろう。文章も稚拙だし、誤字脱字も満載です。後から削ったパートでもあるのか、辻褄のあわないところ、かんじんの過程が意味もなく省略されているパートも目につく。
それでもこの手記は一読に値する。
彼女は家出したその足でキャバ嬢になり、給料を洋服やディスコ遊びに湯水のように遣いまくり、あっという間に援助交際までやるようになる。好奇心で暴力団幹部の愛人になってみたり、数ヶ月後に結婚を予定していながらなりゆきでAVに出演したりする。誰もが憧れるナンバーワンホストと交際しているのに、新人アルバイトに乗り換えて修羅場を演じてしまう。年下の真面目な恋人を心から愛していながら、ふたりもろとも覚醒剤にハマっていく。運命の人と数々の困難を乗り越えて結ばれるはずが、突然現れた有名人によろめいて大事な彼氏を家から追い出してしまう。17歳で最初の子を中絶した経験があるのに、その後も妊娠しては中絶を繰り返す。
一見脈絡がなく行き当たりばったりの無軌道な彼女の行動だが、手記にはそこに至るまでの彼女の正直な心情がごく素直に書かれている。自分でも行き当たりばったりで無軌道なことはわかっている。でも彼女はこうしたい、と思ったら即刻実行せずには我慢ができない。その実感が、そのまま書かれている。シャネルのピアスが欲しくて援助交際をした、どこへ行っても姐さんと呼ばれてみんなにかしずかれるのが気持ちよかった、クスリをキメたときの全身が覚醒する全能感、中毒になってからの誇大妄想の地獄、それらを緻密に綴った言葉そのものはごく活き活きとしていて、実際に体験していない人間にここまで鮮明に描写できるものなのかどうかわからないくらいだ。
少なくとも、医者の家に生まれ親兄弟にも恵まれ何不自由なく育てられたふつうの女の子だったはずの著者が、どうしてここまで堕ちなくてはならなかったかというほんとうの理由が、読めばちゃんと理解することができる。生きた実感がそこに漲っているから。
風俗嬢やAV嬢を含め性産業従事者を蔑視する人はほんとうに多い。
だが彼ら・彼女たちがなぜそこまで行き、そしてとどまっているのかを、どれだけの人がまともに認識し、自らの価値観でジャッジしているのだろう。
著者自身はこんな仕事はぜんぶカネのためだという。おそらく全員がそうだとはいいきれないだろうけど、多数派であることは間違いないだろう。なぜならそこではカネが全ての価値を決定するからだ。男がカネを出して裏ビデオを買う。デリへルを呼ぶ。そのカネがヤクザの収入になる。ヤクザはそのカネで若い女と遊ぶ。若い女は小遣いで着飾り、ホストと遊ぶ。ホストは女たちから巻き上げるカネでクルマや宝飾品を買い集めては見栄を飾り立て、しぼれるだけしぼりとって風俗に売り飛ばす。売り飛ばされた女はまた別の男とセックスしてカネをもらう。
カネとセックスの食物連鎖。その世界ではカネを持っている人間、カネを動かせる人間だけが尊敬される。ブランドものの服もバッグも靴も時計も高級車もドンペリも、全部それをわかりやすく表わす記号でしかない。そんな価値観が貧しいだなんて誰ひとり思わない。全員が蟻地獄でドッグレースをやってるようなものだ。悲しい話だ。
この手記は未完で、全体の4分の3ほどのところまでで更新がストップしている。
だが著者は現在は結婚して子育て中だというから、結末がまったくの不明というわけでもない。
できれば最後まで読みたいけど、新たに進展する可能性があるかどうかはよくわからない。
未完でも読みでのある文ではあるけどね。まーしかしここまで直情径行的に恋愛に突っ走れる性格はある意味羨ましいわー。あたしにゃ絶対真似できない。ナニゲに同世代らしくって(たぶんぐりより1〜2歳下)読んでて懐かしい場面も出てきたりするんだけどねえ。同じ女とは思えないです。情けないことに。
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