OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

基本!

2006-02-07 18:44:39 | Weblog

基本を大切にすることが、良い仕事に繋がる! 本日、そんな説教をしてしまった私は、次の瞬間から恥かしさに身も縮む思いです。そこで基本を大切にしたアルバムを――

Jazz At Massey Hall / The Quintet (debut)

ジャズの真髄を極めるにはチャーリー・パーカー(as) を聴くしかない! というのが、私の結論です。もちろんチャーリー・パーカーとは、1940年代にビバップという全く新しいジャズを作り出した天才黒人アルトサックス奏者で、以降、あらゆるジャズメンはパーカーの影響から脱していませんので、私の考えもあながち暴論でも無いはずですが、しかし、パーカーを聴くことは、なかなか容易ではありません。

それは残された録音の多くがSPフォームの3分程度の演奏であり、当然、音も現代感覚からして良いとは言えません。またパーカーは30代で早世したので、スタジオ録音が少なく、それゆえに没テイクまでもが貴重な世界遺産になるほどですが、同時に劣悪なライブ音源が膨大に残されているという、嬉しくもジャズファン泣かせの天才です。

当然、アルバム単位で作られた作品など無く、LPやCDになっているものは、寄せ集めの編集盤ということです。しかし、その中で唯一、アルバムを意識して発表されたのが、今回ご紹介のライブ盤です。

メンバーはディジー・ガレスピー(tp)、チャーリー・パーカー(as)、バド・パウエル(p)、チャールズ・ミンガス(b)、マックス・ローチ(ds) というオールスターズで構成された文字通りの「ザ・クインテット」で、録音は1953年5月15日、カナダのマッセイ・ホールにおけるコンサートからの音源です。

ちなみにこの録音はギャラで揉めたミンガスが、白人によるピンはね分を後日に回収しようと目論んだという噂がありますし、実際、発売したデビューというレーベルは、ミンガスとマックス・ローチが設立とたレコード会社なのです。

また、当日はお客の入りが悪く、盛り上がりを心配したパーカーがお客といっしょに酒を飲んで演奏していたというエピソードも残されています。

肝心の演奏は、特にリズム隊が素晴らしく、中でもバド・パウエルの出来は上々♪ ガレスピーも凄さを披露しますが、パーカーはまあまあというところでしょうか……。しかしそれでさえ、余人は足元にも及ばぬ天才性を発揮しています。

ところで曲それぞれに触れるまえに、このアルバムの構成ですが、私の持っているアナログ盤LPと後に出たCDでは、アナログ盤で言えばAB面が逆転しています。どうやらCDはコンサートと同じ曲順に拘ったようなので、ここでもそれに従ってみることに致します。

で、1曲目の「Wee」はアップテンポの激烈な演奏で、テーマが終わった瞬間からパーカーが猛烈な勢いでぶっ飛ばします。この勢いがパーカーだけの天才性の証明です。しかもモダンジャズのオフ・ビート・リズムに対するアドリブメロディのノリが緩急自在で、それが独特のドライブ感に繋がっているわけです。それはガレスピーも同様ですが、このリズムに対するアプローチがパーカーに比べると、やや一本調子……。しかしそれでも素晴らしい演奏です。

そしてさらに続くパウエルが物凄い勢いです。このエキセントリックな表現は、パウエルもまた天才! という他はありません。またマックス・ローチの興奮度の高いドラムソロも最高で、実は私が初めて聴いたローチの演奏がこれでした。そして「なんだ、メル・テイラーにそっくりだなぁ」なんて不遜なことを思ったりしたのですが、もちろんメル・テイラーとはベンチャーズのドラマーで、それは影響が反対というのが真相です。まあ、そんなこともあって、このアルバムは一気に親しみ易いものになりました。

2曲目の「Hot House」もビバップを代表する名曲で、コード進行をスタンダード曲から流用しているために、アドリブパートではセンスの良いメロディ感覚が要求されるわけですが、先発でソロを聴かせるパーカーは全く余裕の演奏♪ わざとハズしたような出だしからダブルテンポのフレーズへ楽々と展開させていくあたりの何気なさは、最高です。ただ全体の構成がその繰り返しなので、初めてパーカーを聴く皆様には??? かもしれません。

しかしここで凄いのがガレスピーです。ハイノートを効果的に使って盛り上げ、さらに楽しい歌心も披露してファンを魅了します。

3曲目はお馴染みの「チェニジアの夜」で、ブレイクでお約束のパーカー・フレーズが飛び出していますが、続くソロパートでのパーカーの物凄さ! 音の跳躍力と瞬発力は流石です。またそれを煽るマックス・ローチのポリリズム的なドラムスにも気持ち良くノセられてしまいます。もちろんここでのガレスピーも強烈で、生涯の名演のひとつだと思います。そしてバド・パウエル! 何も言えない……。

4曲目の「Perdido」はデューク・エリントン楽団で有名なヒット曲ですが、モダンジャズでも頻繁に取上げられる定番ということで、全員が十八番のリックを出しまくり♪ パーカーがリラックスした中にもテンションの高いフレーズを繰り出せば、ガレスピーは歌心と遊び心のバランスが絶妙なソロを聴かせます。マックス・ローチのドラムスの快適さも言わずもがなで、パウエルも独特のマイナーコードを用いて素敵です。

そして次が強烈な「Salt Peanuts」です! これぞビバップという猛烈なドライブ感とスピードに満ちたエキセントリックな曲調が、「ソルトピーナッツ」という茶化した掛声で中和され、アドリブパートで再び昇天していくという狙いがありますが、なにしろここでのパーカーは筆舌に尽くしがたい猛烈さがあります。こんな演奏は人間技ではありません!

続くガレスピーも強烈ですし、さらにはパウエルまでもが神がかりという圧巻の出来ですから、もう絶句です! おそらく当夜の最高の演奏が、これです。

この興奮を鎮めてくれるのが、最後の「All The Things You Are」ですが、これは当日の演奏ではなく、さらにピアニストも交代しているらしいのですが……。それゆえか、なんかピアノだけが別キーで弾いているように感じます。全体のソロも、これ以前に比べて低調な雰囲気……。まあ、それもアルバムの編集意図ということでしょうか?

ちなみにこのアルバムが発売されるにあたり、チャールズ・ミンガスが自分のベースパートだけオーバーダブしたのは有名な逸話です。また曲そのものも多少の編集があり、元々のオリジナルテープをCD化した日本盤も、以前出回りましたが、まずは初回発売のバージョンを聴けば満足すると思います。

で、肝心のチャーリー・バーカーについて、その真髄はここで聴かれるようなものではありません。もっともっと強力な演奏が膨大に残されております。しかし聴き易さというか、モダンジャズ入門も含めて、まずはこのあたりから徐々にパーカーの凄みに触れていくのもひとつの道かと思います。

贔屓の引き倒しかもしれませんが、実はこの演奏があった当時、ビバップは白人ジャズにそのエッセンスを持っていかれ、結局、大衆に受けないまま下火になりかかっていました。しかしモダンジャズのひとつの完成性としての価値は充分あるはずです。

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