今日は、これからのネタということで、いろいろなアナログ盤を整理しました。けっこう忘れていたブツや、えっ、というような絶句盤も出してみましたが、あらためて自分の節操の無さに呆れかえりました。それらは追々にご紹介するとして、まずは本日の1枚です――
■Off To The Races / Donald Byrd (Blue Note)
タイトルからして、何か政治的なものを含んでいるの? と思いきや、中身は王道バリバリのハードバップです。メンバーはドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ペッパー・アダムス(bs)、ウイントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds) という無敵の6人組! 特にフロントの3人はドナルド・バードを核として結ばれた盟友なので、息もピッタリの熱演を展開するのです。録音は1958年12月2日とされています――
A-1 Lover Come Back To Me
バードを中心に3管でキメを入れた後、アップテンポで一気呵成にテーマからアドリブパートになだれこんで行く痛快な演奏になっています。もちろんそこはドナルド・バードの独壇場ですが、続くペッパー・アダムスがハードドライブに対抗するので、ドナルド・バードがもう1回、凄まじいアドリブで現場を収める始末です。そしてジャッキー・マクリーンに至っては、ややワザとらしいスケールアウトしたフレーズまで繰り出す弾けっぷりです。
こういうフロント陣を支えるリズム隊も堅実かつ躍動的で、クライマックスはドナルド・バードとアート・テイラーの一騎打ち! これぞハードバップという快演です。
A-2 When Your Love Has Gone
泣きを含んだスタンダードの名曲を、ドナルド・バードは朗々と吹奏していきますが、ややケレン味が強い田舎芝居という雰囲気が漂います。まあ、あまりにも分かり易いということですが……。ちなみにこれは完全にリーダーの一人舞台になっています。
A-3 Sudwest Funk
タイトルどおり、ドナルド・バードが作曲したファンキーなブルースです。なにしろイントロからウイントン・ケリーが十八番のリックを連発してペースを設定、そこへ3管で演じられるファンキーこの上も無いテーマが被さってきます。ここではドナルド・バードのトランペットに少~し、エコーがかけられているという芸の細かさが雰囲気を盛り上げています。もちろん先発のアドリブ・ソロではお約束のフレーズをたっぷり聞かせてくれますが、なんといっても最初のブレイクがジャズ者にはたまらんはずです。
続くジャッキー・マクリーンもブルースならばこれっ、という吹奏ですし、ちなみにこれは「Cool Struttin'」ではありませんよっ♪ またペッパー・アダムスも白人ながら、誰よりも黒~いフレーズで一刀両断のド迫力を聞かせます。おまけに、やっぱりウイントン・ケリーです! 粘りと歯切れの良さを両立させた素晴らしい演奏を披露するのです。そして最後にリズム隊の何気ない凄さ! サム・ジョーンズの硬派なベースワークとアート・テイラーのシンバルの美学♪ これはイントロから最後まで、じっくり聴くと寒気がしてくるほどゾクゾクします。
B-1 Paul's Pal
ソニー・ロリンズが作曲した和み系のソフトバップなので、演奏者の各々が持ち味を如何に出すかという部分が堪能出来ます。まずウイントン・ケリーがテーマのサビで良い味を出しまくりです♪ そしてアドリブ・パート先発のジャッキー・マクリーンが泣きじゃくり、ペッパー・アダムスが意外な歌心を披露していきますが、何と言ってもドナルド・バードが美しい音色と豊かな情緒を全開させているのには、思わず惹き込まれます。正直言うと、この人は何を演じても同じようなフレーズばかり吹いているのですが、それが安心感に繋がっているという、まさに王道派の第一人者なのですねぇ。
B-2 Off To The Races
アルバムタイトル曲はもちろんドナルド・バードの作曲ですが、これ以前にも別な曲名がつけられて録音も残されている、まあ、十八番のナンバーです。例えばこのアルバムと同じ年の4月に録音されたペッパー・アダムスのリーダー盤「10 To 4 At The 5 Spot (Riverside)」では「The Long 2-4」というタイトルで熱演が繰り広げられていました。
で、ここでもアート・テイラーのマーチ風なドラムスが刺激的なテーマから、ジャッキー・マクリーンが面目躍如の大暴れ! 続くドナルド・バードも滑らかに、そしてパワフルに歌心を全開させていきます。そしてペッパー・アダムスはブリブリモクモクと重くハードに迫ってくるのです。
しかしリズム隊も負けていません。ウイントン・ケリーはメチャ、弾けていますし、実はこの曲の主役であるアート・テイラーのドラムスが、ソロでも、バックでも大爆発しているのです。この人の熱演なくして、この曲は成り立たなかったと言うべきでしょう。流石です。
B-3 Down Tempo
オーラスは顔見世的なブルースがゴスペル風味で演奏されますが、もちろん楽しいテーマはドナルド・バードのオリジナルです。とにかくウイントン・ケリーのイントロが始まっただけで、ウキウキしてきます。アート・テイラーのゴスペルなシンバルも素晴らしく、厚みのある3管のテーマ吹奏に続いて始まるサム・ジョーンズのベースソロは、もう真っ黒です♪ そして滑り込んでくるペッパー・アダムスのバリトンは、思わずニヤリとするフレーズの連続ですし、ドナルド・バードはお馴染みのリックの連発で安心感がたっぷり、ジャッキー・マクリーンは激情のファンキー節という仕掛けです。
ということで、これはドナルド・バードの作品中では、あまりジャズマスコミには取上げられない1枚ですが、実はジャズ者は皆、聴けば虜の人気盤だと思います。つまり食わず嫌い盤ということですね。
その魅力はペッパー・アダムスを含む3管の迫力吹奏と充実のリズム隊ということで、しかも荒っぽくならず、あくまでも「味の世界」で勝負したところが、成功の秘密だと思います。実際、黒人2人の挟まれる形で熱演するペッパー・アダムスは、所謂オレオ・ビスケットですが、気後れすることなく、いつも以上の馬力を披露しています。
またリズム隊はハードエッジで黒い魂が燃え上がるという強烈なグルーヴを産み出しており、あぁ、このトリオだけで1枚でも録音されていたらなぁ……、と思わずにはいられません。資料的にもこの3人がリズム隊を構成した録音は、もう1枚、ジェームズ・クレイ(ts) のリバーサイド盤しか無いと思います。
そのあたりも含んで、これはハードバップを代表するアルバムであり、そしてドナルド・バードは区切りをつけたかのように、次なる展開へと進みます。それはファンキーもソフトバップもモードもジャズロックをも包括していく汎用ジャズだったと思われるのですが……。
とりあえず、このアルバムはぜひとも聴いていただきたいと願っています。安心感は大切なもんですよ。