OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

大らかなロリンズ

2006-02-15 18:35:56 | Weblog

今日はPCトラブルで大切なファイルを失い、作り直しに時間を取られてしまいました。さらに若い者の仕事ミスなんかが重なって、仕事場の雰囲気も硬直、精神的にも不安定……。

そんな時はこれを聴くようにしています。大らかな気分になれるんですよ――

Sonny Rollins & The Comtemporary Keaders (Comtemporary)

ジャズでアドリブの大名人と言えば、黒人テナーサックス奏者のソニー・ロリンズを外すわけにはいきません。天衣無縫のリズム感に支えられた大胆なアドリブ・メロディの組み立ては、即興の神髄でもあり、また最初っから緻密に練り上げられていたのか? と思わせる完成度があるのです。

その実力は超名盤「サキソフォン・コロッサス(ブレスティッジ)」を筆頭に数多く残されていますが、その天才性ゆえか、時には???という録音があるのも、また事実です。特にこのアルバムは好き嫌いと賛否両論がはっきりしている最右翼の1枚でしょう。

メンバーはソニー・ロリンズ(ts) 以下、共演者はバーニー・ケッセル(g)、ハンプトン・ホーズ(p)、リロイ・ビネガー(b)、シェリー・マン(ds)、ビクター・フェルドマン(vib) という、タイトルどおりにコンテンポラリー・レーベルでリーダー盤を出している猛者達で、録音は1958年10月20~22日とされています。

この頃のロリンズはハードバップ黄金時代に歩調を合わせたかのような絶頂期でしたが、何故か特定のレーベルに所属しておらず、ここでも単発の契約によるセッションとなりましたが、それゆえにレーベルサイドはオールスターのメンツで一期一会の録音を目論んだのですが、その結末は――

A-1 I've Told Ev'ry Little Star
 悠然とテーマを吹奏するロリンズを快適なスイング感で支えるリズム隊の出だが、まず出色です。続くアドリブパートでも、ロリンズは何時ものペースで豪快に、そして変幻自在に吹きまくりますが、面白いのはそれが突如終了したかのような雰囲気で、リズム隊が延々と伴奏だけを続けてしまうパートがあることです。これは打ち合わせ不足か、それとも何かの勘違いか? しかしそこがまたジャズを聴く楽しみで、その場にサッと漂う緊張感がたまりませんし、それを巧に演奏のスリルに繋げていくメンバーの場馴れした態度は、貫禄の成せる技でしょう。ここではシェリー・マンのドラムスが刺激的ですし、よしっ、とばかりに出てくるハンプトン・ホーズやバーニー・ケッセルも好演です。そして再登場するロリンズが、これまた強烈です。

A-2 Rock-A-Bye Your Baby With A Dixe Melody
 これもいきなりロリンズが悠然と楽しいテーマメロディを吹き始めますが、それにピシッと合わせるリズム隊のタイトなノリも最高♪ ですからロリンズもその上で自由に飛翔と急降下を繰返すアドリブ構成で勝負しています。特に元メロディを巧に崩す技は抜群の上手さで、本当に楽しくなる演奏です。

A-3 How High The Moon
 実は録音テスト用のリハーサル音源らしいです。したがってロリンズも適当に吹いているだけなのですが、これが逆に面白いというか、間のとり方とかリズムに対するアプローチが唯一無二のロリンズ節になっています。共演者はバーニー・ケッセルのギターがロリンズのバックでつけるコード弾きに神髄を発揮、またリロイ・ビネガーのベースも素晴らしいと思います。
 というように、この演奏はロリンズ、ケッセル、そしてビネガーの3人だけで演じられているのですが、それがロリンズの奥義の秘密を解き明かすかのようなところがあって、個人的にはとても好きです。

A-4 You
 これまた、いきなりロリンズが吹き始めるという、強烈なアップテンポのアレンジになっていますが、アドリブ先発のビクター・フェルドマンのバイブラフォーンが痛快です。もちろん続くロリンズも爆発的にドライブしています。そしてこの2人によるアドリブの応酬が山場を作り出していくのでした。

B-1 I've Found A New Baby
 このアルバムのハイライトはこの曲だと思います。と、いきなり結論を出してしまいましたが、まず絶妙なドライブ感でロリンズがアドリブでイントロを作り、そのまんまの勢いでテーマを吹奏、快適なリズム隊の伴奏に煽られて何処までも飛んでいってしまいそうな、まさに即興演奏を聞かせてくれます。特に1分28秒目からのコーラスでは執拗に単音を繰返す、所謂モールス信号フレーズに突入! これはロリンズ以外の者がやると完全にイモ扱いになる危険な遣り口なんですが、抜群のリズム感とそれをさらにフェイクしていく天才的なアドリブの力量で、もう、これなくしては聴いていられないという名演を生み出しています。
 また途中にはコルトレーンを意識したかのような、ウネウネモリモリの過剰音までも繰り出すロリンズには、他のメンバーがつけ入るスキもなく、全篇がロリンズの一人舞台になっているのでした。

B-2 Alone Together
 ハンプトン・ホーズのイントロからリズム隊によるテーマ提示、さらにバーニー・ケッセルのアドリブが続くので、あれっ? と思わせますが、思いっきりハズシながら突如として現れるロリンズはやっぱり鮮やかです。その後の展開もかなり破天荒なフレーズの連発で、またまた突然演奏を止めてしまうあたりは、一筋縄でいかない雰囲気が横溢しています。
 つまり物凄く纏まりの悪い演奏なんですが、ジャズとしてのスリルは一級品! 実はこれを畢生の名演と高く評価しているファンもいるんです……。が、正直、私には???です。

B-3 In The Chapel In The Moonlight
 このアルバムでは唯一のスロー曲ということで、じっくりとロリンズの歌心に浸りたいところですが、イマイチ、この天才にしては完成度が低いように思うのは、私の気のせいでしょうか……。

B-4 The Song Is You
 急速調の展開にテンポが乱れに乱れる???の仕上がりです。シェリーマンのドラムスも、リロイ・ビネガーのベースも全くスイングしていません。ハンプトン・ホーズも一人相撲ですし、ロリンズはやりたい放題というか、早く終わって帰りたいよぉ~、というような雰囲気が感じられるのです……。おまけに途中で思いっきりコルトレーンしているフレーズまで出すロリンズは、完全に我を失ったかのようです。

ということで、アルバムの後半で突如としてペースを乱しているロリンズは、と言うよりも、3日間に及ぶセッションから作られたこのアルバムの編集意図はなんでしょう? この最後のメチャメチャな雰囲気は、ジャズと言ってしまえミもフタも無いのです。

実はロリンズはこのセッションの翌年夏あたりから、いっさいの仕事を断って隠棲状態に入るのですが、それにはプライベートな揉め事や、当時グングンと注目されていたコルトレーンに対する嫉妬とライバル意識のバランスの悪さ等々があったと言われています。そして見失った自分自身を取り戻すため、マンハッタン橋の上で独り、テナーサックスを吹く日々を続けていったらしいのですが、このアルバムが発売されたのはちょうどそれが表沙汰になった時期と重なるようです。つまり、もしかしたらロリンズの不安定な精神状態を表そうとしたアルバム編集方針だったのかも……、等と穿った聴き方までしてしまうのです。

とはいえ、アルバムとしては楽しい曲ばかりですし、名演・快演もあるというのことで、個人的には愛聴しているのでした。ちなみに現行CDは没テイクのオマケ付き♪

コメント (2)
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