オリンピック、日本は不調ですねぇ。しかし、つい放送は見てしまうという悪循環の愛国精神です。はははっ……。ということで、本日はアンバランスが魅力の盤を――
■Una Mas / Kenny Dorham (Blue Note)
ケニー・ドーハムといえば、モダンジャズではお馴染みのトランペッターで、録音もかなり残しており、これはジャズ入門書等では楽しい人気盤ということになっていますが、私的には???です。それほどジャズ喫茶で鳴っていたという記憶もありません。また、それほど冴えた演奏でもないような……。
しかし別角度から聴くと、なかなか面白い盤です。
録音は1963年4月1日、メンバーはケニー・ドーハム以下、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、そしてトニー・ウィリアムス(ds) という共演者は全員、当時上昇機運にあった若手バリバリが揃っています。
A-1 Una Mas (One More Time)
ケニー・ドーハム作曲によるラテンリズム、というよりはボサ・ロック調の楽しい曲です。メロディにも一抹の哀愁があって、つまりこれが、このアルバムの人気曲になっているのですが、肝心のドーハムの音色やアドリブフレーズにこれが合っているかと言えば、私的には否です。
もちろん楽しい曲想にリズム隊の軽快なノリ、それ煽られて気持ち良く吹いているドーハムは、サビでの絶妙な展開も含めて、あぁ、素敵♪ と思うのですが……。なんか音色はツマリ気味だし、フレーズがやや古いんですねぇ。これがリー・モーガンかフレディ・ハバードだったらなぁ……、なんて不遜なことまで思わざるをえません。
ところが続くジョー・ヘンダーソンがそんなこちらの身勝手を見越したかのような弾けっぷりで、思いっきりアウトなフレーズまで出して力演です。もちろん原曲の良さなんて何処吹く風の暴れ方です。
そしてもちろん、リズム隊もそれに歩調を合わせてしまいます。つまり親分だけが自分の殻の中に閉じこもって奮闘していたというオチがついているのです。これで良いのか!? 演奏はLP片面全部を使ってノリノリで進むのですが……。
ちなみにジョー・ヘンダーソンを世に出したのはケニー・ドーハムで、このセッションがその端緒になっているのですから、いやはやなんともです。もっとも、この面倒見の良さがドーハムらしくもあり、またジョー・ヘンダーソンの気配りの無さも、なんか憎めません。
で、演奏は終盤のテーマ合奏の途中から「ウナッ、マスッ」の掛声で楽しいリピートが展開されて盛上がります。このあたりの楽しさは素直に認める私ではありますが♪
B-1 Straight Ahead
カッコ良いアップテンポのハードバップ曲ですが、このリズム隊ですからタダではすみません。ドーハムが先発で快調にアドリブを展開するバックでは、トニー・ウィリアムスの鬼のようなシンバルが炸裂し、ブッチ・ウォーレンが執拗にツッコミを入れ、ハービー・ハンコックも苛立ちのコードをブチ込んでくるのですから、続くジョー・ヘンダーソンも大張り切り! 当に水を得た魚状態で、思いっきり吹きまくります。
一応、この人はコルトレーン派に属するスタイルの持ち主ですが、実はウェイン・ショーターやスタン・ゲッツの影響もあるという、ヒネリのあるフレーズが持ち味で、ウネウネクネクネとツイストされると、妙な興奮を覚えます。ズバリ、快演!
またハービー・ハンコックのパートになると、これはもう、完全にマイルス・デイビスのバンドのような雰囲気になりますが、それを打ち消すのが背後に被ってくるハードバップではお約束のリフです。あぁ、カッコイイ♪ 終盤のドラムスとの対峙、その間隙で暴れるピアノという強烈な盛り上がりが最高です。
B-2 Sao Paulo
ドロドロしたイントロから哀愁のラテンメロディが導きだされるという、煮え切らない曲ですが、アドリブ・パートでは一転して4ビートも交えて熱演が展開されます。そしてこういう曲調になると冴えを発揮するのがトニー・ウィリアムスで、得意の細分化したオカズをたっぷり入れて快適なリズムを叩き出しているあたりは最高です。
ジョー・ヘンダーソンもその意図を素早く飲み込んで、ツボを外さないソロを聴かせますし、ハービー・ハンコックは新感覚ドップリのノリですから、たまりません。なんとなくドーハムだけが浮いてしまった感が無きにしもあらず、なんですねぇ……。
ということで、私が最初に別角度からの面白みと書いたのは、その部分なのです。旧勢力のドーハム対新世代の対決が、ここに記録されてしまったのではないでしょうか? ただしケニー・ドーハムというトランペッターは保守派と思われがちですが、けっしてそうでは無く、つねに第一線で活動し、この後もフリーに近いような録音まで残しています。しかし、それがいつも、しっくりこないという部分がミエミエになってしまう損な人だと、私は思います。ここでも熱演すればするほど、若手から冷や水を浴びせかけられる瞬間が確かにあって、そこがジャズならではのスリルに繋がっているという皮肉な名盤が、これというわけでした。
なんか現在の自分の立場を振り返ってしまうですねぇ……。