今日は何故か霊柩車に後をつけられました。その答えは、目的地の側で葬式があったという単純なものなんですが、30分位その状態が続くと、流石に良い気持ちはしませんですね。葬儀社の皆様、ごめんなさい。
で、本日の1枚は――
■The Artistry Of Tal Farlow (Norgran)
アドリブ名人シリーズの第3弾は、白人ギタリストのタル・ファーロウを取上げました。この人は物凄いテクニシャンなんですが、そのほとんどを独学で身につけたというあたりも愕きです。やはり素質があったんでしょうねぇ、生まれつき手が大きいという身体的な特質も充分に活かされてるのです。
その最たるものが、ギターでは弾きこなすのが難しいフレーズを高速でやってしまう神業、もちろん早弾きそのものも得意で、しかも極力ごまかしをやりません。おまけにその音色が太くてふくよかなんですから、まさに人間国宝級! 私は聴くたびに完全降伏状態です。おそらくギターの弦も太いものを使っていたと思われます。
ただしタル・ファーロウの魅力はそうしたテクニック的なものだけではなく、むしろそれを土台にしたアドリブ展開の上手さ、メロディフェイクの素晴らしさという、歌心に満ちた演奏を聞かせてくれることです。そしてこのアルバムは、そのあたりのバランスがとても良い傑作だと思います。
録音は1954年11月15~16日、メンバーはタル・ファーロウ(g)、ジェラルド・ウィギンス(p)、レイ・ブラウン(b)、チコ・ハミルトン(ds) という夢のような超一流のカルテットです。
A-1 I Like To Recognize The Tune
チコ・ハミルトンの歯切れの良いブラシにノセられてバンドが軽快に飛ばします。タル・ファーロウは全くの自然体で物凄い難フレーズを弾いており、もちろん歌心は満点♪ これは神業ですから演奏は一人舞台になっています。
A-2 Strike Up The Band
これもアップテンポで、まずチコ・ハミルトンのブラシが最高の気持ち良さです。そしてタル・ファーロウは早弾きで期待に応えるのですが、スケール練習になっていないのは流石です♪ ほとんど無い隙間をついて鋭いコードを入れるジェラルド・ウィギンスのピアノにも耳を奪われます。
A-3 Autmn In New York
最初からタル・ファーロウのソロでテーマがフェイクされていきますが、コードワークの展開はセンスが良く、リズム隊が加わってからもマイペースで美ロメ満載のアドリブを聞かせてくれます。こういうスローな有名スタンダードは雰囲気だけの演奏になりがちですが、タル・ファーロウは所々に驚異の早弾きや刺激的なフレーズを入れて、全くダレることがありません。
A-4 And She Remembers Me
ちょっとエキゾチック趣味が入ったタル・ファーロウのオリジナル曲ですが、テンポは快調、アドリブは強力という素晴らしさが満喫出来ます。それにしても凄い音の跳躍をギターで軽々と表現してしまうタル・ファーロウは、恐らく毎日が猛練習だったと思われますが、聴き手にそれを感じさせないあたりは凄みがあります。
B-1 Little Girl Blue
ムード満点のスローな解釈が見事です♪ バンドとしての一体感が絶妙なスロー・グルーヴを生み出しているのです。そして終盤には完全なタル・ファーロウのソロになる展開まであって、スリルとサスペンスに満ちているのでした。
B-2 Have You Met Miss Jones
これまた軽快なノリで骨太なタル・ファーロウのギターがたっぷりと楽しめます。流れるようなアドリブフレーズのバックでは、ちょっと黒っぽいリズム隊の煽りまでありますが、この天才ギタリストは馬耳東風で豪快にスイングしまくっています。
それに業を煮やしたジェラルド・ウィギンスが、このアルバムでは初めてアドリブパートに突入してグリグリと攻め立てますが、再び登場するタル・ファーロウの前では道化にすぎませんでした……。
B-3 Tal's Blues
このアルバムのハイライト♪ 完全に黒~いリズム隊を従えてタル・ファーロウがブルースの心情を吐露していきます。もちろん早弾きフレーズや絶妙なチョーキング、力強いピッキングでの太いグルーヴが圧巻で、凄いっ! の一言です。
続くレイ・ブラウンのベースソロも流石ですが、珍しくもステックで勝負するチコ・ハミルトンも自然体で好感が持てます。
B-4 Cherokee
モダンジャズ演奏者ならば必ず挑戦しなければならないのが、この曲です。もちろんタル・ファーロウは超アップテンポで臨んでいますが、一糸乱れぬチコ・ハミルトンのブラシがまず、見事です。そして太い弦でこんな高速フレーズを弾いてしまうタル・ファーロウは、本物の紙一重!
ということで、ほとんどタル・ファーロウのソロパートしか無いアルバムです。それゆえに神業が満喫出来るのですが、そこに全く力んだところが無く、むしろ飄々と楽しんでいるかのような佇まいさえ、感じられます。
ちなみに現在復刻されているCDはリマスターが最高で、エッジが鋭い音がたっぷり楽しめるという余禄までついていますので、激オススメの1枚です。