久々に本サイト「サイケおやじ館」を更新しました。そのバックに流していたのが、このアルバムですが、BGMにしては恐いものを選んでしまったと――
■A Date With Jimmy Smith Vol.1 (Blue Note)
オルガンの偉大なる天才、ジミー・スミスが認められたのはブルーノートと契約し、その超絶技巧でビバップのイディオムを表現しえたという、言わばオルガンのチャーリー・パーカーともいう立場を確立してからでしょう。
もちろんそれ以前にも別レーベルでリーダー・セッションは録音していましたが、モダンジャズそのものという演奏ではありませんでした。そのジミー・スミスがどういう経緯でビバップに鞍替えしたのかは勉強不足で分かりませんが、とにかくそのジャズ魂に惹きつけられたブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンはすぐさま、夥しい録音セッションを敢行し、立て続けにリーダー盤を発売しています。
それは当初、ジミー・スミスを中心にギターとドラムスを配した、典型的なオルガン・トリオ編成で行われていましたが、折からのハードバップ勃興の機運に乗って、ついに管入りセッションが録音されるという、当時としてはかなり冒険的な演奏がこのアルバムに収録されています。
ちなみに録音は1957年2月11~13日にかけての所謂マラソンセッションで、メンバーはジミー・スミス(org)、エディ・マクファーデン(g)、ドナルド・ベイリー(ds) という当時のレギュラー・トリオに加えて、ドナルド・バード(tp)、ルー・ドナルドソン(as)、ハンク・モブレー(ts)、そしてアート・ブレイキー(ds) というブルーノートのバリバリの看板スターが顔を揃えています。
こういうやり方は、当時のライバル会社であったプレスティッジやヴァーヴが十八番の企画でしたが、あえてブルーノートがそれに踏み切ったのは、それだけジミー・スミスの人気と実力が認められていたからかもしれません。
その肝心の演奏内容は――
A-1 Falling In Love With Love (2月11日録音)
ここでのドラムスはアート・ブレイキーが担当し、オルガントリオ+3管の熱いジャムセッションになっています。テーマはお馴染みの素敵なメロディをドナルド・バードとルー・ドナルドソンが分け合っており、続けてハンク・モブレーがいつものソフトな音色で黒い歌心に満ちたフレーズを披露していきます。
バックのリズム隊にはベースが入ってないので、そのグルーヴが気になりますが、ジミー・スミスの驚異的なフットペダルと左手のコンビネーション、さらにアート・ブレイキーの強烈な煽りがあるので、全く心配はありません。それどころかオルガンが参加していることによってゴスペル色が強い分だけ黒人的なノリが強くなっています。
アドリブパートはその後、エディ・マクファーデンにリレーされますが、同タイプのケニー・バレルあたりに比べると線の細さがモロに出ており、残念です。
しかし続くジミー・スミスは唯我独尊のビバップ・オルガン全開! かなりアグレッシブなフレーズを繰り出しており、興奮を通りこして和めない瞬間まで現出させていますが、それを何時もの楽しいハードバップに引き戻すのがドナルド・バードとルー・ドナルドソンという演出に繋がるのでした。
う~ん、それにしてもそのバックで炸裂する刺激的なジミー・スミスのコード弾きとツッコミは恐ろしいばかりで、やはりこれは単なるハードバップのジャムセッションでは無いようですねぇ……。
A-2 How High The Moon (2月13日録音)
ホーン隊が抜け、ドラムスがドナルド・ベイリーに変わったレギュラー・トリオによる演奏ということで、リラックスした快演が展開されます。エディ・マクファーデンも実力を遺憾なく発揮しておりますし、こういう部分があると、先の管入りセッションではジミー・スミスも力んでいたのかなぁ、等と妙に安心してしまいます。これまた、あぁ名演の1曲でしょうか。
B-1 Funk's Oats (2月11日録音)
「A-1」と同じメンツによる、B面全部を使った長尺の快適なファンキー・ブルース大会ですが、後年のエグイほどの黒っぽさはまだ表現出来ていません。と言うか、あえてそのあたりを避けている雰囲気さえ感じられます。つまりそれほど真摯なハードバップというわけで、このアルバムがイノセントなジャズファンに支持されるのは、そのあたりに理由がありそうです。
とは言っても、先発のルー・ドナルドソンはその音色と執拗なブルース・リックでファンキーに迫っています。しかし続くドナルド・バードとハンク・モブレーは正統派ハードバップの神髄を聴かせるのですから、後年のきわめてソウル&ジャズロックな雰囲気を期待してしまうと、肩透かしでしょう。ただしモダンジャズとしては素晴らしい瞬間になっています。
肝心のジミー・スミスは、やはり力んでいたか、かなりガチガチのフレーズで勝負しています。それゆえに面白くない展開ですが、これはガチンコ勝負の異種格闘技戦と考えれば、納得の緊張感というところでしょう。
ということで、かなり危険なスタイルの演奏が詰まった仕上がりですが、やはり個人的には「A-2」での和みに心魅かれます。ただしそれも、他の2曲のつらい緊張感があってのことですから、やはり絶妙なプロデュースを評価すべき1枚だと思います。これがブルーノートの恐いところかもしれません。
それとこのセッションは何枚かのアルバムに分散されて発表されるのですが、実は管入りの演奏は録音がイマイチ、すっきりしていません。録音技師は名匠のルディ・バンゲルダーですが、当初はオルガンの録音に苦しんだとの噂があるほどですから、さもありなんです。それだけモダンジャズにおけるオルガンの存在は異質だったという証明か……?