オリンピックの女子スケート、ショートプログラムですが、やはり楽しいですねぇ、ふっふっふっ♪ もちろんご推察のとおり、サイケおやじ的な観方しかしていないわけですが、そういう独断と偏見は私の持ち味ですから、本日の1枚もこれでご容赦下さい――
■The Magnificent Thad Jones Vol.3 (Blue Note)
ジャズ界屈指の天才兄弟といえば、ハンク、サド、エルビンのジョーンズ兄弟でしょう。長兄のハンクはもちろんピアノの大御所ですし、エルビンは革新的ポリリズムを敲き出した偉大なドラマーでした。そしてサド・ジョーンズは作・編曲家としてビックバンドの世界で素晴らしい仕事を残していますが、もちろんトランペッターとしても一流です。
ブルーノート・レーベルには、そういうトランペッターとしてのサド・ジョーンズの真髄を記録したアルバムが3枚あり、これはその最後の1枚で、結論から言うとサド・ジョーンズは、やや不調なんですが、なかなか面白い聴き所があって、個人的には愛聴しています。
アルバムの構成は2つのセッションから成立ち、まず1956年7月14日の録音から1曲、他の5曲は翌年2月2日の録音になっており、前者は畢生の名盤、通称「鳩」という「The Magnificent Thad Jones」と同一セッションからのものなので、悪いはずがありません。
で、私が面白いと言うのは、むしろ後のセッションで、このアルバムの中核を成す部分です。メンバーはサド・ジョーンズ(tp)、ベニー・パウエル(tb)、ジジ・グライス(as)、トミー・フラナガン(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、エルビン・ジーンズ(ds) という6人組です。その内容は――
A-1 Slippes Again (1957年2月2日録音)
エルビンの重量級ドラムスを活かしたグルーヴィなブルースで、実は少しばかりアレンジされておりますが、リー・モーガンのブルーノート盤「Vol.3」に収録されている「Tip Toeing」と酷似した曲です。ちなみにそちらの録音は1957年3月24日で、ジジ・グライスも参加していることから、特に流用されたものと推察しておりますので、こちらがオリジナル・バージョンと断定致します。ただし、こういう事はジャズの世界ではあまり問題にはなりませんので、念のため……。
で、こちらの演奏はファンキー度ではリー・モーガンのバージョンには劣るものの、味では負けていません。まずソロの受渡しやコーラスの切れ目に、エルビン・ジョーンズのドラムブレイクを入れ込む趣向が最高です。もちろんエルビンもそれに応えて唸り声を交えつつ熱演しております。そしてアドリブ・パートではリズム隊の動きが最高に秀逸で、黒ビロードのような艶が魅力なトミー・フラナガン、ツボを外さないジョージ・デュヴィヴィエの粘りのベース、そして爆発的なエルビン・ジョーンズというトリオは強烈至極です。
A-2 Ill Wind (1957年2月2日録音)
サド・ジョーンズが愁いに満ちた有名スタンダード曲をスローな展開で聞かせてくれます。ただし残念ながら、それほど好調とは言えません。それでもどうにか平均点になっているのは、リズム隊の素晴らしいバックアップがあるからで、ジョージ・デュヴィヴィエの的確な絡み、エルビンのタイトなブラシ、さらにトミー・フラナガンのセンスの良いコードワークが見事です。そしてそれに支えられ、少しずつ調子を上げていくサド・ジョーンズという仕掛けになっているのでした。
A-3 Thadrack (1957年2月2日録音)
タイトルどおりにサド・ジョーンズの作ですが、後々までトミー・フラナガンがレパートリーにしていた快適なハードバップ曲です。アドリブパートでは、まず、ここでもリズム隊が飛び抜けて秀逸です。エルビンが執拗に叩き出すポリリズムに煽られるサド・ジョーンズも素晴らしい! しかし、それにしてもリズム隊です。ジョージ・デュヴィヴィエのベースソロは柔良く剛を制すといった雰囲気で聞き逃せません。
B-1 Let's (1957年2月2日録音)
これも「A-3」と同じくトミー・フラナガンがレパートリーにしていましたが、オリジナルはここに入っていたというわけです。演奏はアップテンポのハードバップで、まずテーマに仕込まれた絶妙なブレイクがハラハラさせてくれます。そしてサド・ジョーンズが溌剌として味のあるアドリブを披露すれば、ジジ・グライスは黒くも白くも無い、独特の知的なフレーズで勝負、続くベニー・パウエルはミュートでオトボケをかましてくれます。この人はサド・ジョーンズとはこの当時のカウント・ベイシー楽団では同僚の看板プレイヤーで、スタイル的にはハードバップ以前の雰囲気が濃厚ですが、その楽しさは天下一品です。
そしてまたまた、ここでもリズム隊です。ホーン隊を激しく煽る荒業は言わずもがな、ソロパートでもトミー・フラナガンがエルビンと絶妙のコンビネーションでブレイクを仕掛けながらの真剣勝負を挑み、エルビンは強烈なポリリズムで返します。また、そこへ鋭くジョージ・デュヴィヴィエのベースが斬り込んでくるのですから、もうスリル満点です!
あれっ、これって……!? そうです、トミー・フラナガンが一世一代の名演盤「オーバーシーズ」と同じ雰囲気になっているのです。それはベースがウィルバー・リトルに交代して1957年8月15日に録音されたものですが、すでに皆様がよくご存知のとおり、エルビンとフラナガンは当時、J.J.ジョンソン(tb) のバンドのリズム隊として鉄壁のコンビネーションを披露していた時期であり、その予行演習というか、実は日常のヒトコマがここでも聴かれたというわけです。あぁ、これがモダンジャズ全盛期の恐ろしさ! こんな凄い演奏が終わりなき日常で軽々と演じられていたのですから♪
ということで、これがこのアルバムのハイライト演奏です。「オーバーシーズ」が大好きな皆様ならば、きっと気に入るはずだと断言致します。まずはこのリズム隊の素晴らしさをご堪能下さいませ。
B-2 I've Got A Crush On You (1956年7月14日録音)
前曲で燃え上がったハートを優しく包んでくれるのが、この演奏です。すでに述べたように、この曲だけが別な日のセッションからのものですが、だからといって残り物では無く、サド・ジョーンズについては、このアルバムの中で最高の出来を示しています。
メンバーはサド・ジョーンズ(tp)、バリー・ハリス(p)、パーシー・ヒース(b)、マックス・ローチ(ds) という所謂ワンホーンで、心に染み入るバラード演奏をじっくり味わえるのでした。そして必ずや、通称「鳩」が聴きたくたくなると思いますよ♪
ですから、このアルバムはやや穿った聴き方しか出来ないのですが、とにかくリズム隊中心に楽しむ他はありません。否、そう聴いて、初めて楽しい作品です。暴言ご容赦願います。