OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

バレンタインにコニッツを

2006-02-14 17:21:00 | Weblog

バレンタインディなんて、クソっくらえだっ! こんな義理貰ったって、何が嬉しいもんかっ! まぁ、だからと言って、ひとつももらえなければ気分はロンリーなんですが、全体としての風習が無くなれば、問題なしでしょう。

実は告白すると、本命なんて貰ったことはないし、たとえ義理でも欲しかった年齢時にはもらったことはないんですよ……。結局、僻みとイジケの思考なんですがねぇ。あ~ぁ、情けない!

だいたい、本場アメリカじゃ、男が思いを寄せている女に奉仕する日なんですよ、バレンタインディは! 全く日本がお得意の完全な本末転倒が、今日というわけですね。

ということで、本日の1枚は何の脈絡も無く、これを――

Lee Konitz In Harvard Square (Stryuville)

リー・コニッツは、1950年代から活躍する白人アルト奏者としてはアート・ペッパーと同等のアドリブ名人だと思いますが、一般的な人気はアート・ペッパーに大きく差をつけられています。

それはコニッツの紡ぎ出すアドリブメロディが難解というか、常識的な感覚に訴えてこない、素直に琴線に触れるところが極めて少ないという持ち味があるからだと思います。

しかしそのアドリブ感覚は物凄いの一言で、ほとんど原曲を感じさせない極端な分解と再構成、さらにウネウネクニャクニャと思わせぶりを続けた次の瞬間、思い切った音の跳躍を聴かせるという、スリルに満ちているのです。ただしそれか、所謂「歌」になっていないところが、一般ウケしないわけですが、それでも一端そのスリルに取り付かれると、もうコニッツでなければダメという中毒症状を呈するのです。

このアルバムは、そんにコニッツの中では比較的聴きやすい仕上がりで、最高傑作の呼び声もある名盤です。録音は1955年2月、ボストンでのライブを収録したものですが、拍手は見事にカットされています。メンバーはリー・コニッツ(as)、ロニー・ボール(p)、ピーター・インド(b)、ジェフ・モートン(ds) という、コニッツにとっては師匠にあたるレニー・トリスターノの薫陶を受けた者ばかりですので、気心の知れた名演になっています。

ちなみにレニー・トリスターノとは、ビバップ全盛時代の1940年代半ばにして、すでにその影響力から脱したクール・スタイルを確立した天才白人ピアニストで、流れるような曲想&ピアノソロのスタイルが、全く黒人的なエモーションを感じさせないという、極めて反黒人的なジャズを創生した人です。それは忽ちトリスターノ派と呼ばれるモダンジャズの一派を形成していき、コニッツもその門下生というわけです。

しかしコニッツはアルトサックス奏者ということで、実は同時にチャーリー・パーカーを尊敬し、そのスタイルの奥義を究めんとしていましたので、結局、反ビバップを推進する師匠の怒りをかって破門されかかっていた時期の演奏が、ここで聴かれるわけです。その内容は――

A-1 No Splice
 軽快なリズムで演じられるコニッツのオリジナル曲ですが、そのテーマメロディはビバップをより難解にした雰囲気です。というよりも、まるっきりアドリブの一節を合奏したという感じでしょうか……。しかしそのまま、アドリブパートを演じるコニッツのスリルに満ちたメロディ展開は最高です♪ もちろん十八番のウネウネフレーズが中心ですが、それをチャーリー・パーカー的なウネリが強いドライブ感で演じるので、強烈に刺激的です。続くロニー・ボールのピアノも一抹の哀愁があって、シミジミと心に残ります。

A-2 She's Funny that Way
 このアルバムの目玉というよりも、ジャズ史上に残る名演です。曲は1920年代のヒット曲で、この頃にはスタンダード化していたらしいのですが、それにしてもここでの悲しくせつない雰囲気は、筆舌に尽くしがたいものがあります。とにかく何度聴いても飽きない演奏で、個人的には自分の葬儀で流して欲しいと要望までだしてあるほどです。ぜひとも皆様には傾聴していただきとうございます。

A-3 Time On My Hands
 前曲のせつない雰囲気をそのまんま引き継いだような、これも心に染み入る演奏です。かなりビートが強いミディアムテンポでテーマが吹奏され、アドリブが展開されるのですが、これでもかと美メロが繰り出される様は、とても即興とは思えないほどです。琴線にふれまくる刺激フレーズは本当に見事です。

A-4 Foolin' Myself
 これもスタンダード曲ながら、後々までコニッツが演じる十八番♪ 快調なテンポで哀愁のテーマが奏でられ、原曲を巧に活かしたアドリブがたっぷりと楽しめます。独自のツボを全く外さないそのスタイルは唯一無二で、それが好きな人には地獄までもついて行こうと決心させるほどなのです。

B-1 Ronnie's Tune
 ピアニストのロニー・ボールのオリジナルで、アップテンポのトリスターノ派モダンジャズの典型が演じられています。それは抑揚の少ないメロディをどこまで刺激的に聴かせるかが勝負どころというような、偏屈極まりないものですが、そこで強烈なドライブ感を生み出すのがコニッツの天才性の表れで、ここではその真骨頂が聴かれます。それはけっしてクールという範疇には納まらないものだと思います。ぜひともそのあたりをお楽しみ下さい。

B-2 Froggy Day
 これも前曲と似たような曲調のロニー・ボールのオリジナルで、またまたコニッツのブチ切れたようなアドリブが物凄い勢いです。聴いているこちらに鋭角的に突っ込んでくるそのフレーズは、本当に油断出来ず、もちろん和めません。このあたりがコニッツの一般的人気の障害になっているんでしょうが、ジャズを聴く楽しみのひとつであることに間違いはありません。

B-3 My Old Falme
 お馴染みのスタンダードですが、コニッツは巧みにテーマメロディを変奏して哀切の雰囲気を作り上げていきます。このあたりの上手さは余人には真似の出来ない、本当のアドリブ名人の域です。コニッツは後年、スタンダードを取上げてもテーマを吹かないで、アドリブだけ演じることが多くなるのですが、それは最初からテーマを変奏するという意図があってのことと、この演奏を聴くと理解出来ます。

ということで、ここでのコニッツはトリスターノ影響から逃れ、パーカーに近づいていた自身の趣味性が100%、良い方向に作用していると思います。

そして全7曲収録のこのアルバムは、実はオリジナルが10インチ盤なので、各曲の演奏時間は3分前後なのですが、その密度の濃さは天下一品です。残念ながら別ジャケットですが、現在はオマケ曲入りでCD化されておりますので、ぜひとも聴いてみて下さい。虜になったが最後、地獄までも付き合えるはずです。

コメント
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