■Signifyin' / Lou Donaldson (Argo)
先日のアルバート・キングに続いて、「でかい顔」シリーズの第二弾が本日ご紹介のアルバムです。
主役のルー・ドナルドソンはハードバップからソウルジャズ全般で、ブルーノートにおける諸作が名盤扱いになっていますが、これはその古巣からアーゴに移籍しての最初のセッションから作られたものだと思われます。
録音は1963年7月17日、メンバーはルー・ドナルドソン(as)、トミー・タレンタイン(tp)、ロイ・モントリル(g)、ジョン・パットン(org)、ペン・ディクソン(ds) という中で、特にギターはブルーノートならばグラント・グリーンになるはずが、やはり別レーベルということで大スタアの参加は流石に無理……。しかし代役を務めたロイ・モントリルが素晴らしい名演を披露しています。
A-1 Signifyin'
アルバムタイトル曲は、もうこれ以上は無いというゴスペルファンキーがど真ん中のストライク! 初っ端から弾みまくったソウルフルなグルーヴが最高に心地良く、シンプルなリフを使ったテーマからバンド全体の楽しげなムードが横溢しています。
そして飛び出すジョン・パットンのオルガンが、まさにノリノリ♪♪~♪ 強靭な左手とフットペダルで作り出される4ビートのウォーキングも熱すぎますねっ!
またロイ・モントリルのギターが、これまた黒い血潮の滾るが如き熱演で、ザクザクと刻むリズムギター、合いの手の調子良さ、さらにペキペキの音色で弾きまくるアドリブソロが、最高の極みつき! 黒人音楽の神髄というか、これぞっ、ソウルグルーヴとモダンジャズの美しき融合でしょうねぇ~♪ 決して頭でっかちではない、体で感じる楽しさ優先主義には身も心も踊らされてしまいます。
ちなみにこの人は、後で知ったのですが、ニューオリンズ系R&Bの分野ではトップクラスのギタリストで、そういえば、この曲に限らず、セッション全体に微妙に色付けされているニューオリンズ風味は、この名人ギタリストの参加ゆえのことかもしれません。
するとトミー・タレンタインが、これまたブルーノートのセッションではあまり聞かせたことのない、シンプルなフレーズを中心に組み立てたB級グルメの爽快アドリブですよっ♪♪~♪ この人もまた、マックス・ローチ(ds) のバンドレギュラーとして演じる、些か勿体ぶったスタイルよりは、こういう現場が似合っているように思います。
そして、お待たせしましたっ!
いよいよ登場する親分のルー・ドナルドソンが、そのスピード感とグルーヴィなノリが両立した熱帯性のアルトサックスで、美味しいフレーズの大サービス♪♪~♪ いろんな有名曲のメロディを巧み引用しつつ、間然することのないアドリブを聞かせてくれるのですから、もう、辛抱たまらん状態ですよっ!
演奏全体から発散してくるウキウキするようなムードも最高潮ですし、リフとアドリブの応酬やオカズと主食のバランスもギリギリまで脂っこくて、これがモダンジャズの楽しみの極北じゃないでしょうか。
A-2 Time After Time
全曲の浮かれたムードを、すぅぅぅ~とクールでジェントルな世界に一転させる、これもルー・ドナルドソンの名人芸が楽しめる好演です。
それは、ほとんどテーマメロディしか吹いていない、わずか2分半の演奏ですが、イヤミ無くドラマチックに盛り上げていくリズム隊も、なかなかに秀逸だと思います。
う~ん、それにしても、こういう有名スタンダードを堂々とやってくれる潔さって、やはりルー・ドナルソンならではの感性なんでしょうねぇ。一般的には、あまりにも売れセン狙いのミュージシャンに思われがちの人なんですが、そのジャズ魂は決して軽くないと感銘を受けるほどです。
A-3 Si Si Safronia
そして、これまた楽しいボサロックのラテンジャズ♪♪~♪
ベン・ディクソンが十八番の残響リムショット、暑苦しいジョン・パットンのオルガンが、弾みきった曲調にはジャストミートなんですねぇ~♪
楽しいテーマメロディに続いて飛び出すルー・ドナルドソンの、ちょっと何気ないアドリブの最初のフレーズが、実は聴くほどに飽きない名演ですし、予想外に流麗なフレーズを連ねるトミー・タレンタインも好調です。
また、ちょっとハコバン的なリズム隊の味わいも憎めませんが、ジョン・パットンの密度の濃いアドリブは、オルガンの新しい可能性すら感じさせてくれますよ。
あぁ、真夏の海辺で冷えたビールとヤキソバが欲しくなります。
B-1 Don't Get Around Much Anymore
これはお馴染み、デューク・エリントン楽団の有名ヒット曲を楽しく料理した、まさにルー・ドナルドソンのバンドが真骨頂! ドドンパのリズムを叩き出すドラムスの浮かれた調子に合わせるトミー・タレンタインのオトボケアドリブが、まずは憎めません。
そして日常茶飯事的なソウルグルーヴに拘るジョン・パットン、親分の貫録を軽いタッチで披露するルー・ドナルドソンという、微妙に粋なところがブルーノートのセッションとは異なる雰囲気かもしれません。
尤も、このあたりは移籍前の古巣最後のセッションを収めたジミー・スミスの人気盤「Rockin' The Boat」でも感じられたムードですから、当時の流行りだったのでしょうか?
B-2 I Feel In My Bones
ワルツテンポで演奏されるゴスペルファンキーで、このバンドにしては珍しいといっては失礼かもしれませんが、ちょいと厳かな雰囲気すら漂う味わいが絶妙です。実際、マイルス・デイビスが出てきても、違和感が無いようにさえ思うんですよ。「All Blues」のファンキーソウルな解釈というか……。
なにしろロイ・モントリルのギターがダークにグルーヴし、トミー・タレンタンイのトランペットがグッと落ち着き、さらにジョン・パットンのオルガンがモード味! そしてルー・トナルドソンのアルトサックスまでもが、珍しくミストーンまで出した前向きな意気込みなんですねぇ。
しかし、それでもバンドが持ち味の楽しさ優先主義が崩れていないのは、参加メンバーの資質ゆえでしょうか? 個人的にはジョン・パットンとペン・ディクソンのコンビネーションに秘密が隠されているように思います。
B-3 Coppin' A Plea
そしてオーラスは、如何にも「らしい」、ノーテンキなハードバップの決定版♪♪~♪ ファンキーでソウルフル、それでいてハードバップ本来の4ビートのウネリが、徹底的にシンプルな黒いビートで演じられていきます。
強いアタックを最高のアクセントに活かしたテーマのヒップなフィーリング、そこへ飛び込んでくるトミー・タレンタインのトランペットには、日活ニューアクションか東宝スパイアクションのサントラ音源の如き痛快さがありますし、続くジョン・パットンのオルガンは、これまたジミー・スミスに敬意を表しつつ、なおさらに煮詰めんとする意気込みが素敵です。
そしてルー・ドナルドソンは、幾分ダーティな音を交えたフレーズまでも聞かせる、全くの親分肌が余裕です。こういう、何気ない凄みって、今のミュージシャンには醸し出せないものじゃないでしょうか。
ということで、決してガイド本には登場しないアルバムだと思います。なにしろ演じていることがジャズの歴史云々ではありませんし、なによりも我国では、アーゴというレーベルがジャズの本流ではないという評価ですからねぇ。
しかし、黒人ジャズの本質は何もブルーノートの急進性だけで表わされるものではないでしょう。もっと生活密着型ともいうべき、大衆指向の演奏にも、むしろ強くそれが滲んでくると思います。
なによりも、そんな理屈をこねる前に、とにかく聴いてみることが肝心でしょうねぇ。
もちろん十人十色の楽しみ方、感想や批判はあるわけですが、ルー・ドナルドソンの魅力は、そんな諸々に惑わされないところでしょう。以前のように精神論でジャズを語らなくてもよい現代には、最高のミュージシャンだと思います。
でかい顔も当然のジャケットが全て!