■ダニエル・モナムール / 辺見マリ (日本コロムビア)
昭和歌謡曲の女性歌手では、お色気路線のスタアが大勢存在しますが、昭和44(1969)年末に公式レコードデビューした辺見マリの登場は、突出して印象的でした。
それは彼女がハーフの美女であることはもちろんですが、失礼ながら同系の人気歌手だった青山ミチや泉アキよりも、ずっと洗練されていたというか、如何にも歌謡曲的な「泥臭さ」がなかったのです。
特に本日ご紹介のシングル盤は両面ともに完全に洋楽というか、バートバカラック調の曲メロにフレンチポップスをミックスさせ、歌詞も男女の営みを描きながら、フランス語のセリフを入れたりして、モロな表現をお洒落なものに変換させる手法がとられています。
そして、そういうものを歌っても違和感がないルックスとムードを持っていたのが、辺見マリだったのです。
ご存じのように彼女は、平成の芸能界で活躍する辺見えみりの母親ですが、そのあたりは掲載したジャケットからも完全に母娘生き写しの図として、ちょっと感動的なものがあります♪♪~♪
ちなみに辺見マリは京都育ちの日米ハーフで、幼い頃にはCMモデルをやっていたそうですが、芸能界へは高校生の時にスカウトされ、大手の渡辺プロの所属としてテレビ番組のアシスタントや映画へのちょい役出演が、そのスタートでした。
そしてデビュー盤発売時は19歳ということで、キワドイ表現もOKでしたし、キュートで露出度の高い衣装や現代のテレビでは絶対に無理なアブナイ振付、そのフェロモン溢れるムードには、お茶の間が気まずい雰囲気になるほどでした。
で、このデビュー曲は既に述べたように、お洒落なフィーリングがいっぱい♪♪~♪ 特に「コブシ」を全く必要としない曲調は、当時の常識として行き過ぎた作りでしたから、ヒットしないのが通例だと思われていたのですが、流石は辺見マリの存在が勝っていたというか、アッという間のブレイクを果たしました。
つまり極言すれば、昭和歌謡曲も新しい段階に入ったという事だったんでしょうか。
もちろんサイケおやじは瞬間的に辺見マリにKOされてしまいましたですよ♪♪~♪
ただし当時は中学生だった私が、いくらなんでも、こんなウッフン、アッハンな曲のレコードを買って来て、自宅で鳴らすのは憚られるところ……。ですからテレビやラジオで聴ける彼女の歌こそが至福の一時というのが、その頃の真実でした。まあ、お金も無かったんですけどねぇ。
ということは、必然的に彼女が出演するテレビの視聴率が上がっていたという事になるわけですが、それを意識したかのように、辺見マリの歌いながらのアクションも、ますます強烈至極になっていきました♪♪~♪
それは続く2作目のシングル曲「経験」で更なる大ブレイク! 当然、楽曲も最高だったんですが、悩ましい手や腰の動きは完全なる悩殺歌謡! 今日、一部で言われるところのアクショングラマー路線の決定打になっています。
そして、こうした辺見マリの人気沸騰は、同じハーフ系歌手の山本リンダや小山ルミという先輩にも影響を及ぼし、後の新境地での活躍はご存じのとおりですが、肝心の彼女は絶頂期だった昭和45(1970)年秋に西郷輝彦との結婚を決意!?! 契約の関係から翌年までは仕事を続けましたが、結局は引退ということで、多くのファンを嘆かせました。
もちろんその後は結婚生活を経て、離婚から芸能界への復帰も果たしておりますが、やはり歌手としてはデビューから最初の引退までの活躍が全盛期でしょう。この間に残した楽曲は全てが素晴らしい限りですから、現在は多くがCDに纏められ、楽しむことが出来ます。
ちなみにサイケおやじが辺見マリのレコードを買い集めたのは、既に彼女が引退した後の事ですが、理由は前述のとおり、リアルタイムでの事情です。しかし未だに中古盤でもコンプリートは難しいんですよ……。
やっぱり人気が根強いんでしょうね♪♪~♪
そう思えば、ぜひともコンプリートのボックス物を企画して欲しいものですし、当然ながら映像において尚更の魅力を発揮出来る人でしたから、それもぜひっ!
ということで、辺見マリは歌手としては決して上手くはありません。しかし思いっきりの洋楽指向を昭和歌謡曲の世界に反映させるためには、こういう人の登場が必要だったと思います。
それはこのデビュー曲を書いた村井邦彦や同系のソングライターが共通する認識だったんじゃないでしょうか? 「コブシ」から脱却した昭和歌謡曲も、あって良い! それは後のニューミュージックへとダイレクトに繋がるものでしょう。例えば、このシングル盤のB面に収録された「ふりむかない季節」は、完全にバート・バカラックの替え歌といって過言ではない世界ですし、結果的に引退記念シングルとなった「サンドラの恋」にしても、芸能界を去っていく彼女の心情吐露がそのまんまという歌詞の内容ともどもに、素晴らしすぎる曲メロとアレンジが、お洒落歌謡の決定版♪♪~♪
前述した「経験」や他のヒット曲に表出している従来の歌謡曲寄りの作りにしても、「コブシ」をお色気なブレスや喘ぎ声にシフトさせたプロデュースが全く新しい世界になっています。
このあたりの辺見マリって、忘れらないです、やっぱり♪♪~♪