■Magical Mystery Tour / The Beatles (Parlophone / 東芝)
ロックもLPで楽しむ時代となっては完全に半端者扱いになったEPではありますが、本日のご紹介は「全盛期ビートルズの」という以上に、世紀の傑作として不滅の価値を持つことは言わずもがなだと思います。
内容はビートルズが企画制作したテレビ映画の関連音源集という位置付けですが、7インチレコード2枚組、そして美麗なジャケットには放送フィルムからのスチール写真やイラスト、解説や歌詞の入ったプックレットが綴じ込みになっているという、実に凝った作品なのです。
A-1 Magical Mystery Tour
A-2 Your Mother Should Know
B-1 I Am The Walrus
C-1 The Fool On The Hill
C-2 Flying
D-1 Blue Joy Way
収録各曲については後年、米国キャピトルが主導して作った12インチの同名LPに当時のヒットシングル「Strawberry Fields Forever」や「愛こそはすべて」、そして「Hello Goodbye」等々と抱き合わせで収められ、それが全く違和感が無いというところから、ある意味では「サージェント・ペパーズ」の続篇といって過言ではないと思います。
しかし既に何度か述べたように、少年時代のサイケおやじはアルバム「リボルバー」以降のビートルズに対して、率直に大いなる不安を抱いていましたから、当然ながら「Strawberry Fields Forever」には絶望し、「サージェント・ペパーズ」も???
それでも「愛こそはすべて」に救いを見い出し、「Hello Goodbye」で再び光明が射した直後だっただけに、昭和43(1968)年の春に我国で発売となったこのEPは、それこそ心勇んでゲットした記憶が今も鮮明です。
実は当時のラジオから、ビートルズの新作はEPスタイルで、それはイギリスでテレビ放送されたビートルズ映画(!?)の主題歌集という情報を得ていたのです。そして併せて、その中のタイトル曲や「The Fool On The Hill」を聴いていたのですから、シビレて当然の気持はご理解願えると思います。
特に「The Fool On The Hill」には、雑音まじりのラジオから流れてきた瞬間、胸が熱くなるような感動を覚えました。その諦観が滲むメロディのせつなさと伸びやかさ♪♪~♪ フルートだかリコーダーだか、判別不能の笛の音も、心に染み込んでまいります。
ちなみに当時の我国では、肝心のテレビ映画「マジカル・ミステリー・ツアー」は未だ放映されておりませんでしたが、綴じ込みプックレットに掲載のスチール写真を眺めてみれば、そこにはサイケデリックな衣装に身を包んだビートルズやお気楽で曲者揃いのお客さんが、バス旅行をしながらサーカスを観たり、大盛りのスパゲッティを食べたりという、実に刹那的な享楽が満載されていましたから、ますます好奇心を刺激されましたですねぇ~♪
そしてテーマ曲「Magical Mystery Tour」のスピード感溢れるポップな展開が、実は様々な録音技法によってウルトラサイケの世界を分かり易く作っていることに驚嘆するばかり! 尤もこんな事は完全に後付けの知識による言い訳です。リアルタイムではウキウキと聴きながら、不安な気分も確かに感じていたのです。
それは今でも怖い「I Am The Walrus」や「Blue Joy Way」の混濁して不気味なロックワールドで、もう完全に現実の悪夢となるのですが、ところがどっこい、これがクセになるんですねぇ~♪ まさにサイケデリックど真ん中の快感とでも申しましょうか、実はこのEPを聴くまでに強制されていた「リボルバー」や「サージェント・ペパーズ」の呪縛から、ここでスッキリ解脱出来たという感じなのです。
「毒喰らわば、皿まで」、あるいは「毒をもって、毒を制す」ということでしょうか?
とにかく、これで目覚めたサイケおやじは、ここでようやく「サージェント・ペパーズ」を入手する決意を固めるのですが、それはもちろんビートルズだけではなく、当時流行っていた他のヒット曲に顕著だったサイケデリックに感化されていたというわけです。
さて、本日掲載したのは、リアルタイムで私が買った「東芝オデオン盤」で、中身のレコードは当時の慣例として33回転になっています。そして値段は千円ぽっきり!
ところが後年、私は知人からイギリス盤のオリジナルを聴かせてもらう機会を得ました。するとそれまで耳に馴染んでいた「音」や「演奏」とは明らかに違う世界が、そこにあったのです。
理由はイギリス盤が45回転仕様だったことでしょう。
それゆえにメリハリの効いた音の粒立ち、本来は混濁した音作りの魅力が狙ったものと思い込んでいたサイケおやじは、ただただ、額に汗が滲むばかり……。
極言すれば、それと比較しての「東芝オデオン盤」は、幾分「ぬるい」雰囲気の音になっているのです。
ただし、それゆえに独得のハートウォームな手作り感があるのは確かでしょう。「The Fool On The Hill」や「Flying」といった幻想風味が欠かせない歌と演奏には、最適かもしれません。しかし「I Am The Walrus」は確実にイギリス盤の音の方が合っています。ちなみにこの曲はシングル盤「Hello Goodbye」のB面として既に発表されていたものですが、そっちはモノラルミックスでしたから、面白さが違います。そして個人的には、この曲が無ければ、キング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」は、あれほど凄くはならなかったとさえ、強く思うです。
そして私がイギリス盤をゲットしたのは言わずもがな、なんとそこにはステレオとモノラルのふたつの仕様が存在し、前述した米国キャピトル主導の12インチLPの存在も含めて、各収録曲に極北的な違いのバージョンがあることに、愕然とさせられるのです。
あぁ、ビートルズって罪深い!?!
そんな不遜なことを、ついつい思ってしまうサイケおやじではありますが、そのあたりの詳細はご容赦願うとして、実は今度のリマスター盤で、いったいこうした諸問題がどうなっているのか、最高に楽しみな作品でもあります。
これには放映フィルム本篇に使われた音源、さらにはソフト化された時のサウンドトラックについても、厳しく検証していく必要があるのですが、それはあまりにも「奥の細道」です。結論から言えば、楽しくありません。
やはり音楽は、その言葉のとおり、楽しむことを第一義とするべきでしょうね。
ということで、本日は深く反省しております。暴言、ご容赦……。