■From The Beginning / Emerson, Lake & Palmer (Island / ワーナー)
昭和47(1972)年の日本で一番人気があった洋楽スタアと言えば、エマーソン・レイク&パーマー=EL&Pも候補にあがるグループでしょう。
それは同年に国内盤が出たアルバム「展覧会の絵」の大ヒット、そして7月の来日公演はフリーを前座にした後楽園&甲子園という野球場コンサートをやってしまうという、当時としては破格の扱いでした。
もちろん観客は大熱狂で、私も今は無くなった後楽園球場でシビレまくったひとりでしたが、確か大阪公演の甲子園ではエキサイトした観客による暴動が発生し、途中で中止になる騒ぎが一般新聞やテレビニュースで報道されたと記憶しています。
つまりそれほど当時のEL&Pは絶対的な勢いがあったグループで、それは来日に合わせるかのように出た通算4作目のアルバム「トリロジー」が各方面から絶賛され、売れていた事実でも明らかだと思います。
しかし例によってサイケおやじは、そのLPを買うことが出来ず、なんとか順番待ちまでして友人から借りての鑑賞でしたが、流石上り調子のバンドという充実の仕上がりに震えがきましたですねぇ。
まあ、今となっては幾分古臭い手法が散見されますし、次作アルバムの「恐怖の頭脳改革」に接してしまえば、それは発展途上の段階だったことも事実として感じます。
ただしシングルカットされた本日ご紹介の「From The Beginning」だけは、今日でも不滅の響きが魅惑の名曲名演だと思うんですが、告白すれば、リアルタイムでLPが買えなかったサイケおやじが苦し紛れに入手したシングル盤という事情も、当然ながら加味された強い思い入れになっているのは、ご理解願えるでしょうか。
イントロの繊細なアコースティックギターに導かれ、ボサプログレとでも申しましょうか、リズミックな展開に入ってからの曲メロは、作者のグレッグ・レイクが十八番のフレーズがテンコ盛り♪♪~♪ 全く好きな人には、たまらないはずです。
しかも間奏には珍しくもエレキギターのソロがありますし、本職のエレキベースにしてもメロディ優先主義を貫いた、所謂「歌うベース」が独得の味わいを増幅させています。
またカール・パーマーのラテン風味のパーカッションも潔く、そして気になるキース・エマーソンは終盤になって十八番のシンセとオルガンを駆使した、これぞっ、ロックジャズ&プログレの真骨頂! しかも立派な王道ロックになっているんですねぇ~♪
ちなみに、この曲が収録された前述のアルバム「トリロジー」はグレッグ・レイクのプロデュースによるもので、内容は組曲構成された長尺演奏のトラックも目立つんですが、あえてシングルカットした「From The Beginning」は当時の流行だったシンガーソングライター的なものが強く打ち出された、なかなか意味深な企画です。
というのも、EL&Pは1973年頃をピークに、以降は急速に煮詰まりを露呈し、長い沈黙の後の1977年になってようやく発表された新作には、これまでの特徴だったバンドとしてのコンセプトの追及よりも、トリオの各人が自己の音楽性を披露する、言わばビートルズのホワイトアルバム症候群を患っていたからで、その成り行きを知ってしまえば、この「From The Beginning」は尚更に印象深いというわけです。
う~ん、それにしてもグレッグ・レイクの弾くアコースティックギターって、イカシています。なにせアコースティックギターがほとんど苦手のサイケおやじにしても、これはコピー出来るかもしれないと無謀な挑戦を試みるほど、シンプルに素敵なツボがあるんですよねぇ。まあ、その結果は言わずもがなの途中棄権でしたが、鑑賞に限っては、なんらの問題も無く、いつも感動しているのでした。