■Time And A Word / Yes (Atlantic)
今日でも絶大な人気を誇るイエスは、もちろんイギリスのプログレバンドではピンク・フロイドやキング・クリムゾンと並んで特に有名だと思いますが、決してレコードデビュー直後から大ブレイクしたわけではなく、当然ながら試行錯誤がありました。
中でも本日ご紹介のセカンドアルバムは、特にその傾向が強いと評論家の先生方にはウケが良くないらしいんですが、天の邪鬼なサイケおやじは最高に好きな1枚♪♪~♪
もう、これ無くして、何がイエスか!?
そこまで言っても後悔しないほど、好きです!
なぁ~んていう愛の告白は、女性に対しても使ったことが無いほどなんてすよ。
そしてイギリスでは1970年、我国では翌年に「イエスの世界第2集・時間と言葉」を邦題に発売されたのですが、ファーストアルバムで完全にKOされていた若き日のサイケおやじは、青春の血の滾りとでも申しましょうか、八方手を尽くし、ついに掲載したジャケット違いのアメリカ盤を逸早く入手することに成功♪♪~♪
もうこの時は本当に嬉しくて、天にも昇る心持ちとは、このことか!?
と、まで感激したんですが、実際に鑑賞謹聴すれば、それは尚更に強烈な歓喜となって、サイケおやじをシビレさせたのです。
A-1 No Opportunity Necessary, No Experience Needed
/ チャンスも経験もいらない
A-2 Then
A-3 Everyday
A-4 Sweet Dreams
B-1 The Prophet / 預言者
B-2 Clear Days
B-3 Astral Traveller / 星を旅する人
B-4 Time And A Word / 時間と言葉
当時のイエスは前作同様にジョン・アンダーソン(vo,per)、ピーター・バンクス(g,vo)、トニー・ケイ(key)、クリス・スクワイア(b,vo)、ビル・ブラッフォード(ds,per,vib) という5人組でしたが、このアルバムセッションには特にオーケストラが随所に導入され、トニー・コックスなるアレンジャーが起用されています。そのあたりが賛否両論の要因だと言われているのですが……。
しかし個人的には全く違和感が無く、むしろ素晴らしいと思うばかりなんですよ。
それはこのセッションから参画したプロデューサーのトニー・コルトンの手腕、あるいはその起用を望んだジョン・アンダーソンの目論見だったかもしれませんし、巷間で酷評されるほどトホホのアルバムでは決して無いと確信しています。
それは如何にもブリティッシュなオルガンに導かれ、華麗なる西部劇調のストリングが鳴り響く中を一転して暴走する強烈なロックジャズ「チャンスも経験もいらない」からして完全なる成功! とにかく目眩がしそうなクリス・スクワイアの過激に躍動するベースワーク、エグ味の強いピーター・バンクスのジャズ系ギター、空間を支配するビル・ブラッフォードのドラムスも恐ろしいばかりに冴えまくり♪♪~♪ 素晴らしいアンサンブルと意図的にラフにしたであろうコーラスの存在は、既存のロックへのひとつの挑戦だったかもしれません。
しかも録音もミックスも、当時としては異常に先鋭的! つまり旧態依然とした左右と真ん中に分離するステレオミックスを大切にしながらも、各楽器の存在感が場面毎に微妙に変化するという小技が効いていて、それはアルバム全篇の隠し味かもしれません。
ですから続く「Then」が如何にエマーソン・レイク&パーマーしていようが、鋭いストリングの響きは決して殺されることなく、また今となってはバッファロー・スプリングフィールドのオリジナルとして知られる「Everyday」にしても、その中間部で炸裂する強烈なロックジャズの展開が、ド迫力のバンドアンサンブルと激しいアドリブの応酬、さらにビシッとキメまくりのドラムスとベースがオーケストラのパートと遊離する愚行なんて、絶対にありえません!
ちなみにサイケおやじは、当然ながらこの時点でバッファロー・スプリングフィールドは聴いたことがなく、後にオリジナルバージョンに接した時には些かの肩すかし状態だったことを付け加えおきます。
う~ん、それにしてイエスの「Everyday」は、何度聴いても圧倒的!
イノセントなジャズ者でも絶対に圧倒されること、請け合いです!
そしてポール・マッカトニーがプログレしてしまったような「Sweet Dreams」では、リボルバーっぽいドラムスの音作りがニクイばかりですし、このアルバムの中では特に躍動的な「預言者」では、ついにトニー・ケイのキーボードが大活躍! そのクラシックとジャズを良い塩梅でミックスさせた旨味は、なかなか絶品だと思いますが、演奏そのものがディープ・パープルになっているのも否定出来ず、それがまた嬉しかったりすると言えば、贔屓の引き倒し以上に苦しい言い訳でしょうねぇ……。
しかしそれを中和するのがジョン・アンダーソンの透明感あふれるボーカルで、ストリングスとの相性も素晴らしく、またド派手に自己主張するドラムスとベース、未だにジャズから脱却出来ないピーター・バンクスのギター共々に気分が高揚させられます。もちろん秘められたビートルズっぽさには、思わずニヤリ♪♪~♪
それはピアノとストリングスだけをバックにジョン・アンダーソンが歌う「Clear Days」の清々しさ、その詩情をジワジワとロックジャズ&正統派プログレ指向へと惹き戻す「星を旅する人」、そしてオーラスの「時間と言葉」における壮大な構築美という、全く後のイエスとなんら変わらない流れの中でも効果的な隠し味です。
また特筆しておきたいのが、ピーター・バンクスの凄いギターワークで、モロにジャズっぽいコードワークやオクターヴ奏法、あるいは通常のスケールから逸脱したアドリブ展開や細かいオカズの使い方、テンションの高いカッティング等々、とにかくロックジャズのギタリストとしては世界最高峰屈指のひとりと私は思います。
正直に言えば、今の私はピーター・バンクスを聴きたくて、初期イエスのレコードを取り出すといって過言ではないのです。
しかし掲載されたLPジャケットをご覧になれば驚かれるとおり、そこにはピーター・バンクスの姿は無く、代わりにここでは全く演奏していない新加入のスティーヴ・ハウが!?!
まあ、これはアメリカ盤という特殊事情ゆえのことではありますが、本国のイギリス盤や日本盤はお馴染みのシュールなイラストになっていますから、この仕打ちは酷いとしか言えません。
そこに何があったのか、現在の歴史ではバンドの意向に合わないとして、アルバム発売直前に解雇されたことばかりが有名になっていますが、その経緯や結果はともかくとして、ピーター・バンクスという稀代の達人ギタリストを真っ当に評価する動きがあっても良いのでは……?
それともうひとつ、このアルバムでのクリス・スクワイアのベースワークは、もはや暴虐と表現すべき躍動感を聞かせてくれますが、それは録音&ミックスがエレキベース中心主義に傾いているからでしょうか? リアルタイムでも呆れるほどに驚かされましたが、それは今日でも全く変わらない現実です。
さらにビル・ブラッフォードのシャープなドラミングも驚異的で、ロックビートはもちろんのこと、4ビートからポリリズムへと発展していくジャズっぽい敲き方は最高に冴えまくり♪♪~♪
そうした成果は、録音エンジニアのエディ・オフォードの優れた手腕によるところが大きく、後の大傑作「こわれもの」や「危機」といった名盤へとダイレクトに繋がる事実を否定は出来ないでしょう。
とにかく今は全く忘れられているこのアルバムこそ、聴かず嫌いの決定的1枚です。
こんなにビシッとキマッているロックジャズを聴かないのは、本当に勿体無い!
これは私のような者が百万言を弄しても致し方ない現実だと思います。
ぜひっ!