■Merry Clayton (Ode)
如何にもブラックスプロイテーションなジャケットも印象的ですが、これは私の大好きなメリー・クレイトンの公式には2作目のリーダーアルバムです。
発売されたのは1971年秋と言われていますが、当然ながら私は前作「Gimme Shelter」同様、後追いで聴きました。そしてこれまたシビレが止まらくなったのは至極当然! それはもちろん、前作同様のプロデュースと参加メンバーの的確なバックアップを得て、尚更に熱いエモーションを発散するメリー・クレイトンの見事な歌いっぷりがあればこそです。
また演目、その選曲の素晴らしさには、思わずニンマリ♪♪~♪
A-1 Southern Man
A-2 Walk On In
A-3 After All This Time
A-4 Love Me Or Let Me Be Lonely
A-5 A Song For You
A-6 Sho' Nuff
B-1 Steamroller
B-2 Same Old Story
B-3 Light On The Hill
B-4 Grandma's Hands
B-5 Whatever
まずA面ド頭からして当時、日の出の勢いだったニール・ヤングの代表作! それをここまで堂々とエグ味を効かせながら歌ってしまうメリー・クレイントンには、いょ~、姐御っ! と思わず掛け声が飛ぶんじゃないでしょうか。
ちなみにこのトラックを含むアルバム全篇でグツグツに沸騰しているバックの演奏は、ビリー・プレストン(key,vo,arr)、ジョー・サンプル(key)、キャロル・キング(key,vo,arr)、ジェリー・ピータース(key,arr)、デヴィッド・T・ウォーカー(g)、ウェルトン・フェルダー(b)、ポール・ハンフリー(ds)、ゲイリー・コールマン(per)、ボビー・ポーター(per)、カーティス・アーミー(ts,fl) 等々、ハリウッドの芸能界やソウルジャズ系のセッションではお馴染みの面々ばかりですし、特にコーラスにはゴスペルコーラスの大物グループだったジェームス・クリーブランド聖歌隊が参加していますが、これはキャロル・キングの「つづれおり」人脈に加えて、メリー・クレイトンが長い下積みで培った繋がりも大きいのかもしれません。
ですからキャロル・キングが「Walk On In」「After All This Time」「Same Old Story」という書き下ろしの3曲を提供しているのは興味深々で、もちろんメリー・クレイトンも真摯で成熟した歌唱を聞かせくれますよ。
中でも「Walk On In」はキャロル・キング節が出まくった大名曲♪♪~♪ 穏やかに弾むグルーヴと好ましいメロディの旨味、そしてメリー・クレイントンのツボを押さえたフェイクがたまりません。また「After All This Time」は近年、作者自らのライプバージョンも発掘されているハートウォームな隠れ名曲なんですが、それをじっくりとソウルフルに歌ってしまうメリー・クレイトンの些かの力みが良い感じ♪♪~♪ 加えてデヴィッド・T・ウォーカーのギターも流石の上手さを披露しています。しかし「Same Old Story」は、あまり「らしく」ないゴスペル風の仕上がりが賛否両論でしょうか……。もしかしたらキャロル・キングというよりも、メリー・クレイトンが歌の力でここまで持って行ったのかもしれませんから、その意味では凄いと思いますし、デヴィッド・T・ウォーカーのギターやカーティス・アーミーのテナーサックスには思わず唸ってしまうでしょう。
そして、これもお目当てなのがカーペンターズやレオン・ラッセルでお馴染みの「A Song For You」だと思いますが、全く期待を裏切らない、痛烈にソウルフルな仕上がりなんですねぇ~♪ こちらが思っているとおりのピアノの響き、しぶといエレピの彩りも効果満点ですし、何よりもメリー・クレイトンの歌の力! これに尽きますねぇ。ですからソフトなテナーサックスのアドリブに導かれる後半でのゴスペル大会には、本当に熱くさせられますよ。
さらに雰囲気の良さが受け継がれるように始まる「Sho' Nuff」はビリー・プレストンから提供された、これまたゴスペルソウルのスワンプロック的な展開ではありますが、仕上がってみれば真っ黒なR&Bに他なりません。
ズバリ、熱いです!
それがB面ではジェームス・テイラーの自作自演をカバーしたブルースロック「Steamroller」で、ほとんど悪い冗談のような真っ向勝負!?! う~ん、こんなソウル&ブルースなことをやられたら、白人ブルースロッカーは失業確定でしょうねぇ。
しかし「Light On The Hill」や「Grandma's Hands」という正統派ゴスペルソングでの本気度の高さも圧倒的! スワンプやブルースロックに色目を使う必要もなく、無心に歌うメリー・クレイトンを支えるジェームス・クリーブランド聖歌隊のコーラスワークも潔く、特に後者は黒人シンガーソングライターのビル・ウィザースのオリジナルなんですが、ここではゴスペル風味が尚更に強いムードで、最高!
同じく邦題は「孤独の愛」としてポピュラーヒットになっていた「Love Me Or Let Me Be Lonely」にしても、グッと黒い感覚を前面に出し、しかも早すぎたニューソウルっぽい演奏パートのアレンジが秀逸だと思います。
そうした素晴らしい流れで迎えるオーラスの「Whatever」は、またまたサイケおやじを歓喜悶絶させた魂の歌! サイケデリックロックと伝統の黒人音楽を闇鍋にしたような力強いビートとメロディは、まさにニューソウルであり、現代で言うところのフリーソウルってやつなんでしょうが、なんと作者がレオン・ウェアと知って納得!
実はこのアルバムを入手したのは昭和49(1974)年の晩秋だったんですが、この年はクインシー・ジョーンズの人気盤「ボディ・ヒート」によってレオン・ウェアがジリジリと認識されていましたし、何よりもサイケおやじが夢中! そんな折に聴いた「Whatever」は、まさに自分のストライクゾーンへ剛速球だったんですねぇ~♪ もちろん1971年の時点で、レオン・ウェアが既に素晴らしかったという事実も衝撃でした。
ということで、とにかくメリー・クレイトンの歌唱が最高なのは言わずもがな、全篇を濃密に盛り上げている参加セッションミュージシャンの活躍も特筆されます。特にデヴィッド・T・ウォーカーはジャジーでソウルフル、そしてワウワウやサイケデリック風味の音使いも含めた汎用性の高いプレイを決定的に披露していますよ。またサックス奏者として有名なウェルトン・フェルダーのもうひとつの顔であるエレキベース奏者としての実力侮れず、随所でハッとさせられるフレーズとビートの生み出し方は要注意でしょう。同時にポール・ハンフリーのファンキードラミングとの相性の良さも楽しい限り♪♪~♪
しかしこれだけの充実作も、現実的には売れず……。
メリー・クレイトンは再びセッションシンガーへと戻り、以降はリーダー作も発表していますが、妙に時代に迎合したところが???
というのも、このアルバムも前作も、スワンプロックやニューソウルを強く意識していながら、実はそのどちらにも属さないという独立性が魅力なのです。特に本日の1枚は、ロックというよりも極めて強くソウル色が打ち出され、それでいてロック風味が消えていないというところから、後のAORにも影響を与えたんじゃないでしょうか。
ただしそんな甘っちょろいものを期待すると、メリー・クレイトンの姐さんボーカルにブッ飛ばされますよ。それほどに濃厚なグルーヴがぎっしり詰まっているのです。
CD化もされているようですから、スワンプやニューソウル周辺がお好みの皆様には、強くオススメ致します。