■Sonny Stitt Plays (Roost)
常に平均点以上の演奏しか披露しないソニー・ステットは、それゆえに何を吹いても同じ!? ですから持つべきアルバムは「ステット、パウエル&J.J. (Prestige)」と「チューンナップ (Cobblestone)」だけでOK!?
なんて不遜なことを思っていた時期もあり、今となっては額に汗が滲むばかりなんですが、その頃でさえ、本日ご紹介の1枚は別格の存在でした。
それはワンホーンでスタンダードやインスタントなオリジナルを吹きまくるという、何時もと同じ姿勢を貫いていることに変わりはなくとも、参加した名手達とのコラポレーションが所謂サムシンエルスを強く感じさせる自然体の名演集!
録音は1956年9月1日、メンバーはソニー・ステット(as) 以下、ハンク・ジョーンズ(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、シャドウ・ウィルソン(ds)、そしてA面にだけフレディ・グリーン(g) が加わっています。
A-1 There Will Never Be Another You
モダンジャズだけでも幾多の名演が残されている有名スタンダード曲を全くの自然体で悠々と吹いてしまうソニー・ステットの素晴らしさ! この気負いの感じられないテーマ変奏と意気軒高なアドリブこそが、稀代の名人サックスプレイヤーの真骨頂だと思います。
サポートメンバーの中ではハンク・ジョーンズが珠玉のピアノタッチで夢心地のメロディを紡ぎだし、フレディ・グリーンのジャストなジャスビートがたまらない快感を作りだしていますから、このあたりにも耳を奪われてしまうのでした。
A-2 The Nearness Of You
これまた有名なシミジミ系スタンダードの決定版として、このソニー・ステットの演奏も侮れない仕上がりです。ますばハンク・ジョーンズの優雅なピアノとウェンデル・マーシャルのアルコ弾きで奏されるイントロからして絶品♪♪~♪
そしてスローテンポながら絶対にダレない演奏展開の中、ソニー・ステットは原曲メロディの美味しいところだけを抽出していくような絶妙のアドリブ、またそれに先立つテーマ解釈に絶対的な名人芸を披露するのです。
ちなみにソニー・ステットはあまりマイナースケールを吹かないので、そのあたりが我国ではイマイチ人気の要因かもしれないのですが、それにしてもここまでの胸キュン感を提供してくれるのは流石だと思うばかりです。
その点、ハンク・ジョーンズは完全に分かっているというか、素晴らしすぎるピアノを「さらり」と聞かせています。。
A-3 Biscuit Mix
如何にもモダンジャズなメロディはソニー・ステットのオリジナルですが、フレディ・グリーンの快調なリズムギターゆえにモダンスイングからビバップ期のジャムセッション御用達なムードが最高です。
そしてメンバー全員のリラックスした演奏は部分的に相当の力みから、思わずハッとさせられる場面も散見されるんですが、そこは流石の名手揃いに免じて、実に和みの結果オーライ♪♪~♪
A-4 Yesterdays
これまた有名スタンダードで、原曲は過ぎ去った過去に思いをはせる悔恨のパラードですから、演者にはそれなりのブルーな心情が求められて当然のところを、ソニー・ステット以下バンドの面々は落ち着いた中にも、むしろ軽めな表現を目指しているようです。
そこには当然ながらジェントルなハンク・ジョンズのピアノ、強いビートを提供するフレディ・グリーンのリズムギターがあればこそ、実はソニー・ステットの饒舌なアルトサックスが駆け足を演じるイヤミもあるんですが、それにしてもリズム隊だけのパートの潔さと分かり易いソニー・ステットという組み合わせが楽しめるんじゃないでしょうか。
B-1 Afrerwards
激しいアップテンポでビバップの真髄に迫らんとするソニー・ステットのオリジナル曲ですから、チャーリー・パーカーと常に比較されることを有難迷惑に感じていたという作者にしても、会心のアドリブを完全披露する名演を聞かせてくれます。
とにかく徹頭徹尾、全く淀むことのないビバップフレーズの速射砲的洪水には溜飲が下がりますよ♪♪~♪ また、ハンク・ジョーンズも慌てず騒がすの姿勢から前向きのアドリブが痛快至極な演奏を作り出していきます。
B-2 If I Should Lose You
ハンク・ジョーンズの上手すぎるイントロに導かれ、ソニー・ステットが吹き始めるテーマメロディの快適な変奏♪♪~♪ これぞっ、ステット流儀のスタンダード解釈が極みつきに展開されていきます。
それはアドリブ優先主義でありながら、随所に原曲や有名曲のフレーズを美味しく散りばめるという、常套手段にしてはあまりにも楽しすぎます。
ちなみに既に述べたように、こちらのB面にはフレディ・グリーンが参加していませんが、こういう曲と演奏こそ、あの唯一無二のリズムギターが聞こえないと……。それゆえでしょうか、シャドウ・ウィルソンのブラシのビートに、なんとなくフレディ・グリーンを感じてしまうのです……。
B-3 Blues For Bobby
ソニー・ステットが書いたオリジナルのスローブルースなんですが、そんな事よりも全篇から溢れ出るモダンジャズのブルースフィーリングに素直に接して正解の演奏だと思います。
ただし、そうは言っても、実に流麗なソニー・ステットのアルトサックスから流れ出るアドリブフレーズには、些か物足りなさも感じてしまうのが正直な気持かもしれません。
あぁ、もっと黒っぽければなぁ……。
なんていう不遜な贅沢が、我儘なのは自覚しているつもりですが……。
しかしチャーリー・パーカーだって、おそらくはマイナーブルースなんて吹いたことはなかったと思いますし、その意味でソニー・ステットがここで真正面から正統派のモダンジャズブルースを吹ききったのは、当たり前の潔さなんでしょうねぇ。
自分の不明を恥じ入るばかりでございます。
B-4 My Melancholy Baby
そしてオーラスは、これまたちょいと胸キュンメロディの歌物スタンダード♪♪~♪ 快適なテンポで屈託なく歌いまくるソニー・ステットのアルトサックスは、やっぱり最高だと思わざるをえませんねぇ~♪
とにかく「ステット節」の大盤振る舞いというか、こういうのを聴いて、なんだぁ、またかよ……、なんて言っては絶対にいけませんよね。なにしろそれこそが余人に真似の出来る境地ではありませんし、ここまで自分の「型」を完成させているミュージシャンは、数えるほどしかいないと思います。
ということで、やはり名盤扱いになっているのが、何度聴いても実感されますよ。
おそらくは前述した「チューンナップ」が出る前の決定版が、このアルバムだったんじゃないでしょうか。
まあ、今となってはちょいと物足りなさも感じないわけではありませんが、既に述べたように、このセッションには確かに所謂サムシンエルスがあるように思います。
それはまさに極上にブレンドされた珈琲かウイスキーのように、極上の香りに満ち溢れた至福の味わい♪♪~♪
ですから万人向けの傑作として認知されることから、逆に今ではあまり聴かれていないような気もしているんですが、一度はジャズ喫茶あたりでリクエストし、高級オーディオで楽しみたい1枚だと思うばかりです。