■The 1960 German Concerts / Miles Davis With John Coltrane
(Jazz Lips = CD)
最近少しずつジャズモード再突入にスピードがついておりますが、それをSJ誌の休刊やハンク・ジョーンズの死がきっかけだったなんていうことには、絶対したくありません。単なるサイケおやじの気まぐれにすぎないのです。
そこで本日ご紹介は、ちょいと前にゲットしていたマイルス・デイビスの発掘ライプCDで、裏スリーブには「All Tracks Previously Unissued!」と記載されているとおり、少なくとも私は初めて聴いた音源でした。
しかも収められている中身がマイルス・デイビス(tp) 以下、ジョン・コルトーン(ts)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、ジャズ者なら絶対に外せない時期のクインテットが1960年に敢行したドイツ巡業からのライプなんですから、聴かずに死ねるか!?!
☆1960年4月3日、ミュンヘンでのライプ
01 So What
02 'Round Midnight
03 Walkin' (imcomplete)
04 So What (alternate)
まず、気になる音質ですが、これが良好♪♪~♪
しかもリアルステレオミックスなんですよねぇ!! とにかく盛大な拍手に迎えられて始まる「So What」が、真ん中にジミー・コブのクールで熱いドラムス、そして左にマイルス・デイビス、右のジョン・コルトレーンという2管が揃い踏みするテーマのカッコ良さは本当に痛快ですよ。
ただしウイントン・ケリーのピアノが引っ込んでいるのが残念至極ですし、ポール・チェンバースのペースも再生時に低音を強調しないと、辛いものがあるかもしれません。
肝心の演奏は、もちろん快調そのもので、マイルス・デイビスは十八番のフレーズしか吹かない潔さが安心感に繋がっていますし、このリズム隊ならではのビシッとメリハリの効いたグルーヴは、何時聴いても唯一無二の素晴らしさでしょう。
しかしジョン・コルトレーンだけは別世界というか、いきなり初っ端の「So What」からアグレッシヴというには、あまりにも過激なノリと異次元フレーズの連発で、実に意地悪なアドリブ構成に終始しています。いや、「構成」なんていう整ったものではないでしょうねぇ。もはや「地獄」と呼んでも異論の出ないところだと思います。
そしてそれを必死で現世に繋ぎとめようとするリズム隊の奮闘も虚しいばかりというか、マイルス・デイビスのバックでは最高にキマっていたジミー・コブのドラミングが置き去りにされる瞬間が、何度も現れては消えるのですから!?! もうリズム隊だけのパートになると、ヤケッパチ気味なのが最高に面白いです。
ちなみにここでは最初、右チャンネルに定位していたジョン・コルトレーンのテナーサックスが、アドリブに突入するや、真ん中に移動してくるミックスも良い感じ♪♪~♪
そして続く「'Round Midnight」が、これまた危険極まりないとでも申しましょうか、最初は例によってマイスル・デイビスのミュートがスリルとサスペンスをミステリアスに歌いあげ、あの過激なブリッジリフを導くのですが、それ以降のジョン・コルトレーンの独り舞台が、もしかしたら怒り心頭かもしれません。なにしろ最初こそ、親分が作ってくれた雰囲気を大切にしているようなんですが、すぐにジコチュウな世界に耽溺するかのような過激節の連発に移行したくて、そのウズウズしている様子が、当時としては最新のテクニックだったであろうハーモニクス吹奏の頻繁な使用に現れているように思います。
さらに次の「Walkin'」では、そのあたりの思惑が交錯しているんでしょうか、マイルス・デイビスの先発アドリブは毎度お馴染みのパターンを踏襲する、実に心地良いマンネリに満ちていますが、ケリー、チェンバース&コブという所謂黄金のリズム隊に安心して身を任せている感じが結果オーライでしょうねぇ~♪ 中盤からは相当に思いきった過激さを聞かせてくれますよ。
ところがジョン・コルトレーンは本当に我儘で、せっかく盛り上がったところに水を差すかのような肩すかしから、それを逆手に活かしたかのような暴虐のアドリブを展開していくのですから、当日の観客のほとんどは呆気にとられていたんじゃないでしょうか。
実際、途中からは完全に後の「Chasin' The Trane」が予行演習されていますよ。
あぁ、シーツ・オブ・サウンド、恐るべし!
ビートもリズムも無視した瞬間から、ハッと我に返ってバックに合わせていく、まさにこの時期ならではジョン・コルトレーンが堪能出来ますよ。当然、観客も最後には大歓声です。
ただし残念なことに、続くウイントン・ケリーのアドリブの途中でフェイドアウト……。演奏がコンプリートで無いことが実に惜しまれます。
それとこれも同日に演奏されたという、ふたつめの「So What」なんですが、おそらく当時の巡業形態は幾つかのバンドがひとつの会場に出演するという、所謂パッケージショウだったと思われますから、昼夜2回のステージがあったのでしょう。付属の解説書にも、そのように記載してありますが、どっちがどっちのショウからの音源というのは、特定されていないようです。
もちろん別テイクも音質は良好なリアルステレオで、今度はマイルス・デイビスが右チャンネル、ジョン・コルトレーンが左から真ん中へと激しく移動するミックスが何とも言えませんし、後半のウイントン・ケリーのパートになると、リズム隊全部が左チャンネルに纏められ、ちょいと勿体無い感じなんですが、当然ながら演奏は充実の極みです。
この日の録音で全体的に良いのは、ジミー・コブのテキパキとしたドラミングが迫力満点に楽しめることも、魅力のひとつだと思います。
☆1960年3月30日、フランクフルトでのライプ
05 All Of You (imcomplete)
06 So What
こちらは客席からの隠密録音、もしくはラジオからのエアチェックようで、残念ながら音質がガクッと落ちるモノラルミックスです。
しかし耳が慣れてくると各楽器のバランスはきちんとしていますから、ジャズ者ならば、それなりに聴けてしまうと思います。
もちろん演奏そのものは充実していますよ。
まず「All Of You」はマイルス・デイビスが十八番の歌物ですから、得意のミュートでグッと抑えた感情表現を聞かせてくれるという、ファンが最もシビレる展開がニクイばかり♪♪~♪ 切り詰めた音選びで繰り広げられる、そのテーマ変奏の上手さは流石の一言ですし、リズム隊の絶妙の伴奏も素晴らしいですねぇ~♪
そしてこちらでもジョン・コルトレーンが大ハッスル! 神妙なアドリブへの入り方とは逆転していく音符過多症候群によるスケール練習寸前の遣り口も、所々に原曲メロディの断片や自己流スタンダード解釈のミソをきっちり入れていますから、このあたりはサイケおやじの大好きな展開になっています。
ただし残念ながら、ここでもその途中でフェイドアウトが実に勿体無いです。
次に、このCDでは三回目の登場となる「So What」は、当然ながら快調至極の演奏で、特にマイルス・デイビスのアドリブは、もう即興とは言えないほどにマンネリ的な完成度が認められ、そこが実にたまりません♪♪~♪
ですからジョン・コルトレーンも右倣えではないんでしょうが、これしかないのシーツ・オブ・サウンドで大爆発のアドリブを展開すれば、バックの黄金のリズム隊も負けじと刺戟的なビートを送り出し、快楽的に異常なテンションを高めていくのです。
う~ん、いんぷれっしょんずぅぅぅぅ~~!
しかもこのテイクではリズム隊がバランス良く聞こえる所為もありますが、4月3日の遣り口よりもグッと纏まりの良い展開が顕著で、それにしても僅か5日ばかりで、どうしてそんなに変貌するの!? という疑問を抱かずにはいられません。
結局、それほど日進月歩していたのが、当時のジョン・コルトレーンの勢いだったんでしょうねぇ。
演奏は終盤になって、いよいよウイントン・ケリーの浮かれたような悦楽のアドリブ、そして黄金のトリオならではのクールなハードバップが完全披露され、そのグルーヴの快適さも毎度の「お約束」ばっかりですが、やっぱり嬉しくなってしまいますよ。
ということで、まだまだこんな凄い音源があったのか!?!?!
という歓喜驚嘆と共に、演奏そのものの凄さは圧巻ですから、本当にその場の観客は幸せの極みだと羨ましくなります。
そして素直に、この音源に接した現実にも感謝しなければならないでしょうねぇ。
既に述べたように後半2曲の音質はイマイチなんですが、これだけの演奏が聴けるのであれば贅沢は禁物です。
やっぱり、ジャズは悪魔の音楽なんでしょうか、やめられませんねぇ♪♪~♪