OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ドリス・トロイのスワンプロック

2010-05-12 17:03:29 | Rock

Doris Troy (Apple)

ドリス・トロイはアメリカの黒人歌手で、ポップス&ロック史ではビートルズが運営していたアップルレコードに本日ご紹介の素晴らしいアルバムを残したことが、一番有名でしょう。

欧米で発売されたのは1970年の秋頃だったそうですが、しかし我国では、リアルタイムでそれほど話題になったという記憶がありません。

ところが同じ頃から例のスワンプロックのブームがジワジワと盛り上がり、デラニー&ボニーがエリック・クラプトンやジョージ・ハリスンとの交流を通じてブレイクしていくにつれ、その裏盤的な存在として、このアルバムが急速に注目されたように感じています。

と言うのも、ジャケットには全く記載されていないのですが、このセッションに参加していたのがジョージ・ハリソン(g)、エリック・クラプトン(g)、ビーター・フランプトン(g)、ビリー・プレストン(key,vo)、クラウス・ヴァマン(b)、リング・スター(ds)、ボビー・キーズ(sax)、デラニー・ブラムレット(vo) 等々、まさにジョージ・ハリスンの金字塔と称された傑作3枚組LP「オール・シングス・マスト・パス」、そしてデラニー&ポニーやレオン・ラッセルデイヴ・メイソン等々が同時期に制作発売していた諸作と共通するメンツが大集合していたという、心底驚愕の事実が浮かび上がったのですから、これは聴かずに死ねるかっ!

 A-1 Ain't That Cute
 A-2 Special Care
 A-3 Give Me Back My Dynamite
 A-4 You Tore Me Up Inside
 A-5 Games People Play / 孤独の影
 A-6 Gonna Get My Baby Back
 A-7 I've Got To Be Strong
 B-1 Hurry
 B-2 So Far
 B-3 Exactly Like You
 B-4 You Give Me Joy Joy
 B-5 Don't Call Me No More
 B-6 Jacob's Ladoer

ますばA面ド頭の「Ain't That Cute」からして、これはもうデラニー&ポニーの世界と共通するスワンプロックの桃源郷♪♪~♪ ずっしり重いドラムスはリンゴ・スターの正体がモロバレですし、疾走するギターソロは当時からエリック・クラプトン? と推察されていたんですが、今日ではピーター・フランプトンが定説となっているほど、実に強い印象を残します。

ちなみに曲を書いたのはジョージ・ハリスンとドリス・トロイの共作で、実はドリス・トロイはアメリカでの下積み時代からソングライターとしても局地的に評価されていたそうですから、このアルバムは随所で自作自演の強みを発揮しています。

もちろんボーカリストとしての実力は言わずもがな! エリック・クラプトンの凄いギターを従え、堂々のブルースロックを粘っこく熱唱する「Give Me Back My Dynamite」、ゴスペル風味の「You Tore Me Up Inside」、ジャススタンタードのR&B的解釈が冴え渡る「Exactly Like You」あたりに顕著な、黒人音楽の魅力を分かり易く翻案したプロデュースがドリス・トロイ本人によるものという真相も、流石に納得だと思います。

実はサイケおやじがリアルタイムでドリス・トロイの名前に接した時、一番にハッとしたのは、好きだったホリーズのヒット曲「Just One Look」が、この人のオリジナルであったことを知っていたからなんですが、肝心なドリス・トロイのバージョンは以降も長い間、聴くことが出来ませんでした。

しかしこのアルバムを端緒としてドリス・トロイの過去を探求するにつれ、その濃密なR&B人生は自分の好みにジャストミート♪♪~♪ ニューヨークのハーレム地区で生まれ育ち、幼い頃からゴスペルやジャズ、そしてR&Bを歌い続け、曲作りの活動でも1960年にディー・クラークが放った大ヒット「How About That (Abner)」等々、なかなか味わい深い佳曲を書いています。

一方、歌手としてはジェームス・ブラウンやソロモン・バーグ等々のバックコーラスに参加し、ついに1963年になって前述した自作自演の「Just One Look (Atl)antic)」を大ヒットさせるのです。

しかし同時に悪いクスリに溺れていたという噂も絶えず、そんな所為もあったからでしょうか、ホリーズが「Just One Look」をカパーヒットさせていたイギリスへ巡業に訪れた後は同地に留まる道を選択したようです。もちろんその間もアメリカのレコード会社と契約は残っていたものの、結局はヒット曲を出せず……。

こうして時が流れた1969年、ビートルズが設立したアップルレコードから、後に「神の掟」というタイトルで発表されるアルバムをレコーディングしていたビリー・プレストンが、ドリス・トロイにバックコーラスでの参加を依頼したことから、事態は好転! セッションの現場でプロデュースを担当していたジョージ・ハリスンの強い推薦により急遽、ドリス・トロイのリーダー盤制作が決定されたと言われています。

このあたりの事情については、何がジョージ・ハリスンの気持を動かしたのか、イマイチ定かではないんですが、結果的に出来上がったこのアルバムを聴けば、そこにあるのはスワンプロック色が濃厚に楽しめる歌と演奏♪♪~♪ と言うよりも、所詮は白人音楽のスワンプロックを黒人がやってしまったという、逆もまた真なり!?!

それは先立つビリー・プレストンのアルバム「神の掟」にも言えることで、例えばトラフィックブラインド・フェイスが出してしまった、結果的にスワンプロックの試行錯誤を感じさせる諸作に対し――

それは、こうやるんだよぉ~♪

――と、黒人からの回答を具象化したものだったんじゃないでしょうか?

実際、前述した「Ain't That Cute」を筆頭に、スティーヴン・スティルスから提供された「Special Care」、アップテンポでブッ飛ばす「Gonna Get My Baby Back」や「I've Got To Be Strong」はホーンセクションやギターの使い方も含めて、どう聴いてもデラニー&ポニーと共通する味わいが隠しきれません。

それはB面に入っても変わることなく、「Don't Call Me No More」や「Jacob's Ladoer」ではバックコーラスにデラニー・プラムレットの声が明らかに聞こえることからして、もう完全に血が騒ぎます。

と同時に、モータウン調の「Hurry」や正統派R&Bバラードの味わいも深い「So Far」、スタックス風ジャムセッションから生まれたと思しき「You Give Me Joy Joy」で濃厚に表現される黒人ならではの感覚も、流石に素晴らしい限り♪♪~♪

その意味で個人的に嬉しかったのが、ジョー・サウスでお馴染みの「孤独の影」が歌われれていることで、これだけのロックの大物をバックにしながら、R&Bど真ん中の逃げない姿勢が全く潔いですねぇ~♪

とはいえ、アルバム全篇の各所で楽しめる演奏パートの美味しさも絶品で、おっ、これはクラプトン! これはジョージだよなぁ~♪ というギタープレイの詮索はもちろん、ロック的に蠢くベースやリンゴ・スターならではのドラミング、そしてビリー・プレストンのツボを外さないオルガンやピアノは、やっぱり素敵な魅力になっています。

そしてスワンプロック好きには欠かすことの出来ないアルバムであると同時に、R&Bがニューソウルへと発展進化する過程を記録したという意味においても、なかなか重要な1枚だと思うのです。

とにかく捨て曲無しの名盤でしょう。

全く続篇が作られなかったのが残念至極なんですが、ドリス・トロイは以降も他のレーベルにレコーディングを残していますし、イギリスの有名グループ&歌手のバックコーラスとして夥しい作品に参加していることは揺るぎない事実です。

ちなみに、このアルバムには未収録になっているアップルレコードからのシングル曲には、例えばビートルズの「Get Back」のカパーバージョン等々があり、今日ではCDのボーナストラックになっているようですから、機会があれば、ぜひともお楽しみいただとうございます。

いゃ~、スワンプロックって白黒に関係なく、本当に良いですねぇ~~♪

コメント
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