OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ハンク・ジョーンズ再発見のGJT

2010-05-19 17:03:37 | Jazz

The Great Jazz Trio At The Village Vanguard (East Wind)

スイング・ジョーナルの休刊に続き、ハンク・ジョーンズという偉大なジャズピアニストの訃報にも衝撃を受けました。なにしろ、つい最近まで来日公演もやっていましたからねぇ……。享年91歳という大往生ながら、やはりジャズの歴史を確実に作り上げてきたひとりとして、忘れられることはないと思います。

例えばチャーリー・パーカー晩年の名作セッションを収めたアルバム「ナウ・ザ・タイム (Verve)」、キャノンボール・アダレイとマイルス・デイビスの「枯葉」があまりにも有名な「サムシン・エルス (Blue Note)」、そのキャノンボール・アダレイのデビュー盤「プレゼンティング (Savoy)」等々は特別な人気盤になっていますが、個人的には地味ながらも素晴らしいジャズセンスが豊潤な味わい醸し出した「ヒアズ・ラプ (Argo)」や「ポギーとベス (Capitol)」、「ハンキー・パンキー (East Wind)」あたりのリーダー作も、棺桶に入れてもらいたいほど愛聴しています。

しかしそうした凄いキャリアの中にあって、一般的な存在感がグッと身近になったは、1977年に発売された本日ご紹介のライプ盤じゃないでしょうか。

なんといってもトリオを構成しているのは、当時既に大ベテランの域に入っていたハンク・ジョーンズ(p) に加え、ロン・カーター(b) にトニー・ウィリアムス(ds) というバリバリでしたからねぇ~。些か大袈裟なグループ名も強ち過大とは言えないものがあります。

録音は1977年2月19&20日、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・バンガード」でのライプセッションを収めていますが、その制作に関わったのが日本のレコード会社だったというのが、リアルタイムで賛否両論でした。

と言うのも、このアルバムが出るにあたっては、現実のライプセッションのレポートがそれ以前にスイングジャーナルで大きく報じられ、日本のレコード会社によってライプレコーディングも行われたという記述があったからです。

しかも更に遡れば、実はこのトリオが結成されたのは1975年春、トニー・ウィリアムスの主導によって1週間だけ同クラブに出演したという記録があり、その夢のような出来事を再現するべく狙って作られたと思しきアルバムが、我国のイーストウインドレーベルから1976年に出た「アイム・オールド・ファッション」という、渡辺貞夫+グレート・ジャズ・トリオのアルバムだったのです。

ちなみに当時は説明不要のフュージョン全盛期! その最中に純正4ビートへ回帰した演奏が、トニー・ウィリアムスやロン・カーターという、それに染まりきっていたスタアプレイヤーによって行われたいう事実は決して軽いものではありませんでしたし、もちろんその年のニューポートジャズ祭では、ハービー・ハンコックやフレディ・ハバード、さらにウェイン・ショーターまでもが参集した「V.S.O.P.」が、後のジャズの歴史を塗り替えるが如き大反響を巻き起こしたのですから、グレート・ジャズ・トリオの存在は尚更に強いものがありました。

ただし前述の渡辺貞夫のアルバムにしても日本制作ですから、何故に本場アメリカのレコード会社は……??? という煮え切らない気分がジャズ者にはあったと思いますし、実際、サイケおやじもスイングジャーナルというジャズマスコミでは圧倒的な影響力とタイアップ企画ような部分には、面白くないものを感じていました。

まあ、今となっては当時のアメリカのレコード会社、特に大手はフュージョン制作ばかりを優先させ、優良な4ビート作品は欧州や日本のマイナーレーベルから発売されていた事実を忘れてはならないと思います。

それは現に前述した「V.S.O.P.」がCBSコロムビアから発売され、ベストセラーになったことから所謂新伝承派と呼ばれた若手の登場まで繋がる動きとなって、ある意味ではジャズの伝統芸能化になったなったわけですが、だからと言って、4ビートの素敵な魅力が受け継がれたことを否定は出来ないでしょう。

しかし、ここで楽しめるのは決して古いジャズではありません。

それを実証するのが低音域重視の音作りというか、同様の事は前述した渡辺貞夫の「アイム・オールド・ファッション」でも聴かれたんですが、トニー・ウィリアムスのド迫力のバスドラやロン・カーターのグイノリのウッドベースが凄いパワーで記録されています。

それゆえに大音量のジャズ喫茶では最高の魅力であったものが、逆にその強力な低音域が家庭用レコードプレイヤーでは針飛び現象を誘発!?! それほど当時のアナログLPという基本媒体ではギリギリの音が詰め込まれていたのです。

そしてその中にあっても、全くマイペースを崩さないハンク・ジョーンズの潔さが、このレコードの人気のポイントでありました。

A-1 Moose The Mooche
 ご存じ、チャーリー・パーカーがオリジナルのビバップ聖典曲ですから、ハンク・ジョーンズにとっては手慣れた演目でしょうし、またロン&トニーにとっては、それゆえの緊張感が良い方向へ作用した演奏だと思います。
 トニー・ウイリアムスのシンプルなドラミングに導かれたテーマ部分から早いテンポで繰り広げられるモダンジャズの典型的なピアノトリオ演奏は、しかし終始煩いとしかサイケおやじには言えないトニー・ウィリアムスの存在によって、ちょいと引っ込み気味の録音になっているハンク・ジョーンズのピアノに気持が集中出来るのです。
 それは恐らく「I Got Rhythm」のコード進行に基づく曲メロのフェイクや再構築から生み出される歌心満点のアドリブフレーズを優雅なタッチで披露するという、まさに匠の技♪♪~♪ ロン・カーターの些か音程の怪しいベースワークが気になるものの、それでも因数分解になっていないのは流石だと思います。
 演奏は後半、お待ちかねのトニー・ウィリアムスのドラムソロ! スネアとシンバル、タムとハイハットの使い方はマイルス・デイビスのバンドで新主流派の4ビートを叩いていた頃と基本的には変わらないんでしょうが、それにしても品性の感じられないバスドラが、ねぇ……。このあたりはリアルタイムから激論飛び交う賛否と好き嫌いがありました。
 ただしドカドカ襲いかかってくるそのバスドラやガチガチのハイハットが、既に述べたような低音域重視の録音&ミックスによって、それなりの快感に繋がっているのは間違いないでしょうね。

A-2 Maima
 前曲の怒濤のような演奏に続き、このジョン・コルトレーンのオリジナルの中では最も人気の高いひとつであろう、実に静謐なパラードが始まるという流れの良さ♪♪~♪ ハンク・ジョーンズのピアノからは、ひとつも無駄な音が出ていないと感銘を受けるほど、そのジャズセンスは卓越していると思います。
 これにはロン・カーターもトニー・ウィリアムスも、本当に神妙にならざるをえないという雰囲気で、全体にはボサノバっぽいビートも含まれているようですが、幻想的でありながらテンションが緩まない展開は徹頭徹尾、ハンク・ジョーンズの素晴らしい歌心に支えられているようです。
 しかも相当に新しいアプローチもやっているんじゃないでしょうか?
 失礼ながらハービー・ハンコックには、これが出来ますかねぇ?
 そんな不遜なことまで思ってしまう11分41秒です。

B-1 Favors
 有名な作編曲家のクラウス・オーガーマンが書いた美メロの雰囲気曲で、ハンク・ジョーンズは前述したリーダーアルバム「ハンキー・パンキー」において既に録音していましたから、ここでのライプバージョンは尚更に興味深いところです。
 で、結論から言えば、かなりモードっぽい仕上がりになっているんですが、快適なビートを提供するロン・カーター、ちょっと意地悪なトニー・ウィリアムスというリズム隊の強い存在ゆえに、ハンク・ジョーンズも油断は出来ません。というよりも、それを百も承知でジコチュウにスイングしていくところから生み出される知的な浮遊感には、完全に虜になりますよ♪♪~♪
 ハンク・ジョーンズといえば一般的にはモダンスイングからビバップ系の古いタイプという先入観もあろうかと思いますが、実際にはここで聴かれるように、とても汎用性の高いスタイルは唯一無二だと思います。

B-2 12+12
 ロン・カーターが作った、あまり「らしくない」ブルースですが、そういうある種の「はぐらかし」を堂々と正統派モダンジャズへ導いていくハンク・ジョーンズの余裕は流石!
 ですから作者のロン・カーターにしても安心して身を任せられるような、これはむしろ逆だと思うんですが、なかなか安逸のウォーキングベースが気持良いですし、アドリブソロにしても、後年までトレードマークになるようなフレーズがテンコ盛り♪♪~♪
 ちなみに電気アタッチメントを付けたと思しきウッドベースの音は、1970年代ジャズの典型として、これまた好き嫌いが当時からありましたが、何故かこのイーストウインド特有の音作りでは個人的に気になりません。トニー・ウィリアムスのエグイ存在感からすれば、むしろこれで正解ということなのかもしれませんね。

ということで、全4曲の密度は濃すぎるほどですが、実は告白しておくと、リアルタイムでは決して好きなアルバムではなく、しかもジャズ喫茶に行くと毎度のように聴かされていたヒット盤でしたから、逆に反感を抱いていたほどです。

そこには既に述べたように売れセン狙いとかタイアップがミエミエじゃないか? なんていう勘繰りも当然ありましたし、何よりもトニー・ウィリアムスの煩すぎるドラミングが???でした。

率直に言えば、例えばヴァン・ゲルダーに代表される「それまでのモダンジャズの音」とは決定的に異なるイーストウインドの録音に馴染めなかったという、実にオールドウェイブなサイケおやじの本質を自ら再認識していたのです。

しかし同時に何時かは大音量で鳴らせる環境を作り、このアルバムを思いっきり楽しみたいという希望的欲求もあり、売れまくっていた所為で、1980年代に入ると中古屋にゴロゴロしていた中のひとつから、盤質の良いブツを格安でゲットしたにすぎません。

それでも私は決してハンク・ジョーンズが嫌いになったわけでは無く、このグレート・ジャズ・トリオがあればこそ、ますますその本物の実力に圧倒されました。

もちろん以降、続々と作られた同トリオ名義の作品は玉石混合を認めつつも、存分に楽しんだのです。と同時に、過去に遡っての名演も、全く違った観点で再鑑賞出来るようになりました。それは当たり前ですが、優れた才能の前にはジャンル分けなんて無意味だということです。

つまりハンク・ジョーンズはスイングもビバップも、さらに新主流派もフュージョンをも超越した唯一無二の存在であり、本来が何でもありのジャズという悪魔の音楽が煮詰まりかけていた1970年代中盤において、その根本をあらためてファンの前に提示してくれたんじゃないでしょうか。

ですから常に安心感とフレッシュな気分を併せ持った秀逸な演奏を聞かせてくれたのだと思います。

ということで、相変わらずしつっこい文章に終始した本日ではありますが、ジャズ喫茶に行って、このアルバムをリクエストしたいという思いも強くあります。

そして衷心より、ご冥福をお祈りするばかりです。

コメント (4)
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