■Stan Getz & Bob Brookmeyer Recorded Fall 1961 (Verve)
ジャズ史上屈指、白人テナーサックス奏者の最高峰、等々の称号は幾つあっても足りない偉人がスタン・ゲッツ! こう断言しても私は後悔しません。
しかもその人生には当然ながら波乱万丈で、悪いクスリの溺れていた時期も確かにありましたし、音楽面にしてもクール派のスタアとして脚光を浴び、ボサノバの大ヒットからはシャリコマ路線に踏み込み、さらにはモードや現代音楽、フュージョンにまで意欲的に取り組んだ姿勢は、時として批判は浴びても、今となっては残された音源の全てが素晴らしいとしか言いようがありません。
さて、本日ご紹介の1枚はタイトルどおり、ちょうどボサノバ期に入る直前の1961年秋に吹きこまれた、極めてモダンジャズな傑作! メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、スティーヴ・キューン(p)、ジョン・ネヴス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という当時のレギュラーカルテットに盟友のボブ・ブルックマイヤー(v-tb) が特別参加していますから、気心の知れた中にも礼節と前向きな姿勢を旗幟鮮明にした好セッションが楽しめます。
A-1 Minuet Crica '61
ボブ・ブルックマイヤーが書いたウキウキするようなワルツタイムのオリジナルで、曲タイトルの「メヌエット」に恥じない優雅なスンイグ感と歌心に満ちた演奏が繰り広げられています。
その原動力は言わずもがなのロイ・ヘインズで、この名人ならではという、オカズが多くてメシが無いドラミングが痛快に新しいポリリズムを叩き出していますから、ホノボノとした歌心に徹するボブ・ブルックマイヤー、またクールでありながら躍動的なスタン・ゲッツも油断出来ません。
そして、さらに素晴らしいのがスティーヴ・キューンの存在で、大御所2人に続いてアドリブを始める、その最初のワンフレーズが出た瞬間、そこには新しい風が吹いてきた感じが実に新鮮で、たまりません♪♪~♪
もちろん、そのスタイルは所謂エバンス派なんですが、リアルタイムの時点でそのフィーリングを逸早く理解実践していたひとりとしての証明が、このトラックばかりでなく、アルバム全篇できっちりと楽しめますよ。ロイ・ヘインズとの相性も良い感じ♪♪~♪
演奏はこの後、例によってお互いのアドリブ合戦で構築していくアンサンブルを聞かせる、まさにゲッツ&ブルックマイヤーが十八番の展開になりますが、このあたりは1950年代前半から続く「お約束」として絶対に欠かせず、嬉しくなるばかりです。
A-2 Who Could Care
これもボブ・ブルックマイヤーのオリジナル曲で、静謐な浮遊感と心温まるメロディの流れに癒されます。いゃ~、それにしてもボブ・ブルックマイヤーの曲作りは侮れませんねぇ~♪
ですからスタン・ゲッツも飛躍したフェイクは聞かせてくれないのですが、相当にしっかりとアレンジされた演奏展開には十分満足させられますし、思わずビル・エバンス!? と唸るばかりのイントロを披露するスティーヴ・キューンは伴奏も冴えまくり♪♪~♪
これもジャズの魅力のひとつと、再認識です。
A-3 Nice Work If You Can Get It
快適なテンポで演奏される歌物スタンダードの楽しさを満喫出来るトラックです。
まずはボブ・ブルックマイヤーがハートウォームなアドリブフレーズを次々に提示すれば、スタン・ゲッツは何時ものクールなところは抑えつつ、ホノボノとしてフワフワなノリで呼応するというニクイことをやっています。
そしてスティーヴ・キューンは、当たり前のようにビル・エバンスの物真似大会に徹するのですが、それは決して厚顔無恥ではなく、ジャズ者にとっては、思わずニヤリの至福じゃないでしょうか。私は好きです。
B-1 Thump,Thump,Thump
これまたウキウキするしかないボブ・ブルックマイヤーのオリジナル曲ですから、作者に特徴的なモゴモゴした吹奏と歌心満載のアドリブの妙が最高に楽しめます。刺戟的なロイ・ヘインズのドラミングも凄いですよ。
一方、スタン・ゲッツは悠々自適というか、正直に言えば、些か本調子では無いのかもしれませんが、それでも十八番の「ゲッツ節」を淀みなくキメるあたりは流石だと思います。
しかしサイケおやじの耳をグッと惹きつけるのはスティーヴ・キューンのビル・エバンスしまくったアドリブで、実はジャス喫茶で最初に聴いたこのレコードの演奏は、この部分でしたから、完全にビル・エバンス!?! と思い込んで感動したほどの素晴らしさなんですよ♪♪~♪ しかも聴くほどにスティーヴ・キューンの個性らしきものの滲み出しが感じられるんですねぇ~♪
あぁ、何度聴いても、良いものは良いですよ。
微妙にナウ・ヒー・シングスなロイ・ヘインズのドラミング、また実直なジョン・ネヴスのベースワークにも好感が持てます。
B-2 A Nightingale Sang In Berkeley Square
これも人気スタンダード曲とあって、スタン・ゲッツ中毒者には絶対の演奏になっています。なにしろスローテンポで夢見るようなテーマ演奏は、スタン・ゲッツでしかありえないテナーサックスの音色とボブ・ブルックマイヤーのホノボノフィーリングが完全融合♪♪~♪
それはアドリブパートにも当然引き継がれますが、そんな区別云々は愚の骨頂でしょうねぇ。ただただ演奏に酔いしれていると、そこは桃源郷なのです。
B-3 Love Jumped Out
オーラスは多分、バック・クレイトンのオリジナルらしいモダンスイングの新しい解釈というか、これまでもモダンジャズに懐古趣味のアンサンブルを取り入れてきたボブ・ブルックマイヤーの目論見が、ここでも試されたということでしょうか。
些か悠長なスイング感は、ロイ・ヘインズの温故知新によって刺戟的なビートに変換されているように感じますが、肝心の親分ふたりがノンビリムード……。
しかしストップタイムを意欲的に用いてくるリズム隊の刺戟策が効いたんでしょうか、中盤からは緊張と緩和のバランスも良好な名演として、素敵な大団円♪♪~♪
ちなみにリズム隊だけのパートは、もちろん疑似ビル・エバンス・トリオですから、好きな人にはたまらない展開だと思いますよ。スティーヴ・キューンは言わずもがな、ここまで些か地味だったベースのジョン・ネヴスが執拗な伴奏とツッコミのアドリブを披露すれば、ロイ・ヘインズも先鋭のジャズビートで対抗するという素晴らしさ! このトリオだけのレコーディングがあればなぁ~♪ なんていう贅沢な我儘を言いたくなるのでした。
ということで、名盤ガイド本にはあまり載ることもないアルバムかもしれませんが、実際に聴いてみれば、この充実度は侮れません。特にスティーヴ・キューンというよりも、ビル・エバンス好きとでも申しましょうか、所謂エバンス派の原初的な発生が確認出来るという喜びは、何とも言えませんよ。また今でも無名なジョン・ネヴスの頑張り、そしてロイ・ヘインズの唯一無二なドラミングも、このセッションの成功には欠かせなかったと思います。
そしてスタン・ゲッツとボブ・ブルックマイヤーが自らの頑固さを路程しつつも、あえて新しいリズムアプローチに対応していくスリルが、このアルバムの魅力になっているんじゃないでしょうか。
ですから絶妙の和みと先鋭性が両立した瞬間、また逆に破綻しそうな部分も含めて、このアルバムがジャズ者の気を惹くのは当然です。
ちなみにスタン・ゲッツは後にビル・エバンスとの共演レコーディングを幾つか残しいきますが、もしかしたらこの時点でビル・エバンスを雇いたかったのかもしれませんね。
しかしスティーヴ・キューンをその代役ときめつけるのは、あまりにも失礼でしょう。それほど、ここでのスティーヴ・キューンは冴えています。極言すれば、スティーヴ・キューン中心に聴くアルバムかもしませんし、実際、サイケおやじは、そうすることも度々なのです。
つまり、これも一粒で二度美味しいという、グリコ盤なのでした。