■The Book Of Taliesyn / Deep Purple (Tetragrammaton)
ジョン・ロードが、逝った……。
そう、ディープ・パープルの核心を司っていたキーボード奏者であり、今に至るハードロックの礎を確固たるものにした偉人が、ジョン・ロードでした。
残念ながら、ここ数年は第一線から遠ざかっていましたが、それも病気ゆえのことであり、ですから享年70歳とは、あまりにも早世と思わざるをえませんが、同時に傍目から見れば、その充実した音楽人生は真に天寿を全うしていたのではないか……。
不謹慎かもしれませんが、サイケおやじは本音でそのように思っています。
そして本日は朝から追悼鑑賞として、掲載のアルバムに針を落した次第です。
今となっては初期のディープ・パープルは歴史の中の通過点としてしか評価されない向きもありますが、個人的には非常に好きなのが、所謂第一期!
このLPは公式には通算2作目のアルバムとして、1968年末にアメリカ優先で発売されたものですが、それというのもディープ・パープルが契約していたレコード会社「テトラグラマトン」はアメリカ西海岸のインディーズであり、グループはこの時点でシングル曲「Hush」をアメリカで大ヒットさせていた実績が本国イギリスでは裏目というか、なんとっ! アメリカのバンドと思い込まれていたというのですから、いやはやなんとも……。
しかし、内容は現在でも全く色褪せることのない充実度が圧巻で、それはサイケデリックポップとハードロックの融合に留まらず、結果的に後年プログレと称されるロックジャズやクラシック趣味に染まったサウンドまでも包括した素晴らしい仕上がりになっていますよ♪♪~♪
A-1 Listen, Learn, Read On
A-2 Hard Road (= Wring That Neck)
A-3 Kentucky Woman
A-4 (a) Exposition (b) We Can Work It Out / 恋を抱きしめよう
B-1 The Shied
B-2 Anthem
B-3 River Deep, Mountain High
ちなみに説明不要とは思いますが、第一期のメンバーはロッド・エバンス(vo)、リッチー・ブラックモア(g)、ジョン・ロード(org,vo)、ニック・シンパー(b,vo)、イアン・ペイス(ds) という、今となってはリードボーカリストが弱点とされる……、云々がハードロック愛好者の間では定説の顔ぶれながら、このアルバムには、この5人でなければ成しえなかった構成、そして醸し出せなかった味わいが確かにあって、サイケおやじはディープ・パープルの数ある名盤の中でも特に愛聴している1枚です。
もちろんリッチー・ブラックモアのギターに耳が奪われてしまう部分は否めません。
しかし同時に素晴らしいのがメンバー相互間のバランスの良さであり、一般的に言われるジョン・ロードのクラシック趣味とリッチー・ブラックモアのイケイケロック指向が対立と融和を試みている部分に他の3人が見事な自己主張を展開!?
サイケおやじは、そのように聴いているんですが、いかがなもんでしょう。
例えば最初のシングルカット曲になった「Kentucky Woman」のスピード感と立体的な構成は、第二期の代表作にして永遠に忘れじのヒットになった「Highway Satr」の明らかな先駆ですよねぇ~~♪ ちょいとエルヴィス・プレスリーっぽいロッド・エバンスのボーカルスタイルも、この曲が同系歌手のニール・ダイアモンドが自作自演のヒット曲カパーであった事を鑑みれば、決して的外れとは言えないと思いますし、意想外のハンドクラッピングも良い感じ♪♪~♪
なによりもイントロのヘヴィなギターリフからタイトなドラムスや突進するベース、オルガンのキメの彩りが本当にカッコ良く、おまけにサイケデリックポップなコーラスが付いているんですから、ロッド・エバンスの歌いっぷりはスワンプロックと形容されてもOKなはずなんですがねぇ~~♪
そして当然熱くさせられるのがリッチー・ブラックモアのギターソロ同様に十八番が完成されているジョン・ロードのオルガンソロでしょう。
あぁ、何度聴いても興奮させられますよ♪♪~♪
実は毎度おなじみの告白になりますが、サイケおやじが学生時代に入れてもらっていたバンドでは、当時の常としてディープ・パープルをやらざるをえない立場でありながら、定番の「Highway Satr」よりは、こっちの「Kentucky Woman」を選んでいたという天の邪鬼でしたから、お笑い下さいませ。
皆様ご推察のとおり、それはサイケおやじが「Highway Satr」の間奏ギターソロに挫折していた所為に他なりません。
閑話休題。
しかし当時のディープ・パープルは決して中途半端ではなく、ハードエッジなロックピートと幻想的なボーカル&コーラスが対立する「Listen, Learn, Read On」ではベースとドラムスの暴れも流石であり、それがギターとオルガンの対立を呼び覚ます結果として、続く「Hard Road」、つまり後年は「Wring That Neck」と曲名が変更になった人気インストの熱い展開に発展するのですから、シビれますねぇ~~♪
う~ん、ハードロックなジャズオルガン!
まさにジョン・ロード自立性の発芽がそこにあって、いよいよ本領発揮となるのがメドレー形式で演奏される「A-4」の最初のパートである「Exposition」の劇的構成です。
あぁ~~、まさにこれはジョン・ロードでしかありえない、そのパロックロック的なオルガンソロはキース・エマーソンとは似て非なる世界であって、もちろん第二期の圧倒的なスタイルに比べれば未完成な点は否めませんが、その違和感があってこそ、続くパートのビートルズカバー「恋を抱きしめよう / We Can Work It Out」が尚更に面白く楽しめるんですから、そのなかなかのプロ意識は侮れません。
実はこの「恋を抱きしめよう / We Can Work It Out」の主要アレンジも、サイケおやじが学生時代から頂戴している大切なものでして、リッチー・ブラックモアのオカズフレーズはコピーしていても楽しいですよ♪♪~♪
こうしてレコードをB面にひっくり返せば、そこにはますます強くなっているジョン・ロードの世界が多彩な広がりを提示していて、それゆえにリッチー・ブラックモア以下のメンバーが尚更に奮戦するという、これぞっ! 妥協しないロック魂の真価が発揮されています。
なにしろ「The Shied」からして、デビュー前のサンタナの如き疑似ラテンロックのサイケデリック的な展開であり、「Anthem」はまさに異色作として異論も出ないであろう、ストリングスも導入されたクラシック趣味丸出しの演奏なんですからぇ~~♪ 両曲ともにジョン・ロードのピアノやオルガンが土台を作り出し、他のメンバーが自己主張に走る流れは否定出来ないものの、「Anthem」での様式美はプログレでもあり、幾分大仰なロッド・エバンスのボーカルがジャストミートの大名演でしょう。
後になって、これをナイス、あるいはELPと勘違いしたファンが続出していたというのも、今となっては笑うことが出来ないほどの目論見達成感であったに違いなく、とすれば、これまたリッチー・ブラックモアの中世音楽趣味にも合致した点は、そのギターソロの構成や音選びにも顕著だと思います。
そしてオーラスの「River Deep, Mountain High」はフィル・スペクターの代名詞的な傑作曲であり、同時期にアイク&ティナ・ターナがヒットさせていた興味津々のファン心理を逆手に活かしたとしか思えない、凝り過ぎの見事な失敗作!?
だって大袈裟にキーボード主体で作られたイントロには、シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」が堂々と引用されているんですから、おそらく狙ったであろうはずの目論見が最初っからリスナーに見透かされている感じが???
しかしそれでもサイケおやじは、この大団円は決して嫌いではなく、これがあるからこそB面に針を落すことも度々なんですよっ!
一説によれば、これの所為でロッド・エバンスがグループ内で浮くことになったとか、ジョン・ロードがリッチー・ブラックモアに主導権を奪われとか、様々な論争(?)の火種らしいのですが、その意味で言えば、前述した「Hard Road」がアメリカ西海岸で活動していたイッツ・ア・ビューティフルデイから盗作(!?)として名指しされた事件もあったんですから、この頃からディープ・パープルのアレンジ過多症候群は収まりがつかなくなっていたのかもしれませんねぇ~。
つまり本格的なハードロック路線に踏み出す名盤アルバム「イン・ロック」とシングル曲「Black Night」への転換的布石が、本人達の意思であろうが、なかろうが、とにかくこのLPにはびっしり詰まっているんじゃ~ないでしょうか。
ちなみに日本盤のアルバムタイトル「詩人タリエシンの世界」が示すとおり、タリエシンという吟遊詩人がアーサー王の美しい宮廷で音楽を奏でるという中世の物語をベースにした構成をLP全体で表現したというバンド側の説明(?)らしきものが当時からあったとされていますが、サイケおやじにしてみれば、若気の至りは別にしても、そんなの関係ねぇ~~~!
少なくとも昭和40年代の日本で生活していた青少年にとって、ディープ・パープルがやってくれる「ヘヴィなアートロック」は「ハードなロケンロール」であり、一発必中の憂さ晴らしだったんですよっ!
そのあたりをあの世へ旅立ったジョン・ロードがどのように企図していたのかは知る由もありませんが、例えば日本盤シングル「Emmaretta」や「Hallelujah」のジャケ写に使われたフォトセッションとか、時折にオチャメな事をやらかしていた故人の事ですから、案外と分かってくれていたのかもしれません。
ということで、本日は追悼ジョン・ロードで合掌。
そして後は大音量でディープ・パーブルを聴きませうね。
なにがあったとしても、ジョン・ロードのオルガンが鳴り響くかぎり、それはディープ・パープルに他ならないのですから。