■In The Ghetto / Elvis Presley (RCA / 日本ビクター)
連日物議を醸しだすアメリカのトランプ大統領は、結局のところ政治家としてよりは商売人としてのキャリアが成功している事に対しての妬みが無いと言えば嘘になる!?
実際、立候補表明から選挙期間中をとおして、札片が舞っていたが如き報道もあり、また人道よりは経営という理念が優先される政治手法が当選する前から広く伝播していた感もありますから、とにかくアメリカが何でも一番!
そんな姿勢を強行的に実現させんとする言動が目立ちまくるのも無理からん話でしょう。
しかし、トランプ大統領は決してストレートな成功者ではないようで、例えば不動産業にしても一時期、日本の会社と暗闘を繰り広げる等々、なかなか浮き沈みの激しい生き様は多方面で伝えられているとおりです。
つまりアメリカ国内及び世界中の反トランプ勢力は、果たして成功者で富豪の指導者が弱者の気持や現状を理解し、救済してくれるのか?
という諸々に懸念を抱いているのだとすれば、所謂アメリカンドリームという成り上がり幻想が、その幻想さえも消されてしまう恐怖に支配されているという推察だって……。
さて、そこで本日ご紹介するのはエルヴィス・プレスリーが1969年に放った大ヒット「In The Ghetto」で、なかなか抑えた歌唱の中にも一途な情熱や説得力が強く滲み出た名曲名演ながら、その歌詞が従来のエルヴィス・プレスリーのイメージとは異なる内容なんですから、英語を日常会話にしていないサイケおやじには、それを後になって知るほどに唸ってしまったですよ。
何しろ簡潔にご紹介すれば、寒々しく貧しい環境に生まれた男の子に対する母親の嘆きと心配、さらに長じた子供が空腹からの窃盗、そして周囲の無理解から犯罪の道を歩み、ついには銃を片手に死んでいくという姿に泣きじゃくる母親の姿……。
まさに当時も今も、アメリカばかりか世界のあらゆる場所で進行している現実の一端がエルヴィス・プレスリーという芸能界の王様によって、切々と歌われているというところが一筋縄では認められるものではないでしょう。
ご存じのとおり、エルヴィス・プレスリーは決して裕福な家庭の出身ではなく、その歌の凄さが認められたのも偶然の産物だったという出発点から、後は自らの歌を信じ、信仰心や愛国心も強く、何よりも家庭や家族を大切していながら、それでも如何にもアメリカの芸能人どっぷりの成功者にして富豪でありましたから、そ~ゆ~人物がそれを可能ならしめたお気楽な芸能ソングを捨て(?)、思いっきり社会派に傾いた「In The Ghetto」を真っ向から歌いきるという凄さは、逆説的な分かり易さと共に、反感と反発を呼ぶ事は必至なわけですから、それを大ヒットさせたエルヴィス・プレスリーの力量と懐の深さは流石と思うばかりです。
ちなみに曲を書いたのは後に「愛は心に深く / Baby, Don't Get Hooked On Me」の大ヒットを飛ばすマック・デイビスです。
また、この「In The Ghetto」は我が国でも同年秋にヒットして、ラジオから頻繁に流れていた記憶がありながら、既に述べたとおり、サイケおやじは歌詞の中味を理解していなかったもんですから、リアルタイムでは決して好きな楽曲ではなく、しかし後年、それを知ってみれば、エルヴィス・プレスリーの真摯な歌の世界にグッと惹きつけられ、思わず足は中古屋へ!
実は掲載の私有盤を入手したのは、既に1970年代も半ばを過ぎた頃でした。
ということで、トランプ大統領が自国優先主義を表明し、実行に移している事に関しては、これまでの様な「アメリカは世界の警察」という姿勢で思い上がり、世界各国で火種を撒き散らし、そこに油を注いでいた勘違いとは異なるだけで、それでもどっちだって強引な印象は免れないというところに、アメリカという国の業の深さ、そこの最高指導者としての権力の重さがあるのかもしれません。
そんな立場とは永久絶対に無縁なサイケおやじとしては、昔々の強いアメリカの象徴のひとつでもあったエルヴィス・プレスリーの「In The Ghetto」がリバイバルヒットして欲しいと思うばかりです。