OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

和みの強面

2005-12-10 12:15:02 | Weblog

今夜は宴会のかけもちがあります。正直、気が重いなぁ……。せっかくの休みなんですから、ゆっくりジャズでも聴きたい、そんなアルバムがこれです――

That's Where IT's At / Stanley Turrentine (Blue Note)

ジャケ写も恐いが中身も凄いのが、このアルバムです。

スタンリー・タレンタインはR&B色の強いテナー・サックス奏者ですが、1959年頃からマックス・ローチのバンドに雇われて進歩的な演奏もこなしていたという実力派でもあります。

しかし、その本領はやはり黒くてファンキーな演奏にあり、そこに目をつけたブルーノート・レーベルが契約を結び、1960年代に多くのレコーディングを敢行するのです。これはジミー・スミス(org) とかピアノトリオのスリーサウンズ等と同じく、黒くて楽しくスタイルを追求したスターシステムの採用によるところで、いずれもかなりのヒット盤を出しています。

で、このアルバムは、類は友を呼ぶとでも申しましょうか、当時、西海岸で人気急上昇中だったレス・マッキャン(p) との共演で、そのスタイルはもちろんゴスペル&ファンキー♪

録音は1962年1月2日になっており、メンバーはスタンリー・タレンタイン(ts)、レス・マッキャン(p) の2人をリーダーとして、ハービー・ルイス(b) とオーティス・フィンチ(ds) が脇を固めています。ちなみにハービー・ルイスはレス・マッキャンの、オーティス・フィンチはタレンタインのバンドでは当時のレギュラー・メンバーでしたので、気心の知れたセッションになっています。

まずA面1曲目の「Smile Stacey」はレス・マッキャンのオリジナルで、アップテンポのブルース! ということは、初っ端から大ファンキー大会になっていますが、タレンタインの豪快な吹きっぷりは痛快ですし、レス・マッキャンの黒いバッキングとアドリブ・ソロはお約束のフレーズがテンコ盛り♪ 全く楽しい限りですが、このあたりが行き過ぎて顰蹙スレスレでもあります。

しかし2曲目のスローブルース「Soft Pedal Blues」はタレンタインの「ふ、すすすすす~」という溜息フレーズと力強い歌心のバランスが素晴らしい演奏です。レス・マッキャンは相変わらずのゴスペル・スタイルで迫りますが、かなり繊細なフレーズも聞かせてくれるので、渋みがあります。

そしてA面ラストは、これまた黒い、レス・マッキャンのオリジナル「Pia」で、もちろん作者が先発のソロで大暴れ! とにかく快演です。もちろん続くタレンタインも真っ黒に盛り上げていきます。

B面は、大ブルース大会だったA面とは、やや趣きが異なり、まずワルツテンポの「We'll See Yaw'll After While, Ya Heah」が仄かな哀愁とゴスペル感覚を漂わせて演奏されます。まず先発のタレンタインが素晴らしく、バックをつけるレス・マッキャンも上手さ満点♪ いつまでも聴いていたくなります。

さらに続く「Dorene Don't Cry, I」は静謐なスローバラードで、抜群の構成力で風格を示すタレンタインが最高です。もちろん作者のレス・マッキャンも完全にツボを掴んだアドリブ・ソロを展開するのですが、やや叙情に溺れすぎ? まあ、それも聴かせどころではありますが……。

こうして訪れる大団円がラストの「Light Blue」で、もちろん、お約束という哀愁のファンキー曲♪ ですからアドリブ・パートは泣きのフレーズが山盛りですので、たまりません。派手では無いのですが、良い味出しまくりという演奏で、しっとりとした情感が黒く塗り潰れさていくあたりが素敵です。

というこのアルバムは、ジャズ喫茶では無視状態です。もちろん名盤読本とかにも載っていないと思われますが、それはあまりにも快楽的というか、何も考えずに楽しすぎるA面、地味で孤独なB面という構成故かも知れません。

実際、これは自宅で聴くべき作品かもしれません。個人的愛聴盤として、そっとしておくのも悪くない、そんなアルバムです。しかしジャケット同様、中身は恐いものも含んでいるのですよ。そのあたりを、どうか、ご堪能下さい。

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悲しき大当り……

2005-12-09 15:22:17 | Weblog

あ~ぁ、今日は珍しいなぁ、大当たり! 午前中だけで、車のフロントガラスに飛び石が3発、直撃ですよ。

最初の時は、傷ペッタンシールで隠れる小さいものだったんですが、2発目は大きくて、円形状態でヒビが入りました。そして3発目がっ!

どうなってんだぁ~、車両保険入っていて良かったとは言え、後々の事を考えると、それも使えないかも……。すると10万円位は覚悟かぁ……。今月は車検もあったし、お金が……。

眩暈してきました。ということで、本日の1枚は――

Bud ! / Bud Powell Vol.3 (Blue Note)

バド・パウエルこそモダンジャズで一番偉大なピアニストです。今日「パウエル派」と呼ばれるスタイル&ジャンルが存在しているほど、その影響力は絶大で、同じく「エバンス派」という流儀を作り出したビル・エバンス(p) でさえも、バド・パウエルの影響から脱しているとは言えません。

一言でいえばバド・パウエルは天才ですが、その称号の前に「不幸な」という形容詞がどうしても付いてしまうのも、また事実で、実際、天才とキ●ガイは紙一重という精神構造があればこその演奏が多々、残されています。

ところが、その天才が最高度に発揮された録音は、パウエルの生涯では、ほんの少ししか無く、それゆえに不滅の輝きがあるのですが、パウエルの偉大なところは、そういう天才の閃きが失せた後も、当に天才だけの存在感、限りない懐の深さを感じさせる演奏を繰り広げた事です。

否、むしろ人気があるのはそういう演奏で、出来不出来に係わらず、特に1957年頃から渡欧して帰米する1964年位までの間に発表したアルバムに人気盤が多いのです。この作品もそうした1枚で、録音は1957年8月、メンバーはバド・パウエル(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds)、そしてB面にだけカーティス・フラー(tb) が加わっています。

ですからA面は全曲パウエルのオリジナル曲によるトリオ演奏で、まず1曲目はパウエルにしては珍しいスローなブルース「Some Soul」が、乾いた感性を前面に出して演じられます。それはブルースにありがちな黒っぽい、ファンキーなものでは無く、所々にセロニアス・モンク(p) の影響が覗える不協和音ギリギリの音使いがあったり、また音の選び方、アドリブの構成に物凄い緊張感があったりして、聴き手を惑わせるのでした。

2曲目はマイナー調の「Blue Pearl」で、これは今日、人気ジャズ・スタンダード曲になっている「You'd Be So Nice To Come Home To」に似ているとして好まれていますが、ただしコード進行は全く同じではありません。しかし仄かな翳利を帯びたパウエルのアドリブ・メロディとその展開はジワッと心に染みてまいります。

そして3曲目の「Frantic Fancies」はアップテンポで、パウエル流ビバップ・ピアノの奥義が存分に味わえます。そこにはもちろん指の縺れとか危ない場面が多々あって、とても全盛期の神がかった凄みはありませんが、逆にある種の必死さが感じれる、つまり人間的な演奏なのです。それをサポートするポール・チェンバース&アート・テイラーの温かい職人技も流石♪

4曲目は、このアルバムでは一番の聴き物かもしれない「Bud On Bach」です。原曲はタイトルどおり、バッハの息子であるカール・フィリップ・エマニエル・バッハが作曲した「Solfeggietto」だと思われますが、パウエルはこれを高速フレーズも披露するソロ・ピアノで聴かせてくれます。ちなみにパウエルはライブでもスタジオでも、リハーサルの時にはクラシック曲の断片をよく弾いていたと云われており、もしかすると、この演奏もそれを録音したのかもしれません。後半では得意のビバップ・フレーズに置き換える場面さえ聞かれます。

A面ラストはリラックスしたブルース演奏ですが、ファンキー味はそれほどでも無く、徹底したパウエル流ビバップが味わえます。そしてこれが、私は好きです。何と言うか、一抹の哀愁と厳しさがあり、和んでいながら本物のジャズだけが持つ緊張感が漂っていて、あぁ、ジャズを聴いていて良かったという瞬間が、何度も訪れるのです。

それはB面のホーン入りセッションでは特に顕著になり、パウエルも久々のブローイング・セッションとあって、張り切っているようです。

まず1曲目の「Idaho」では、テーマを朗々と吹奏した後、ハードバップそのものといったカーティス・フラーのアドリブが溌剌としています。対するパウエルもビバップ伝統のイントロ、テンション・コードいっぱいの伴奏、そしてアドリブ・ソロではストライド・ピアノ風の展開も聞かせて、本当に楽しい演奏になっています。

ちなみにカーティス・フラーは俊英として、この頃からニューヨークで注目され始めていた存在とあって、ブルーノート・レーベルは売り出しに力を入れていたそうで、このパウエルとのセッションもその一環だったと思われます。もちろん、出来は期待を裏切っていません。

それは続くスロー・ナンバー「Don't Blame Me」でも素晴らしく、ハスキーで情感たっぷりのカーティス・フラー、幻想的なコードワークが見事なパウエルと、いずれも印象的です。

さらに最後の「Moose The Mooche」は、ご存知チャーリー・パーカーの代表的ビバップ曲ですが、それをここではハードバッブ色強く、つまり楽しく新解釈して聞かせてくれます。この和やかな雰囲気は、リラックス&グルーヴィンとでも申しましょうか、ジャズの魅力が満点です。パウエルは得意(?) の唸り声も交えて、当にパウエル節を全開させていますし、他のメンバーも余裕たっぷりで、和みます。

ということで、実はパウエルは好・不調の差が大きい天才だったのですが、ここでの演奏は比較的好調な時期を見計らってのレコーディングだったようです。これはアルバム製作にあたって、ミュージシャンとの交流を密にし、リハーサルもギャラを支払ってきちんと行う等々、名門ブルーノート・レーベルの方針が存分に発揮された結果とも言えるのでしょう。

残された演奏の良し悪しは、結局、プレイヤー本人が一番分かっているはずですが、ファンとしてはその全てを知りたくなるのが、天才の宿命だとしたら、このアルバムはその踏絵ともなる傑作盤だと思います。

ジャケ写から試聴してみて下さいませ。

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先へ、先へと進むうち

2005-12-08 09:14:04 | Weblog

今日は、私の世代では忘れようとしても忘れることの出来ない、ジョン・レノンの命日です。しかし、この期におよんでも、いまだに街では「ハッピー・クリスマス」を流しているバカがいるのは、許せません。そういう愚行をする者は、本当のバカ! これは決めつけておきます、なんと言われようともね!

と、いきなり怒りの書き込みになりましたが、やはり本日はジョン・レノンの冥福を祈念したいと思います。そこで、本日の1枚は――

Farther Along / The Byrds (Sony)

アメリカン・ロックを代表する名門バンド、ザ・バーズが1971年に発売したアルバムです。結成以来、音楽性の変化や人間関係の縺れから、なにかとメンバー・チェンジの激しかったバンドでしたが、この時期はロジャー・マッギン(vo,g)、クラレンス・ホワイト(vo,g)、スキップ・バッテン(vo,b)、ジーン・パーソンズ(vo,ds,g) の4人組で、カントリー・ロック路線を邁進していました。そして、それ故にというか、何とこのアルバムではオリジナル・メンバーであるロジャー・マッギンの存在感が薄いという結果になり、バーズはほどなく解散するのです。

というこの作品の中で、特に私が好きなのがタイトル曲の「Farther Along」です。オリジナルは民間伝承の宗教歌らしいのですが、ここではブルーグラス~白人ゴスペル風にアレンジされ、朴訥に、シンプルに歌われているその歌詞は――

 先へ、先へと進むうち
 私達はいろんな事を知るだろう
 先へ、先へと進むうち
 物事の道理を理解するだろう
 元気を出せ、兄弟よ
 陽射しの中で生きていこう
 そのうちに少しずつ
 いろんな事がわかってくるさ

 栄光に包まれて
 やってくるキリストを見る時
 彼が天の館から
 降りてくる時
 私達はあのまばゆい宮殿で
 彼に会うのだろう
 そのうちに少しずつ
 いろんな事がわかってくるさ

私は仏教徒ですが、この歌の内容には感銘を受けます。

ちなみに、この時のメンバーだったクラレス・ホワイトは1973年に死去するのですが、その葬儀で歌われたのは、この曲だったそうです。

で、本日はジョン・レノンの命日……。私はこの曲を聴いて過ごします。合掌。

それと書き遅れましたが、このアルバムはもちろんカントリー・ロック名盤です。ジャケ写からネタ元へリンクしてありますので、試聴してみて下さい。

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和みたい、安らぎたい

2005-12-07 16:04:09 | Weblog

あぁ~、忙しい、忙しい、と言っている間も忙しい! 年末まで、この状態が続くでしょう。しかし、憩いと和みを忘れたくありませんので、本日のBGMは――

Red Garland's Piano / Red Garland (Prestige)

マイルス・デイビス(tp) のバンドで最初に人気が出たのは、コルトレーン(ts) ではなく、レッド・ガーランド(p) でした。その魅力はコロコロと玉を転がすように、しかも歌心満点でスイングするシングル・ラインのアドリブ・メロディと、山場で盛り上げで使うダイナミックなブロック・コード弾きのバランスの良さでしょう。

ですから、忽ちリーダー盤製作の契約も得て、1956年から自己名義のアルバムを発売することになり、この作品はその第2作目にあたります。

メンバーはポール・チェンバース(b) とアート・テイラー(ds) という気心の知れたトリオ♪ 録音は1956年12月&1957年3月という、ちょうどマイルスがプレスティッジとの契約を終了させ、バンドを解散させて渡欧していた時期にあたり、つまり何かと締め付けがあった親分の元を離れて、自己の活動を行っていた真っ最中の演奏ということで、ガーランドの良さが全面的に出た素晴らしいアルバムになっています。

まずA面初っ端から黒くてソフトなブルース感覚が溢れ出た、ご存知「Please Send Me Someone To Love」で、これは原曲の泣きのメロディを上手くパラフレーズさせながら盛り上げる名演になっています。全体のリズムもスロー粘りのあるビートを刻み、それにノリつつもリードしていくガーランドのタッチは最高で、何度聴いても飽きません。もちろんアドリブ・メロディも素敵なフレーズの洪水です。

そして一転して2曲目は有名スタンダードの「Stomin' At The Savoy」がアップテンポで小粋に演奏されますが、このあたりはマイルスのバンドでお馴染みの展開が存分に楽しめます。アート・テイラーの柔軟なブラシによるドラムスも快演です。

続く3曲目の「The Very Thought Of You」は夜のムードのスロー展開を聞かせてくれますが、ガーランドがよく言われる悪口のカクテル・ピアニストにはなっていません。もちろんリラックスした演奏なのですが、アドリブの組立にリアルな情感が篭っていると感じます。

そのあたりはA面ラストの「Almost Like Being Love」にも感じられ、テーマの処理は一抹の寂しさが漂う素晴らしさです。そのマイナーな情感は、アドリブ・メロディの膨らませ方や間のとり方にも顕著で、コロコロと楽しくスイングしながら、哀愁も滲ませた本当の名演になっています。

B面に入っては、まず冒頭の「If I Were A Bell」が、マイルス・バンドでの名演の再演とあって、どうしても過大な期待をしてしまいます。もちろんイントロは同じフレーズを使うというお約束は守られていますが、どうでしょう……。やはりマイルスとの共演バージョンの方が出来が良いように感じられます。しかしそれは、一期一会の超名演! ここでのリラックスして、なおかつファンキー味も漂う演奏も捨てがたい魅力があります。まあ、聴くほどに味が出るというのが結論です。

しかし次の「I Know Why」はムード満点のスローな展開を聞かせて、文句なく素晴らしい出来です。演奏内容としてはカクテル・ラウンジ色が強いのですが、ここまで来るとジャズ云々と言っても何も変わらない本質があって、それは聴いて良い雰囲気になる快感があれば、それで良いということではないでしょうか……。それが全面的に出た演奏だと思います。

その楽しさがたっぷりなのが、続く「I Can't Give You Anything But Love」です。この小粋な展開、強靭なスイング感はジャズ・ピアノ・トリオの楽しみに他なりません。ポール・チェンバースのベース・ソロも秀逸ですし、ガーランド節も全開♪

そしてオーラスの「But Not For Me」が、また、素晴らしい! この曲はマイルス・バンドの十八番でもあったので、ガーランドも完全にツボを掴んだ演奏を披露しています。もちろんポール・チェンバースのベース・ソロも完璧で、続いてマイルスのトランペットが聞こえてきそうな、空耳を呼ぶ快演です。

ということで、このアルバムは全曲が有名スタンダードで構成された、ピアノ・トリオ好きには定番中の定番です。一番の魅力は和やかなリラックス・ムードで、これこそ殺伐とした昨今の世相、忙しい師走の中の憩いの一時にピッタリの強力推薦盤です。

酒もコーヒーも美味くなる、そんな1枚なのです。例によってジャケ写は、試聴出来るネタ元に繋げてありますよ。

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バードランドは名盤製造所

2005-12-06 13:54:08 | Weblog

最近、子供を狙った悲惨な事件が頻発していますが、実際、学校の行き帰りに父兄や先生が子供達をガードしなければならない国になったとは、正直言って、情けない限りです。不審者狩りも結構ですが、結論は打つ手無しというのが本音でしょうか……。

それはさておき、本日に1枚は――

Meet You At The Jazz Corner Of The World Vol.1 / Art Blakey (Blue Note)

モダンジャズで最も強いリーダーシップを発揮したドラマーがアート・ブレイキーであることに異論は無いでしょう。常に有能な若手を登用した自己のバンド=ジャズ・メッセンジャーズを率いての活動は、マイルス・デイビスよりも評価されるべきものだと、思います。

そのジャズ・メッセンジャーズは1961年のお正月に初来日し、我国にモダンジャズ~ファンキー・ブームを巻き起こしたことは歴史になっていますが、その来日時と同じメンバー、つまり、リー・モーガン(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、そしてアート・ブレイキー(ds) によって、その直前の1960年9月にライブ・レコーディングされたのが、この作品です。

とは言っても、内容は大ヒットパレード大会ではありません。当時のバンドがリアルタイムで新しいレパートリーとしていた曲が、あくまでも前向きに演奏されているのです。

まずA面1曲目の「The Opener」がスピード感いっぱいで演奏され、ここではショーターのソロが、コルトレーンでもロリンズでも無い新感覚を撒き散らして素晴らしい限りです。もちろんモード手法によるアドリブの展開になっているわけですが、随所で閃きのあるフレーズを聞かせてくれます。そして続くリー・モーガンも激しく突っ込むアドリブで熱気全開ですし、ボビー・ティモンズは本来ファンキー&ゴスペル系の人と思われがちですが、ここでは直線的なノリで流れを阻害していません。もちろんブレイキーのドラムスもバックに、ソロに大活躍しています。

2曲目はリー・モーガン自作のゴスペル味のブルース「What Know」で、これは既に前年の夏、ウイントン・ケリーの傑作盤「ケリー・グレイト」のセッションで、ショーターも交えて演じていた曲ですから、ツボを完全に掴んだ大ファンキー大会♪ 要所で被さるバックのリフもカッコ良く、アドリブ・ソロでは、まずショーターがクールで熱い不思議なフレーズを駆使して素晴らしい! そしてお待ちかねのリー・モーガンは最初のワン・フレーズが驚異のファンキー度数で、悶絶させられます。ハードバップのファンは、恐らくはこの瞬間を聞くだけで満足させられるでしょう。もちろん続くアドリブの展開も真っ黒な雰囲気が横溢しています。おまけにボビー・ティモンズがお得意のゴスペル的な展開でブロックコード弾きを炸裂させ、それに被さるハーモニーのリフが、また最高に高揚感があるという、本当に全盛期のジャズ・メッセンジャーズの底力を味わえる演奏です。もちろんそれを支えているのは、ブレイキーの強烈に粘っこいドラムスです♪

演奏はこの後、スピード感に満ちたテーマが演奏され、ライブ盤としての楽しみを倍加してくれるのでした。

そしてB面に入っては、初っ端からモダンジャズの人気曲「Round About Midnight」が、文字通り、深夜の雰囲気満点に演奏されます。もちろんここでは、リー・モーガンがマイルス・デイビス(tp) に挑戦するという楽しみが♪ 結果は十人十色の感想でしょうが、ショーターが絶妙な助け舟を出したりして、なかなか聞かせてくれます。それにしても、この日のショーターは絶好調で、ここでも激しく、そして新しいフレーズを連発して圧倒的です。さらにボビー・ティモンズが怖ろしいバックをつけているあたりも要注意で、これはショーターの名演に間違いなく入るバージョンだと思います。

ただしリー・モーガンも負けてはいません。最後の最後に素晴らしいアドリブ・ソロを展開してクライマックスを作り、ラストテーマの後の無伴奏ソロまで緊張感が持続しています。

それは最後の「その風と私」でも感じられることで、この有名人気曲に不安感が満ちたイントロをつけ、一転、爽やかにテーマを吹奏するアレンジは秀逸です。そしてアドリブ・ソロの先発は、ショーターが元メロディを大切にしつつも、モードで新解釈を聴かせて鮮やかです。それに比べてリー・モーガンは、やや保守的なアドリブを展開していますが、それがある種の安心感に繋がっているのも、また確かで、それがジャズの楽しみでもあると思います。ちなみにこの演奏パターンは、他のいろいろなバンドにコピーされていますので、やはり名演の証明になっているのでした。

ということで、これはアート・ブレイキー全盛期を代表するアルバムになっています。この続篇として「Vol.2」も出ており、そちらも当然、名演・名盤ですが、何よりも特筆したいのが、当時のジャズ・メッセンジャーズは果敢に新曲にチャレンジしていたということで、おそらく実際の巡業では過去のヒット曲も演奏していはずですが、同時に新しい最先端の演奏も、しっかりとリアルタイムで聞かせていたことが、このアルバムから分かります。

それにしてもアート・ブレイキーのドラムスは、本質が変わらずとも新しい演奏に対処出来る普遍性があって見事です。と言うか、実はバンドのメンバー全員を自己のペースに巻き込んでしまうというのが本当のところで、それが新しい事をやっているのに保守的と受け取られますが、その部分は本物のジャズを愛する熱い気持ちと、私は感じているのですが……。

ちなみに「The Jazz Corner Of The World」とは、数々の名ライブ盤を生んだニューヨークのクラブ「バードランド」の事で、ここにまた1枚、名盤が誕生したというわけです。

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白い朝

2005-12-05 17:37:02 | Weblog

明け方からの冷たい雨が、7時頃に雪に変わりました。一面白くなった景色を見ながら車を運転していると、思えば遠くに来たもんだ……、と思います。カーステレオでは山下達郎を聞いていますが、しかし、あえて本日は――

Elvin Jones Live At The Lighthouse (Blue Note)

もしも私がジャズ喫茶を開けるのなら、その開店一発目に鳴らしたいのが、このアルバムです。

実際、これは1970年代ジャズ喫茶の人気盤で、特に大学のジャズ研とか、あるいはプロを目指しているサックス吹きにとっては聖典の1枚でしょう。

メンバーはリーダーのエルビン・ジョーンズ(ds) 以下、デイブ・リーブマン(ss,ts,fl)、スティーブ・グロマスン(ts)、そしてジーン・パーラ(b)、録音は1972年9月、LAのライブハウス「ライトハウス」での実況盤ということで、熱い熱い演奏が2枚組LPにギッシリ詰まっているのです。

まずA面全部を使っての「Fancy Free」が最高の素晴らしさです。この曲はロックビートを大胆に取り入れることが出来るので、この当時、オリジナルのドナルド・バード(tp) をはじめ、グラント・グリーン(g) の快楽バージョンが有名ですが、この演奏は絶対です!

なにしろエルビン・ジョーンズがロックもジャズもアフロ・リズムまでも取り込んだポリリズムを敲き出し、おまけにジーン・パーラの極太ベースが強烈なラインを絡ませて生み出す激レア・ビートに乗って、フロントのサックス陣が大暴れするのです。

特にリーブマンのソプラノ・サックスによるソロは、どこまでもウネウネクネクネ屈折しながら突っ込んでくるので、それを煽るエルビンのドラムスも半端では無い凄さがあります。中でも5分目あたりから異常に挑発的なフレーズで切り込んでくるリーブマンに対して、6分20秒目あたりで怒り頂点の反撃をするエルビンのドラムスは恐ろしい! しかし、それでも攻撃の手を緩めないリーブマンは本当に怖いもの知らずの勢いがあり、7分30秒目あたりからはグロスマンも引きずり込まれて自分のソロ・パートに入るところは最高です♪ もちろんエルビンも大爆発するのですが、この頃にはジーン・パーラのベースもやりたい放題ですから、たまりません。もう、この1曲だけで、このアルバムの価値があるというもんですし、これが大音量で鳴っていた当時のジャズ喫茶の熱気を、ご想像下さいませ。何度聴いても凄いとしか言いようのない、畢生の名演だと思います。

その熱気はB面にも引き継がれ、1曲目の「Sambra」はタイトルどおりにサンバのリズムを使った楽しい演奏ですが、その根底は限りなく黒いビートが渦巻いています。なにしろ先発のリーブマンのソロではラテンリズムだったものが、グロスマンのソロの時には激烈な4ビートに変化するのですから、当に天変地異なノリは強烈です。このあたりは往年のコルトレーン・カルテットの夢よ、もう一度的な、つまりジャズ者にとっては最高の楽しみでもあります。もちろんグロスマンも熱く燃えています♪ そしてクライマックスは、お約束、エルビン怒涛のドラムソロという大団円が待っているのでした。

こういう盛り上がり危なく炸裂するのが、次の「The Children,Save The Children」です。演奏そのものはオーソドックスなモード系4ビートですが、それ故にメンバー全員が安心して自己のジャズ魂を吐露しているようです。もちろんコルトレーンを神と崇める瞬間が何度も訪れます。

C面では、まずメンバー紹介に続き、この日が誕生日というエルビンを祝っての「Happy Birthday」の合唱が微笑ましく、その場の良い雰囲気に和みますが、いきなり続く「Sweet Mama」の爆発的な演奏で天国と地獄を往復させられます。ソロの先発はジーン・パーラの無伴奏ベースソロで、これが緊張感たっぷりです。そしてテーマのリフから爆裂4ビートによる、お待ちかねのコルトレーン大会♪ 完全に熱くなりますよ。ここでは先発のグロスマンが重くハードに吹きまくれば、リーブマンはやや軽い音色ながらスピード感たっぷりに、かなり新しいフレーズを入れて対抗しています。もちろんエルビンのドラムスも大車輪です!

そして最終のD面は、まず不安感が漂うリーブマンのオリジナル曲「New Breed」でスタート、特筆すべきは、かなりテンポが速いのに、エルビンが全篇をブラシで通していることです。そしてこれが素晴らしい! 粘って、うねって、絡みまくりですし、ここぞで炸裂させるバスドラが強烈です。もちろんジーン・パーラのベースの蠢きも凄い! これだけ隙間を埋められては、サックスの2人も成すすべ無しという演奏になっています。

こうして疲れ果てた我々の前で演奏されるのが、オーラスのスタンダード曲「My Ship」です。ここではリーブマンのフルートが安らぎいっぱいで和みます。またそれに絡みつくグロスマンのテナーも温か味がありますねぇ~♪ いつまでも聴いていたい名演だと思います。

ということで、これはジャズ者ならば誰もが熱くなる名盤ですが、愕くのは、これだけ粘っこい演奏を繰り広げたメンバーが、エルビン以外は白人だということです。しかも、それゆえか随所にロック的な感覚、さらに言えばサイケロックやハードロックの味が同時に楽しめるのですから、たまりません。

ところが、なんとこれが現在、廃盤中らしい……。以前出ていたCDには未発表曲も入れてありましたので、メーカーは即刻、完全盤を復刻させるように! ここに強く要望致します。この願いは届くでしょうか……。たぶん……。

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熱い思惑は外れ気味

2005-12-04 15:03:41 | Weblog

仕事で目をかけていた若い者が、最近、あんまりつまらないミスが多いので注意したところ、ついに先週から出てこなくなったので、自宅へ様子を見にいってみると……、というところから、まずは本日のBGMはこれと決めました――

Miles Davis & Milt Jackson (Prestige)

マイルスの諸作の中では地味な作品ですが、私は大好きな1枚です。

録音は1955年夏ですから、ハードバップ真っ盛りの熱い演奏、といいたいところですが、実際に熱かったのはセッションの現場でした。

メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ジャッキー・マクリーン(as)、ミルト・ジャクソン(vib)、レイ・ブライアント(p)、パーシー・ヒース(b)、そしてアート・テイラー(ds) という、何れ劣らぬ剛の者ですから、その演奏が悪いわけがありません。

まずA面1曲目の「Dr.Jackle」は幾何学的なテーマが煮え切らない不思議さを、メンバー全員がアドリブ・パートで見事に晴らしていくというジャッキー・マクリーンの名曲で、特にマイルスがモダンジャズの雰囲気をクールに表現していて秀逸です。もちろんマクリーンもいつものギスギスした吹き方で対抗し、レイ・ブライアントは小粋なブルース・フィーリングを披露、そしてミルト・ジャクソンはビバップの真髄を聞かせてくれるのですが……。

続く2曲目の「Bitty Ditty」はマクリーンが抜けた演奏で、テーマを吹奏するマイルスが幾分へタレ気味なのが気になります。アドリブもやや危なっかしく、似たようなフレーズばかり吹いています。それでもこれがOKテイクになったのは、リズム隊の好演によるもので、特にレイ・ブライアントは好調です。またミルト・ジャクソンは完璧♪

そしてB面に入っては、再びマクリーンが参加した「Minor March」が溌剌としています。この曲はマクリーンが自分のステージでも度々演奏する十八番で、ここでの先発ソロでもギスギスとした刺激的なフレーズを連発して盛り上げます。また、それを受け継ぐミルト・ジャクソンもアップテンポの中に歌心満点のアドリブ・メロディを展開させて、これも素晴らしく、リズム隊との駆け引きも満点です。肝心のマイルスは、またしても出だしでヘタレ気味になりますが、なんとか持ち直して最後まで駆け抜けて行きますが、やや纏まりに欠けているようです。しかも続くレイ・ブライアントが素晴らしいのですから、このリーダーの情けなさは、どういうことでしょう。

しかし最後の「Changes」でマイルスは汚名返上の名演を聞かせてくれます。この曲はレイ・ブライアント作曲による哀愁の名曲で、作者によるムード満点のピアノのイントロからミルト・ジャクソンのバイブラフォーンが見事に余韻が残るテーマを設定し、そのまま最高のソロを展開していきます。するとそれを受け継いだマイルスが、唯一無二のミュート・プレイで聴き手を酔わせます。当にこれぞ、マイルス! という良い味を出しまくりです。

演奏のテンポもマイルスにはピッタリで、得意のキメのフレーズも鮮やかです。ちなみにマイルスは歴史に残るジャズ・トランペッターですが、テクニックやアドリブの閃きの点では、最高の人では無く、むしろ、幾つかのストック・フレーズやキメ、さらに思わせぶりな吹き方が特徴的です。しかし、その取捨選択が絶妙で、つまりセンスで勝負するタイプですから、この「Changes」などはそのあたりを存分に楽しめる名演になっています。

ところで、この曲にもマクリーンが参加しておらず、それはこの日のセッションでマイルスと喧嘩の挙句、途中で帰ってしまったからだそうです。マイルスの喧嘩セッションとしては、セロニアス・モンクとのクリスマス・セッションが有名ですが、それは後世の作り話的な側面が強いものです。しかし、この日のマイルスとマクリーンの喧嘩は本当で、原因は自分だけがマイルスから酷く怒られたことだったとか……。

ですから、この日以降、マクリーンとマイルスは共演しておりません。A面1曲目のマイルスの好演からして、なんとも勿体無く、もっと一緒の演奏を残して欲しかったところですし、2&3曲目のマイルスの不調がそのあたりに原因があるとしたら残念です。しかしその災いを福に転じさせたのが最後の「Changes」という見方も出来るですが……。

一方、マクリーンはこのセッションの直後にジョージ・ウェリントン(p) のバンドに入って大ブレイク! リーダー盤も多数吹き込んでいくのですから、それは意地の成せる技だったのかもしれません。そのあたりはマイルスとしても、マクリーンの初レコーディングは自分のセッションに起用したものだった事等々、なにかと目をかけていた存在だったので、複雑なものがあったと思います。ちなみに、この時から8年後、マイルスはマクリーンのバンドに在籍していた天才少年ドラマーのトニー・ウイリアムスを強引に自分の所へ引き抜くという事件も起るのですが……。

ということで、ここで冒頭の話に戻ると、私はマイルス・デイビスでは無いけれど、ちょっと怒っただけで萎れてしまう若い者に、何のために私が目をかけていたのか、ちょっと理解不能なところがあります。ただし、私は「ちょっと」と思っている怒り方が、他の者の感じ方では、かなり厳しくビシリと痛い所を突いていたという意見もあります。

で、本日、自宅へ行ってみると、何と女と一緒でした。まあ、分からなくも無いし、それは個人の自由ですが、願わくばジャッキー・マクリーンになって欲しいところです。

明日からは仕事に来いよ♪

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暖かい名盤

2005-12-03 14:06:23 | Weblog

昨夜は懸念された大雪も無く、どうやら無事に今朝を迎えられましたが、寒い……。
雪国の冬も3回目ではありますが、やはりこういう時は温もりが欲しいということで、本日の1枚は――

Lee Morgan Vol.3 (Blue Note)

タイトルどおり、ブルーノート・レーベルにおける3枚目のアルバムで、モダンジャズの名作として定番になっている作品です。

録音は1957年で、ご存知のようにリー・モーガンは天才少年トランペッターとして、この時は若干18歳でした。しかしその楽歴は、ディジー・ガレスピー(tp) のオーケストラで、リーダーと並び立つスターだったのです。

で、この録音セッションには、そのバンド仲間であるベニー・ゴルソン(ts)、ウイントン・ケリー(p)、チャーリー・パーシップ(ds) の先輩達、そしてジジ・グライス(as,fl) とポール・チェンバース(b) という名手が揃っての豪華共演になっています。

演目は全て、ベニー・ゴルソンの作・編曲によるもので、もちろん十八番の「ゴルソン・ハーモニー」で彩られた名曲ばかりですが、けっしてアレンジ偏重の大人しい出来ではありません。否、むしろハード・バップここにあり! という非常にゴツイ出来栄えだと思います。

まず、A面1曲目はアラビアン・モードの「Hasaan's Dream」で、ジジ・グライスがテーマで演奏するフルートの響きがエキゾチックな名曲、アドリブ・ソロでは、なんと言っても先発のリー・モーガンのトランペットが素晴らしい限りです。ミディアム・テンポなので、ジンワリとソロを展開させますが、随所にファンキーで跳躍力のあるフレーズを織込み、グイグイと演奏をリードしていきます。続くジジ・グライスのアルトサックスも、その灰色の音色はと逆に熱い情熱を迸らせていますし、ベニー・ゴルソンがなかなかハードボイルドに迫っているのにも驚かされます。リズム隊はファンキーなケリーのピアノ、的確にズバリと切り込んでくるパーシップのドラムスに比べて、全くマイペースにリズムをキープするチェンバースのベースが印象的です。もちろん暖かい「ゴルソン・ハーモニー」付きです。

2曲目の「Domingo」は一転して不安感漂う前奏から溌剌としたビバップ調のテーマが面白く、先発のゴルソンはアップテンポであるにも係わらず、ブレス漏れ的な溜息フレーズで迫ります。しかしこれが、なかなかにハードバップなんですから、ジャズは分かりません。そしてそれに負けじと弾けているのがリー・モーガン! 出だしのファンファーレ調のフレーズは当に十八番というところで、そのバリーションが随所に飛び出してきて、バックに流れる流麗な「ゴルソン・ハーモニー」も何処吹く風の名演になっています。パーシップのドラムスも快演♪

そしてB面ド頭が畢生の人気曲にして大名演の「I Remember Clifford」で、もちろんこの曲は交通事故で急逝した天才トランペッターのクリフォード・ブラウンに捧げられたものです。当然、この曲は天才のアドリブ・フレーズを上手く使いまわして作曲してありますから、ここでアドリブを展開するプレイヤーはプレッシャーたっぷりです。しかし、流石はリー・モーガンです、テーマの吹奏から哀切の情を滲ませつつ、新しい世代としての意気ごみを感じさせる力強さがあり、アドリブ・パートに入っては、クリフォード・ブラウン十八番のフレーズを自己のメロディ感覚で巧に料理した歌心を披露して、聴き手を酔わせます。しかもそれが事前に出来上がっていたストックフレーズではなく、その場の自然発生的な流れの中で生み出されていくのですから、凄みがあります。続くウイントン・ケリーも泣きのフレーズを弾いていて、これも名演です。また過剰ぎりぎりの「ゴルソン・ハーモニー」も、ここでは効果的で、ちなみにこの曲はリー・モーガン自身の他に多くのカバーがありますが、纏まりの点では、この初演が最高だと思います。

そういう前曲の余韻を大切にしつつも、一転して溌剌としたハードバップになっているのが、B面2曲目の「Mesabi Chant」です。なにしろアドリブ先発のリー・モーガンが思いっきり突っ込んだソロを披露するのです。この人はけっして完璧なテクニシャンではありませんが、瞬間芸としてのジャズで一番大切な瞬発力と新鮮さを失わないアドリブの組み立ては最高です。このアルバムでは、そのあたりの勢いが共演メンバーにも伝染しており、日頃ジェントルなイメージのジジ・グライスとベニー・ゴルソンが、かなりハードな一面を聞かせてくれるのも、魅力です。もちろんリズム隊の颯爽とした演奏は言わずもがなです。

そして、そのハードバップな部分が、ラストの「Tip-Toeing」では真っ黒なファンキー節となって爆発します。ミディアム・スローなブルースなんですが、テーマからして黒い、黒い! リズム隊もタメにタメて、ここぞという所で炸裂する瞬間を聞かせますし、随所に現れるホーン隊のキメのリフもカッコ良く、最高です。アドリブ・ソロは全員が好演ですが、やはり、リー・モーガンがトリッキー&ファンキーで、たまりません。特に思わせぶりな出だしから一転し、2コーラス目の弾けっぷりは見事ですし、3コーラス目では再び不気味な印象を醸し出しておいて、安らぎのフレーズに繋げるのですから、当に天才ですねぇ~♪

ということで、やはりこれは名盤中の名盤! 日頃ソフトバップと私が思っているベニー・ゴルソンがハードに迫り、知性派がウリのジジ・グライスが熱くなり、溌剌としたリズム隊が、何時も以上に弾けているのは、やはり、リー・モーガンの天才の成せる技でしょうか。

その破天荒な部分も含んだジャズ的な生き様が、十代ですでに行くところまで行っている雰囲気で、これはその最初の頂点を極めた記録になっていると思います。

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福となせれば

2005-12-02 15:29:24 | Weblog

毎日がこうだったらなぁ……、というのが「災い転じて福となす」でしょう。

これは本当に難しいです。一番良いのは、災いが無いとこなんですけどね……。

ということを、考えさせられてしまうのが、本日の1枚です――

Wynton Kelly (Riverside)

ウイントン・ケリーはモダンジャズのハードバップ期を代表する黒人ピアニストで、これは通称「ウイスパー・ノット」と呼ばれるアルバムです。

録音は1958年、メンバーはウイントン・ケリー(p)、ケニー・バレル(g)、ポール・チェンバース(b)、そしてフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、ジャズ者にはお馴染みの面々ですが、そのセッションがすんなり行ったわけではなく、まず予定されていた録音日にドラムスのフィリー・ジョーが現れないというアクシデントが!

そこで急遽、ドラムレスのトリオで録音した4曲が、このアルバムのB面に収められましたが、これが素晴らしい♪

まず「Strong Man」は愁いをおびたテーマがミディアム・テンポで奏でられますが、ケリーのピアノに寄添うギターとベースが何とも言えない温もりと力強さがあり、いきなり惹きこまれます。そしてアドリブ・パートに入っては、泣きを含んだフレーズを何時もながらの強靭なリズムでスイングさせるケリーが素晴らしく、さらに続くケニー・バレルは、最初のワン・フレーズだけで聴き手をグッとさせます。そして繊細でメロディアスなアドリブ・メロディを積み重ねてテーマに返すのですが、この1曲だけで、このセッションの成功は保証されています。とにかく名演!

続く2曲目の「Ill Wind」は、通常スロー・テンポで演じられる暗い曲なんですが、ここでは颯爽としたリズミックなアレンジで展開し、ケニー・バレルが比較的律儀なリズム・ギターを聞かせるので、ケリーとチェンバースが楽しげにスイングしています。そして待ちかねたように自分のソロ・パートに入っては、得意のバレル節が全開♪ 黒人らしからぬ粋なフレーズを出していますが、それが逆に黒っぽいという特徴が良く出た演奏だと思います。

そのあたりは3曲目の「Don't Explain」ではっきりと表れており、哀しみを満ちたテーマ・メロディを正面からじっくりと料理するケリーに対し、ブルースを直に感じさせる黒いフレーズを主体にアドリブを展開するバレルが流石です。そこでケリーは再び登場して、今度はかなりファンキー調のフレーズを聞かせてくれるという、いろいろな思惑が交錯した演奏になっています。

こうして突入するオーラスには、お約束のブルース大会が待っているわけですが、これが黒い! まずチェンバースのベースが真っ黒なペースを設定し、ケリーは得意の弾けるような躍動的フレーズを連発♪ そしてバレルはモタレ気味のリズムギターからソロに転じては、得意のブルース・リックを繰り出して盛り上げます。この人はけっして偉大なテクニシャンではありませんが、この黒くて洒落た雰囲気は、黒人感覚を超越した粋な部分があり、しかしそれは白人ギタリストが真似して出来るものではありません。

さて、こうしてセッションは最良の雰囲気で進みましたが、やはりドラムレスということで、激しいテンポの演奏は残されませんでした。そこで日を改め、今度はフィリー・ジョーを入れての演奏になるのですが、これが……。

つまりA面に収められた演奏は、何故か、期待した以上の出来にはなっていないと、私は感じています。

まず冒頭は、これも哀愁のモダンジャズ・テーマ「Whisper Not」ですが、ミディアム・テンポの所為か否か、ドラムスが邪魔に聴こえてしまいます。もちろん全員が好演なのですが、これが瞬間芸であるジャズの面白く、不思議なところです。

それでも次のアップテンポ曲「Action」では、フィリー・ジョーが面目躍如の頑張りを聴かせてくれるのですが、どこか荒っぽいだけの演奏に終始します。う~ん、不思議だなぁ……。

それはA面ラストの「Dark Eyes」でも同じことで、この素晴らしいメンバーで、お馴染みの哀愁ロシア民謡が取上げられているのですから、もっとグッと来る演奏で然るべきなんですが、どことなく虚しさが漂っていると、私は思います。

ということで、これは不思議なアルバムで、メンバーひとりひとりは好演なのに、何故か燃えないというか、萌えないA面、そしてそれとは対照的に、突発事故で出来上がったB面が素敵な出来栄えというのが、個人的感想です。

実際、ジャズ喫茶ではどちらが多く鳴っているのか分かりませんが、もし、リクエストされるのであれば、B面をオススメしておきます。これは自宅で聴いても、かなりジャズの毒気に当てられる作品ではないでしょうか? まずはB面1曲目の「Strong Man」、これが全てかもしれません。

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七光りも、また眩し

2005-12-01 16:26:17 | Weblog

「親の七光り」ほどありがたいものは、この世にないでしょう。しかしそれは、両刃の剣でもあるわけですが、本日はそんな1枚を――

Introducing Doug Raney (Steeple Chase)

名ギタリスト=ジミー・レイニーの息子である、ダグ・レイニーのデビュー盤ですが、正直言うと、参加メンバーに私の大好きなデューク・ジョーダン(p) の名前を見つけて入手したのが、本当のところです。つまり、まったくダグ・レイニーには期待していなかったのですが、これが父親譲りの流麗なスタイルに新感覚をプラスして再生させたという、なかなか達者なギタリストでした。

録音は1977年の9月、演奏メンバーは、Doug Raney(g),Duke Jordan(p),Hugo Rasmussen(b),Billy Hart(ds) という、新人・ベテラン入り乱れての興味深いセッションになっています。

まずA面1曲目は、コルトレーンの名演でモダンジャズの聖典ナンバーとなっている「Mr.P.C.」で、定石どおりのアップテンポで演奏されますが、ダグ・レイニーのギターは全く淀みないフレーズを連発してアドリブ・ソロを組み立てています。こういうスタイルは、一般に冷徹な印象を与えるのですが、しかし、ここでのダグ・レイニーは自らの若い情熱の迸りを随所に滲ませて、熱気の撒き散らしています。またベテランのリズム隊は、もちろん的確なサポートで、特にビリー・ハートのドラムスは快感です。そしてお目当てのデューク・ジョーダンは、マイナー・スケールを巧に入れ込んだブルースの情念を聞かせてくれるのでした。

一転して2曲目は、有名スタンダードの「Someone To Watch Over Me」をしっとりと演じますが、ここでのダグ・レイニーのコードワークやキー・スケールの処理等は父親ゆずりの味があって、ニヤリとさせられます。

しかし続く「Bluebird」は正統派ハードバップ・ブルースに挑戦というか、スローな展開でブルースを模索するダグ・レイニーが憎めません。もちろん上手くいっていませんが、それならっ、とばかりに途中から倍テンポでジャズにしてしまうあたりは、なかなかの奮闘ぶりです。そしてそれを後で眺めつつ、ベテランの味を出しまくるのがデューク・ジョーダンのビバップ真髄のピアノというわけです。

そこでA面ラストでは、これも有名なスタンダード曲の「The End Of A Love Affair」が急速調で演じられることになりますが、流石にこのテンポではダグ・レイニーが本領発揮の早弾きフレーズを連発して盛り上げてくれます。ところがリズム隊も負けていません。デューク・ジョーダンを先頭に、ドラムス&ベースが全くのマイペースでありながら、スリル満点の演奏を繰り広げるのです。若い者には負けられんっ♪

で、B面トップは哀愁の名曲「Casbah」が、デューク・ジョーダンとのデュオで、じっくりと奏でられます。テンポはスローなので、ひとつ間違えると退屈の極みになるのですが、ここではそれがギリギリのところで保たれた緊張感がたまりません。ムード音楽として聴き流すことも可能ですが、途中から思わず耳がいってしまう演奏になっています。

そして良いムードになったところで、ギター奏者にはお約束のナンバー「I Remember You」が登場♪ これは父親のジミー・レイニーも十八番ということで、やっぱり随所で親子が同じフレーズを弾いていますが、まあ、そのあたりは一子相伝の必殺技ということで♪

そのあたりは次の「Like Someone In Love」でも同様ではありますが、やはり聴いていて楽しいという本音は隠せません。ちなみにここでの演奏はベースとのデュオなので、ダグ・レイニーのコードワークの秘密が聞かれます。

こうして迎える大団円は、これぞハードバップという名曲の「Unit 7」で、これはウェス・モンゴメリーの極めつきの名演があるので、ギター・プレイヤーは苦しみを承知で挑戦するのでしょうが、やはり苦戦は免れていません。しかし途中では新感覚のフレーズも繰り出して、精一杯の熱演には好感が持てます。また基本スケールを応用した手の込んだフレーズにも、思わずギターを手にしてコピーしたくなるような情熱が溢れています。

ということで、これはウダウダと理屈をつけず、素直に聴いて嬉しいアルバムだと思います。若いリーダーを盛り立てるベテランのサポートは最高ですし、ダグ・レイニー本人も父親からの薫陶を胸に独立せんとする意気ごみを存分に発揮していると思います。

そして実際、この後のダグ・レイニーは地道な活動ではありますが、モダンジャズの王道を行くスタイルで何枚もリーダーを出して行きます。その中には我国のジャズ喫茶で人気盤となった「Cuttin Loose」という作品もありますので、機会があれば、このアルバムと共に聴いてみて下さい。

例によって、ジャケ写からネタ元につなげてありますが、ちなみに現行CDにはボーナストラックとして「On The Green Dolphin Street」が入っています。これまた軽いながらも楽しい快演になっていますよ。

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