OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

未知との遭遇

2006-07-21 17:23:37 | Jazz

雨が続きますね。今年は梅雨明けなんて、あるんでしょうか?

ジメジメとすっきりしない日々には、逆に地味~な、この1枚を――

Triple Exposure / Hal McKusick (Prestige)


ジャズ喫茶の良さのひとつに、知らないミュージシャンとの出会いがあります。そして忽ち虜になるという……。

私にとっては本日の主役、ハル・マキューシックという白人リード奏者がそのひとりです。スタイル的にはレスター・ヤングの影響が大きい、柔らかな歌心の持ち主なんですが、どことなく一筋縄ではいかない雰囲気が滲み出た風貌からも推察出きる様に、かなり屈折した部分も垣間見せる演奏が得意のようです。

ですからガイド本で紹介されるような人ではないのですが、どうやら評論家の先生方や同業者といった玄人筋からの評価が高いとは後に知ったことで、とにかくこのアルバムは、不思議な気持ち良さがたっぷりです。

録音は1957年12月27日、メンバーはハル・マキューシック(as,ts,cl)、ビリー・バイヤーズ(tb)、エディ・コスタ(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という白黒混成のクセモノ揃い! そしてアルバムタイトルとおり、主人公はアルト&テナーサックス、クラリネットの三種の楽器を操るのです――

A-1 The Settlers And The Indeans
 チャーリー・パーシップのサクサクするブラシが気持ち良いテーマから、ハル・マキューシックはアルトサックスで忍び泣きです。そのスタイルはスカスカと滑らかで、リー・コニッツとポール・デスモンドの中間の様だと言えば、グッとこられる皆様も多かろうと思います。
 そういうスマートなアドリブですから、それを支えるリズム隊は逆に力感溢れるものが要求されるのでしょう、続くエディ・コスタのピアノは積極的ですし、ポール・チェンバースは我が道を行く姿勢を貫いてブンブン、唸っています。
 またフロントの相方であるビリー・バイヤーズも隠れ名手として、ここではミュートのトロンボーンでオトボケとツッコミを交錯させた名演を聴かせてくれます。 そしてクライマックスではチャーリー・パーシップのドラムスがリードしてのソロ交換♪ 全体に快適で刺激的なスイング感の連続です。

A-2 I'm Glad There Is You
 ここではクラリネットでの泣きに終始するハル・マキューシックが、せつなさの極みを聴かせてくれます。まず、哀愁のテーマメロディの解釈が抜群なんですねぇ♪ これを聴いて泣かない人はジャズファンではありません、と本日も決めつける私ではありますが!
 エディ・コスタのピアノ、ビリー・バイヤーズのミュート・トロンボーンもさらにせつなく心に染みてまいります。
 そしてラストテーマの哀しい吹奏……。短いながら、何度聴いても泣ける名演だと思います。

A-3 Something New
 リズム隊の力強さに支えられた擬似ハードバップです。つまり白人らしい粋な感覚が消しきれないというか、逆にそれを前面に出した「泣き」の展開が最高です。
 ハル・マキューシックはテナーサックスでレスター派の面目躍如♪ あぁ、単調のようでいて、突如、せつないキメのアドリブフレーズが飛び出すんですから、油断なりません。
 それはビリー・バイヤーズとても同じことで、けっこう考え抜いた構成なのかもしれません。2分58秒目からのフレーズなんて、書き譜の疑惑さえあります。

B-1 A Touch Of Spring
 これもクラリネットのせつない音色が心に染みる名曲・名演です。
 アドリブパートでは最初、力強いベースとドラムスにリードされているような雰囲気ですが、徐々に内向的な美メロとウネウネのフレーズを駆使して自己のペースを取り戻していくあたりが、聴きどころかもしれません。
 つまりリズム隊が秀逸すぎるというか、特にポール・チェンバースはこういう地味なセッションでも凄みを発揮しますねっ♪ チャーリー・パーシップのブラシも最高です。
 おぉ、最後はクラシック風味までっ!

B-2 Blues Half Smiling
 その強靭なリズム隊に支えられた強烈なファンキーブルースがこれです!
 アドリブ先発はタメの効きまくったエディ・コスタのピアノで、もちろん十八番の重低音打楽器奏法が重苦しく炸裂します。
 続くポール・チェンバースのピチカートも緩急自在の黒っぽさですし、それに導かれて登場するハル・マキューシックのクラリネットは、当に闘志を秘めたエグミが感じられます。
 ビリー・バイヤーズのミュート・トロンボーンは軽妙さが先行していますが、全体としてはヘヴィなリズム隊故に、ハードバップ・パロディかも……。

B-3 Saturday Night
 オーラスはアップテンポの楽しい演奏で、ディキシーランド・ジャズのモダンジャズ風展開になっています。
 もちろんハル・マキューシックはアルトサックスで軽快に飛ばしますし、こういう演奏を聴いているとポール・デスモンドとのバトルセッションがあったらなぁ……、等と儚い夢を見てしまいますねぇ。
 続くエディ・コスタ、ビリー・バイヤーズのアドリブもスイング命の淀みの無いスタイルで、歌心の奥義を披露してくれます。またポール・チェンバースは絶好調!

ということで、このアルバムは地味に良い♪ そこに尽きます。そこはかとない歌心が満ち溢れ、ほどよい屈折感と力強さが抜群のアクセントになっているのです。

ハル・マキューシックは目立たない存在の割にはレコーディングの多い人ですが、如何にもジャズという点では、この作品が最右翼ではないでしょうか?

ちなみにこのアルバムは一応「幻の名盤」扱いだったそうですが、現在はボーナストラック付きでCD化されています。そして実はジャズ喫茶よりも、自宅でシミジミと聴くジャズとしては、最適の1枚になっているのでした。

コメント (4)
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好物ばっかり♪

2006-07-20 17:19:08 | Weblog

本日は驚愕のカツ丼弁当に曹禺♪ 380円で分厚いカツと極上のご飯、トロミが絶妙なタマゴと、これで本当に良いんでしょうか?

実は肉屋が経営しているコンビニで売っている限定品、毎日35個しか作らないので、争奪戦になっているのでした。

もちろん買えたのはツキがあったというか、偶然なんですが♪ 多分、明日は無理でしょう。たまたま仕事の途中で寄った店でしたから……。

ということで、本日は私が心底酔い痴れているこれを――

Deep Pocket / Herber Mann (Kokopelli / Mercury)

なんだかんだ言っても、ジャズ物を買うときは、結局、曲とメンツの魅力が優先されるんじゃないでしょうか? 少なくとも私はそうですね。

特にこのアルバムは最たるもので、1992年の製作ですが、その参加メンバーが強烈♪ ハービー・マン(fl) を筆頭に、ロイ・エアーズ(vib)、コーネル・デュプリー(g)、リチャード・ティー(key)、レス・マッキャン(p,vo)、デビッド・ニューマン(ts)、チャック・レイニー(b)、バディ・ウィリアムス(ds) というのですから、そのあたりの愛好者はヨダレが止まらないはずです♪

しかも演目が、スバリ、私の好きな曲ばっかりで――

01 Down On The Corner
 お馴染みCCRのヒット曲を、ハービー・マンはレゲエにアレンジして楽しく聴かせてくれます。
 実は私はレゲエのリズムは好きではないのですが、ここでの爽やかさには完全降伏、夏の朝の起きぬけには、これが意外と効きます♪
 コーネル・デュプリーやロイ・エアーズも涼しい好演ですが、やはりハービー・マンが良いですね♪ ちょっと渡辺貞夫に成りかかっていますが、あくまでも本家はこっちということで、ご理解願います。

02 Knock On Wood
 原曲は南部系ソウル歌手のエディ・フロイドが1966年に放ったヒット曲♪ それをここではレス・マッキャンのピアノとボーカルを前面に出してカバーしています。そしてこれが、全くこちらの期待どおりの快演になっています。
 なにしろ重くてキレるリズム隊のグルーヴが最高ですし、ハービー・マンのお祭フルートが、こういう曲調ではジャストミートの快感です。
 リチャード・ティーの暴れるオルガンやコーネル・デュプリーの白熱のギター、奥底の深いソウルを爆発させるレス・マッキャンの熱唱も強烈で、クライマックスの入り乱れには心底ゾクゾク、感涙させられます。

03 Moanin'
 ジャズ・メッセンジャーズのヒット曲にしてファンキー・ジャズ永遠の聖典が、ここではマイルス・デイビスの「So What」をモチーフにして解釈されています。
 しかし出だしはもちろんゴスペル味のイントロがついており、リチャード・ティーの生ピアノが例の音で魅力的♪ そしてその後から、なんとルンバと4ビートを混ぜ込んだ展開になるのです。
 アドリブパートではハービー・マンとコーネル・デュプリーが、俺に任せろ!
 全体にファンキーというよりはドライな雰囲気が漂っています。 

04 Mustang Sally
 天才ソウル歌手=ウィルソン・ピケットが1966年に放ったヒット曲で、ハービー・マン一党は、その南部感覚を拡大解釈した演奏を聴かせてくれます。
 そのキモは重くてタイトなリズム隊のグルーヴ!
 もちろんハービー・マンにとっては十八番の展開ですから、そのフルートからはクールなソウルが溢れ出てきますし、レスマッキャンの生ピアノとリチャード・ティーのオルガンの絡みも素晴らしく、さらにデビッド・ニューマンのソフトに黒っぽいテナーサックス、ロイ・エアーズのツボを押さえたヴァイブラフォン、コーネル・デュプリーのパキパキ・ギターが炸裂して、完全に私の好きな世界が現出されるのです。
 恥かしながら、私はこの演奏に合わせて下手なギターを弾くのが止められません。 

05 When Something Is Wrong With My Baby
 これも1960年代南部ソウルの代表選手であるサム&デイヴがヒットさせた魂のスロー曲! もちろんハービー・マンは熱く聴かせてくれます。
 それはテーマからデビッド・ニューマンの熟成したテナーサックスと共にソウル度が高い演奏で、短いながらもグッときます。

06 Papa Was A Rolling Stone
 モータウン・レーベルの大看板だったテンプテーションズがニューソウルの扉を開けた名曲・名演に、ハービー・マンが果敢に挑戦したトラックです。
 ここではレス・マッキャンの黒いボーカル、コーネル・デュプリーの名人芸というリズムギター、ロイ・エアーズのメタル風味のヴァイブラフォン、リチャード・ティーの隠し味的オルガンが大きな魅力になっています。
 そして後半に登場するハービー・マンはいつもながらのお祭フレーズを連発していますが、バックで煽るチャック・レイニーのベースも凄まじいですねっ♪
 おまけに大団円では、突如4ビートで突っ走るバンドのグルーヴが、やはり素晴らしいと思います。バディ・ウィリアムスのドラムスもタイトです。

07 Sunny
 私が愛して止まない名曲、これが入っているアルバムはノー文句で買っている私の期待が、全く裏切られていない名演になっています。サンキュー、ハービー・マン♪
 その演奏は、まずコーネル・デュプリーの甘く切ないギター、背後で味をつけるリチャード・ティーのエレピが、また最高です♪ もちろんハービー・マンもクールに甘い吹奏ですから、私はテーマだけ聴いて歓喜悶絶です♪
 当然、その美味しい部分はアドリブパートでもたっぷりで、コーネル・デュプリーは本当に上手いですね! ハービー・マンのツボを外さない歌心♪ グルーヴィなリズム隊もウルトラ級で、永遠に聴いていたい名演です♪♪~♪

08 Mercy, Mercy, Murcy
 あぁ、またまた好きな曲です! ご存知キャノンボール・アダレイ(as) のバンドでは十八番の演目にして1967年の大ヒット♪ 作曲はジョー・ザビヌル(p) という、またもや永遠の聖典ですが、ハービー・マンはこれ以上無いというほど、クールなゴスペル解釈で酔わせてくれるのです。
 タメの効いたリズム隊のグルーヴは強烈至極ですし、数多存在する同曲のカバーの中では当たり前すぎる大名演! つまり素直な素晴らしさに満ちているわけですが、それが案外出来ないのがジャズメンの宿命でしょうか……。それゆえにハービー・マンがイノセントなジャズ愛好者から軽視される理由が、この演奏で分かろうかと思います。
 この素晴らしさを、聴け! と私は命令してしまいます。

09 Go Home
 スティービー・ワンダーが1985年に放った大ヒットなので、ハービー・マンも16ビートで烈しく演奏しています。もちろんこのメンツですから、その演奏はどこまでもグル~ヴィ~♪
 う~ん、それにしてもハービー・マンのフルートは、こういう曲でもさらに輝くというか、ビートとメロディに対するフィーリングが素晴らしいですねっ♪

10 Amazing Garce
 オーラスはレス・マッキャンの黒いボーカルの弾語りにハービー・マンのフルートが絡むという演出になっています。
 もちろんそれは静謐なゴスペル&フォーク大会で、コーネル・デュプーの静かに燃えるギター、緩やかにグルーヴするチャック・レイニーのベース、密かにキメまくるバディ・ウイリアムスのドラムスが、最後にはハービー・マンを情熱の嵐に導くのです。あぁ、何度聴いても最高です♪

というこのCDは、ハービー・マンが原盤権を持っているらしいのですが、その権利関係のゴタゴタから廃盤になり、さらに本人が死去したことから、再発の行方は不明のようです。

しかしその内容は、この手の音が好きな人にはマストアイテム♪ 聴けば必ず虜の1枚になると断言致します。見つけたら迷わず即ゲットして下さいねっ!

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たまにはフルバンを

2006-07-19 18:11:08 | Weblog

またまち大雨で日本中に被害が出ていますね。これからも雨が烈しくなる地域があるとかで、これ以上、被害が広がらないように祈るばかりです。

そして被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。

で、本日の1枚は迫力ブルバン・ライブという、これを――

秋吉敏子-Lew Tabackin Big Band Live At Newport '77 (BMG)

かつて日本のジャズは大いにバカにされたものです、たったひとりの女性を除いて!

それが秋吉敏子というピアニストです。彼女は大東亜戦争後に大陸から引き揚げて来た後、家族を助けるためにジャズを演奏し始めたのがプロとしてのスタートになったわけですが、クラシックの勉強をみっちり仕込まれていたので、忽ち、当時の最先端であるビバップ、それも黒人系のモダンジャズをこなせる実力を身につけたのです。

そして来日したオスカー・ピータソン(p) との邂逅からヴァーヴ・レコードのオーナーであるノーマン・グランツに認められてレコーディングを行い、さらにアメリカに留学し、世界に羽ばたいていったのですが、いくら実力があっても、本場の水は甘くありません。

本物のジャズを追求するほどに、実際の現場では和服を着せられて「営業」のような仕事ばかりだったようです。もちろん「女」として、また敗戦国である「日本人」としての哀しみや苦しみもあったと言われています。

ただし当時に残された録音は、全てが素晴らしく、モダンジャズの永遠の宝物になっているのも、事実です。しかしそれでも経済的なものも含めた苦境からは脱出できず、ついに1970年代初頭、夫でテナーサックス奏者のルー・タバキンとともに、西海岸に移住するのですが、そこで再びジャズへの情熱を燃やして結成したのが、長年の夢だった自己の作編曲を演奏するビックバンドです。

そしてその成功は、彼女の実力からすれば当たり前かもしれませんが、ビックバンドという存続が難しい形態を思えば、それはほとんど奇跡的でした。なにしろ構成メンバーは西海岸の一流ばかりですし、スタンダードの人気曲を演奏しないバンドに仕事があるわけもないのです。

しかしそこは日本のレコード会社のバックアップとか、新アルバム発表に合わせたプロモーション・ツアーでのライブ等、つまり「営業」では無いステージ活動が、逆に業界で評価されたようです。

もちろんレコードで発売された作品や演奏が素晴らしかったのは、言わずもがなです。当時=1970年代のジャズ喫茶では日本人のレコードは、なかなか鳴らないのが普通でしたが、秋吉敏子のビックバンド物は例外でした。大学のジャズ研とかで演奏している人達からの支持もまた、熱烈でした。

こうして日本のみならず、本場アメリカでも評判になっていた秋吉敏子オーケストラが、世界のジャズの中心地であるニューヨークで演奏した際のライブ盤が、これです。

録音は1977年6月29日、「ニューポート・ジャズ祭・イン・ニューヨーク」のプログラムのひとつとして、リンカーン・センターで行われた演奏を収めています。メンバーは秋吉敏子(p)、ルー・タバキン(ts,fl) をはじめ、ボビー・シュー(tp) やゲイリー・フォスター(as) 等々の名前の通ったジャズメンの他に、常日頃はスタジオ・セッションで活躍する超一流の者ばかりで構成されたビックバンドです――

A-1 Strive For Jave
 いきなりアップテンポで吹きまくるルー・タバキンのテナーサックスが、豪快です! この曲は循環コードといって、ジャズではお約束の部分が強いので、調子に乗ればアドリブが止まらないわけですが、ノッケからそこにド迫力のテーマとカッコ良いリフが襲いかかってくるのですから、もうたまりません♪
 続くディック・スペンサーのアルトサックスもウルトラ快調で、厳しくアレンジされたアンサンブルと烈しく対峙して爆発するのです。
 そのノリは次に登場するリック・カルバーの爆裂トロンボーン、滑らかな歌心を披露するボビー・シューのトランペットにも感染するのですが、ここでの主役は完全にバンド全体のアンサンブルの物凄さです!
 あぁ、怖ろしいほどの興奮度ですね♪

A-2 A-10-205932
 ルー・タバキンのフルートが大活躍する幻想的な哀愁曲です。この膨らみは木管を多用したアンサンブルに秘密があるのですが、サックス・セクションの構成メンバーは、全員がマルチリード奏者としてフルートやクラリネットまでも完全にこなす実力者揃いですから、これが可能なのです。
 そして中盤からは力強いハードバップになって、ボビー・シューのトランペットが見事♪ しかもバックに彩り豊かなアンサンブルがついているので、聴いているうちに包み込まれるような快感があります。
 さらに後半にはフルートのソロとアンサンブルが用意されており、全く飽きさせない構成が流石だと思います。
 ちなみにタイトルは秋吉敏子の外人居住者番号とのことです。

B-1 Hangin' Loose
 秋吉敏子のピアノを中心としたトリオ演奏からスタートしますが、私は彼女のピアノが大好きです♪ 初期はモロにバド・パウエルでしたが、ここではセロニアス・モンクとビル・エバンスの良いとこ取りながら、完全に「敏子節」に昇華されてた雰囲気が憎めません。緩やかなスイング感が素敵です。
 そして膨らみのあるバンド・アンサンブルを縫って展開されるルー・タバキンの悠然としたテナーサックス、スティーヴン・ハフステッターの粋なトランペット、さらにディック・スペンサーの自意識過剰なアルトサックスでの泣きというアドリブが続いていくのです。
 全体に穏やかな演奏ですが、そのアレンジの厳しさはここでも天下一品! 聴いていてゾクゾクする瞬間が何度も訪れますし、ルー・タバキンの全くコルトレーン色が無い図太いテナー・サックスは、この当時、逆に新鮮でした♪

B-2 Since Perry / Yet Another Tear
 そのルー・タバキンが大活躍するのが、この曲です。
 ピーター・ドナルドのドラムソロをイントロにして、前半は物凄い勢いでルー・タバンキンが吹きまくり! それはビバップ以前のチュー・ベリー(ts) とかコールマン・ホーキンス(ts) あたりの、いささか古いスタイルを基調にしながらも、モダンジャズ王道のソニー・ロリンズ(ts) の影響も受けた温故知新な魅力に溢れています。
 もちろんバンド・アンサンブルも激烈です! 鬼のように吹きまくるルー・タバキンの背後から嵐のように襲い掛かってくるそれは、もう火事場のなんとやら! 豪快で爽快、なおかつ怖ろしいものです。
 で、中盤はルー・タバキンの無伴奏ソロ♪ ここではソニー・ロリンズからの影響がモロ出しになりますが、本人はあくまでも自分のグルーヴを大切にしているようです。
 そして後半は歌心を追求しつつも、ハードバップ本流のスタイルで大ブロー大会! 息の長いフレーズを一気に吹き通す荒業の連続が凄すぎます!
 こうして向かえた終盤は、ムードテナーの世界がたっぷりと♪ 秋吉敏子の流麗なビアノによるバックも効果的ですし、豊かな色彩のバンド・アンサンブルと骨太なテナーサックスが、全くジャズの王道を聴かせてくれるのでした。最後には「ふすすすすすす~」という、サックスならではの「音」がサービスされています♪

という演奏は、全てが驚嘆の拍手で迎えられています。実際、本当にカッコ良いトラックばかりで、聴いていて止められません。

ただしドラムスとベースが少しばかり引っ込んだ録音になっているが残念……。まあ、そのあたりは大音量で聴いて下さいということなんでしょうし、そうやって聴くのがフルバンの魅力でもあります。ジャズ喫茶の人気盤だったことが肯けるのでした。

ちなみに、この時の演奏の残りは続篇の「Ⅱ」というアルバムに収められており、そちらの出来も秀逸です。バンドの気合の入り方も半端ではなく、特に秋吉敏子にしてみれば、本場ニューヨークへの凱旋という意味合いもあったのかもしれません。

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朝からブルース

2006-07-18 18:38:34 | Weblog

最近仕事が忙しく、私的にも落ち込む事があったりして、どうも朝に調子が出ません。ブルーにこんがらがって、というのはディランですが、ブルースどっぷりの朝には、これを聴くことにしています。

The Soulful Piano Junior Mance (Jazzland)

ジャズとブルースには、切っても切れない宿縁があり、ジャズとソウルは腐れ縁!?

このアルバムは聴いているうちに、そんなことが心を過ぎる1枚です。

録音は1960年10月25日、メンバーはジュニア・マンス(p)、ベン・タッカー(b)、ホビー・トーマス(ds) というトリオ物です。

ジュニア・マンスはブルースとブギウギをルーツにしながら、バド・パウエル以降のビバップも吸収した、いかにもハードバップ愛好者が御用達の存在♪ ベン・タッカーは堅実なシブイ脇役ですが、ボビー・トーマスは息の長い活動をした名手で、なんと末期のウェザー・リポートにも参加している隠れ実力者です――

A-1 The Uptown
 変拍子ながら、なかなか楽しいブルースで、両手のバランスとブルースそのものというフレーズばかりのアドリブが魅力です。ビートがグイノリでは無いので、なんとなく地味な雰囲気なんですが、それが深いブルース・フィーリングに彩られていくあたりに、グッときます。

A-2 Ralph's New Blues
 お馴染みMJQの持ちネタに果敢に挑んで、最高の結果を出してしまった演奏です。感情を押し殺したような出だしから、徐々に熱していくブルース・フィーリングは、クライマックスでゴスペルに転化し、最後には昇天!
 ジュニア・マンスのピアノスタイルはブロックコードを多用していますが、タメの効いたシングルトーンとの対比も鮮やかですねぇ~♪

A-3 Main Stem
 デューク・エリントンが作った隠れ名曲をアップテンポのハードバップで処理していますが、バカノリのように見せかけて、実は考え抜かれたアドリブになっているのではないか? という疑念も感じられます……。

A-4 Darlin Je Vous Aime Beaucoup
 一転、哀愁のスロー演奏です。
 これはナット・キング・コール(vo,p) の持ちネタということで、ここでは黒い感覚に加えてジェントルな雰囲気も滲ませた、ジュニア・マンスの二面性が楽しめます。それが全く、上手いんです♪ 当に名曲・名演でしょう♪

A-5 Playhouse
 ジュニア・マンスが書いたゴスペル味のハードバップ曲で、十八番のフレーズの連発には、何となく同系のピアニストであるレイ・ブライアントを想起させられます。もう少し派手さが欲しいという……。

B-1 Sweet And Lovely
 お馴染みのスタンダード曲がブルースに彩られてハードバップに変換された演奏です。スローな展開がなんともグルーヴィで、しかも原曲の甘さも活かされているという素晴らしさです。
 ここでもタメの効きまくったブルースのフレーズが多用されていますが、クセやクサミが無いところは、良いですねぇ♪

B-2 Oo-Bal-Dee
 落ち着いた出だしから、破壊的なブロックコード弾きが飛び出したりする、これもジュニア・マンスならではのグルーヴが満載! もちろん途中からは大ゴスペル大会になるのでした。

B-3 I Don't Care
 これも落ち着いた演奏ですが、そこはかとない哀愁やエキゾチック感覚が不思議な味になっています。
 アルバムもここまで聴いてくると、ジュニア・マンスは何時も同じ手ばかり使う、融通の利かないタイプだとわかってくるのですが、それでも止められない魅力が確かに有るピアニストだと思います。

B-4 Swingmatism
 これも地味~な演奏で、まあ、聴くほどに味が滲みて来るといったところでしょうか……。それでも徐々に盛り上げて、2分目あたりから大ゴスペル&ファンキー大会に突入していきます。あぁ、間違いなく、これもハードバップです!

ということで、派手さがほとんど無く、全篇がジュニア・マンスのピアノを中心にベースとドラムスが堅実にサポートしているだけのアルバムなんですが、これが朝一番とか、仕事をしながら聴くと威力を発揮します。

つまり私は聴くほどに魂が高揚していくのです。まさにタイトルに偽り無し!

ジワ~っと周囲が黒くなっていく快感に酔い痴れるアルバムだと思います。

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豪放磊落ノーテンキ

2006-07-17 19:40:18 | Weblog

昨日は友人の急逝があって、うろたえました。突然死でした。

思えば、ここ1年で、私の周りでは2人目……。けっこうストレスが蓄積していたようですし……。

で、私の場合もストレスと疲労が……。なんて言うと、いつもノーテンキな私は笑われるかもしれませんが、他人事ではないはずで……。

という暗い自問自答はこのくらいにして、本日の1枚は爽快なこれを――

Sonny Rollins Plus 4 (Prestige)

CD時代になってもなお、アナログ盤の存在は廃れることがなく、特にオリジナルプレス盤の価値は絶大になるばかりですが、それではCDでの鑑賞とは、所詮後付なのか? というモヤモヤしたものが、最近、広がりつつあります。

それについての私の結論は、否です。

何故って、アナログ盤でもCDでも、それは結局マスター音源のコピーに過ぎないわけですし、そこに拘り始めたらもう、オリジナルマスターを入手する以外にないわけですが、それは極論としても、本日の1枚なんかアナログ盤ではオリジナルプレスも含めて、どれも満足出来る音質ではありませんでした。

なんか抜けが悪いというか……。

で、このアルバムはソニー・ロリンズをリーダーにしていますが、実質的には当時のクリフォード・ブラウン&マックス・ローチの双頭バンドによる演奏になっていますので、本家の録音から作られたエマーシー・レーベルのアルバムに比較すると、その音の悪さが顕著でした。

ただし内容は極上♪

ですからCDが発売された当時、最も早い時期に私が購入したものの1枚が、これでした。もちろん、その狙いは少しでも良い音質で聴きたい! そこに集約されています。

録音は1956年3月22日、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、リッチー・パウエル(p)、ジョージ・モロウ(b)、マックス・ローチ(ds) という最強バンドです――

A-1 Valse Hot
 ソニー・ロリンズが書いたワルツ曲を徹底的にモダンジャズ=ハードバップで解釈した名曲・名演です。
 その要は絶対に崩れないマックス・ローチのドラムスですが、それに対して緩急自在のノリで豪快にスイングするのがソニー・ロリンズならば、クリフォード・ブラウンは律儀なタメとグリグリの突進!
 もちろん両者共、歌心とスリルに満ちたアドリブに撤していますし、特筆すべきはマックス・ローチがワルツタイムに固執しながらも、実はポリ・リズムという暗黙の了解でバンドを煽っていることです。
 こういう危ない部分は、結局、優秀なバンドメンバーが揃っているからこそ可能な秘儀でしょう。正直、リズム隊だけの演奏になると脆さが露呈する瞬間もあるのですが、そこはマックス・ローチのエグミの効いたドラムソロで帳消しです。
 それにしても、この楽しく覚えやすいテーマ・メロディは素敵ですね♪

A-2 Kiss And Run
 スタンダード曲を素材に正統派4ビートでハードバップの真髄が披露されます。
 先発はもちろんソニー・ロリンズ! 豪放磊落、天才的なリズム感に裏打ちされた白熱のアドリブが余人を寄せ付けない迫力です。
 続くクリフォード・ブラウンは、もう待っていられないとばかりに、ソニー・ロリンズのソロの最後に飛び込んで爆裂です♪ あぁ、これが即興演奏でしょうか!? 全てが完全な「歌」であり、リズム的興奮とスリルは、もう神業であり、その音色も大きな魅力です♪
 したがって、次に登場するリッチー・パウエルは完全にワリをくって、アドリブの出だしでは、どうして良いか迷い道になっているほどです。まあ、それでもなんとか格好だけはつけますが、その後にはソニー・ロリンズとクリフォード・ブラウン、そしてマックス・ローチという天才3人による激突があるのですから、いやはやなんともです。
 本当に良い時代でした♪

B-1 I Feel A Song Comin' On / 胸に歌があふれ
 タイトルに偽りなしの快演です。もちろん素材はスタンダート曲ですが、テーマ部分や演奏全体にマックス・ローチの自在なドラムスを活かした巧みなアレンジが施されているので、全員が油断出来ない雰囲気です。
 もちろんアドリブパートは大充実! ソニー・ロリンズは自分だけの「節」で天下一品の域に達していますし、クリフォード・ブラウンは言わずもがなの強烈さ♪
 リズム隊も要所の仕掛けを軽くクリアしての熱演になっています。

B-2 Count Your Blessings Instead Of Sheep
 この曲だけ、クリフォード・ブラウンが抜け、ソニー・ロリンズのワンホーン演奏になっています。
 それゆえに短い演奏ですが、ミディアム・テンポでグルーヴィに歌うこの時期のソニー・ロリンズは、やはり凄いですね! あの名盤「サキソフォン・コロッサス (Prestige)」が聴きたくなると言えば、その雰囲気はご理解いただけるかと思います。

B-3 Pent-Up Horse
 出だしからゾクゾクするグルーヴィな雰囲気! これがハードバップです!
 アドリブ先発のクリフォード・ブラウンはソフトでパワフル、シャープでぬくもりのあるソロを存分に聴かせてくれますし、ソニー・ロリンズは大らかなノリと自在なタイム感覚で勝負しています。
 ここでのリズム隊はピアノのリッチー・パウエルが休んでドラムスとベースだけがホーンの2人をバックアップするところもあり、当時としては進歩的というか、今日聴いても、なかなかスリルとサスペンスに溢れた演奏になっています。

ということで、これもジャズの歴史的名盤となっている演奏集です。

そして冒頭に述べた音質の問題は、CD化によって、かなり改善されています。というか、私の知っているアナログ盤は、盤質そのものが粗悪でチリチリ・ジャリジャリしていましたし、日本プレス盤もカッティングレベルが低く、音そのものの迫力がイマイチでしたから、いろいろと悪く言われるCDであっても、ここでは聴き易く、鑑賞に集中出来ると思います。 

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絶句

2006-07-16 18:42:23 | Weblog

友人が急逝……。

これから通夜です。

何年も会っていなかったのですが、知らせを受けたときは、まさか……、と絶句でした。

なにしろ故人は健康がウリというか、医者知らずの健康体でしたからねぇ……。

入浴中に倒れて、そのまま……。

う~ん、といわけで、本日の1枚はお休みさていただきます。

合掌。

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天邪鬼盤?

2006-07-15 20:03:25 | Weblog

今年も暑い夏がやってきましたね!

今日は各所を駆けずり回って疲れ果て、途中でジャズ喫茶で休憩、これをリクエストしてきました――

Motion / Lee Konitz (Verve)

世の中、裏切りはつきものですが、それが良い方向になることは、滅多にありません。たいていは失望、怒り、驚愕、脱力……。そんなものが去来して、最後には自分の不甲斐無さを嘆くか、相手を怨むか……。

このアルバムなんか、私にとっては、そうしたブツのひとつです。

ご存知、リー・コニッツと言えば、白人クール派のアルトサックス奏者で、その冷淡な中にも和みが滲む歌物解釈は、真の天才だけが成せる技です。

また抑揚が無いのに、強烈にドライブするアップテンポでのアドリブの展開も、同様に聴き手を不思議な感動に導くのです。

で、このアルバムはお馴染みの人気スタンダード曲を素材に、しかも凄いメンツとの対決がある! 最初、ジャケットからの情報では、そう推察出来ました。

録音は1961年4月29日、メンバーはリー・コニッツ(as)、ソニー・ダラス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) というピアノレスのトリオ! そして次の曲が演奏されたのですが――

A-1 I Remember You
 ソニー・ダラスのベースが全体をリードする雰囲気というか、まず、あのお馴染みのテーマメロディがほとんど出ずに、リー・コニッツはあくまでもテーマをアドリブの素材として自分の下へ引き寄せることばかりしています。
 もちろん、そのアドリブはフワフワ・グイグイ突っ走る、何時ものコニッツ節ではありますが……。
 またエルビン・ジョーンズは時代的にもジョン・コルトレーンと共演している時と、なんら
変わらぬスタイルでドラムスを叩きまくっているのですが、録音の按配から、イマイチ迫力が感じられません……。
 初っ端から完全にこちらの思惑が外れた???の演奏で、僅かにラストテーマが素直に吹かれているのが、救いでしょうか……。

A-2 All Of Me
 これもアップテンポでぶっ飛ばした演奏ですが、あの哀切のテーマが出ません。つまりアドリブだけ聴いて欲しいんだよっ! というリー・コニッツの実在主義が露骨に出たという……。
 ですから、エルビン・ジョーンズは全篇で怒りのドラムスを炸裂させていますので、前曲よりは爽快感があります。気になったドラムスの録音状況も、やや改善されています。
 さらにソニー・ダラスが我関せずの素晴らしさで存在感満点♪ リー・コニッツも鋭いツッコミを聴かせてくれるのでした。
 これはボリュームを上げたくなる演奏です!

A-3 Foolin' My Self
 リー・コニッツが事ある度に演奏している哀愁のスタンダード曲です。
 つまり十八番というわけですが、ここではベースとドラムスに強烈な存在感がある所為か、泣きとツッコミが何時もより大袈裟と感じます。
 しかしそれが快感なんですねぇ。荒っぽい雰囲気と紙一重なんですが、そこは流石にリー・コニッツ♪ ファンにだけ理解出来る部分かもしれませんが、やはり惹きこまれてしまいます。
 ただし最初に聴いた時は、これも完全に???でした。だって、歌心が無いんですから! そこは後半で聴かれる3者の絡みで解消されるのですが……。

B-1 You'd Be So Nice To Come Home To
 この曲をアルトサックス奏者が演じると、嫌でもアート・ペッパー(as) と比較される運命にあるわけですが、そこはリー・コニッツも百も承知! ほとんど原曲メロディを吹かず、いきなりアドリブに走っています。
 それはエルビン・ジョーンズのド迫力の煽りとソニー・ダラスの地鳴り如きスイング感にガッチリと支えられたもので、とにかく好き放題に吹きまくるリー・コニッツに酔い痴れる他はないのですが……。
 本音はやはり、アート・ペッパーのような歌心の妙技を聴かせて欲しかったのです。なにせリー・コニッツは、誰よりもそれが出来る実力者なんですからっ!
 しかし無いもの強請りは哀しいということで、ここはベースとドラムスを中心に聴き、苦痛の泥沼から被虐の喜びを見出すという、SMの如き鑑賞法が王道かもしれません。
 実はけっこう、好きな演奏です♪

B-2 I'll Remember April
 エルビン・ジョーンズのドラムスをイントロにして、またまたリー・コニッツがアドリブばっかり吹いていきます。
 もちろんテーマメロディの断片はチラチラと出てくるのですが、煮え切らないフレーズの連続にはイライラさせられます。
 しかし、それとてもリー・コニッツだけの得意技というか、全く余人の想像力を超越したアドリブ展開は、ハマると抜け出せません。

ということで、ジャズ入門者がこれを聴くと、完全にジャズを敬遠してしまう演奏集になっています。

ということは、私のような天邪鬼御用達なのか?

という疑念がつきまとうのですが、全くそのとおりだと思います。なにせ、わざわざ有名スタンダード曲ばかり演奏しているようなフリが意地悪く、また1曲毎の演奏時間が必要以上に長いという……。

もう勘弁出来ん! そう思った瞬間、エルビン・ジョーンズの怒涛のドラムスが炸裂したりするんですから、いやはやなんともなアルバムだと思います。

ただし大音量で聴くと、非常に快感♪ 私は、たま~にジャズ喫茶でリクエストしてはエツに入っています。暑いなあぁ……。

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エネルギッシュ・トリオ

2006-07-14 17:20:52 | Weblog

日本最高のソウルシンガー=忌野清志郎のガン告白には、衝撃を受けました。

一刻も早い社会復帰を望んでいますが、最悪、もう、あの魂の歌は聴くことが出来ないのか……、と悪い方向にばかり気持ちが向かいます。

私に出来ることは、回復を祈って「念」を送るだけですが、頑張って欲しいと心から願っています。

ということで、本日の1枚は生命エネルギーに満ちたこれを――

Oscar Peterson At The Stratford Shakespearean Festival (Verve)

偉大なジャズピアノの巨匠=オスカー・ピーターソンの演奏は物凄いエネルギーに満ちていますが、その偉人と共演するメンバーも、負けず劣らずの実力者でなければ務まりません。

特に歴代レギュラートリオに参加した面々は全てが超一流! その3人による丁々発止の遣り取りがあってこそ、オスカー・ピーターソン本人の凄さが浮彫りになるという仕掛けが強烈です。

このアルバムは、その最たるもので、録音は1956年8月8日、カナダでのライブセッションで、メンバーはオスカー・ピーターソン(p)、ハーブ・エリス(g)、レイ・ブラウン(b) というドラムレス・トリオです――

A-1 Falling In Love With Love / 恋に恋して
 何気ない出だしながら、全体に緻密なアレンジが施されていることが、テーマ演奏で分かります。しかしトリオとしてのグルーヴは、それに左右されることなく強烈で、ギターとベースによって弾き出されるビートが素晴らしく、オスカー・ピータソンも心置きなくピアノで楽しくも怖ろしいフレーズを連発していきます。
 あぁ、この歌心とジャズどっぷりのノリ、グルーヴィな感覚は、とてもドラム無しとは思えません! もちろんレイ・ブラウンの繊細かつ豪胆なベースとハーブ・エリスのカントリー風味の入ったギターも素晴らしく、当に3者の思惑が交差して成り立つ至芸になっています。

A-2 How About You
 これも緻密なアレンジが施してありますが、それによって逆にジャズ的な面白さが強調された、凄まじい演奏です。
 まずハーブ・エリスがビバップというよりは、ウェスタン・スイング丸出しのフレーズで疾走、続くオスカー・ピーターソンはタメの効いた早弾きでグイノリの強烈スイング! 「ビディビディ」呻く本人の濁声も印象的ですが、この人の凄いところは、ちゃんとそのとおりのフレーズが鍵盤から発散されるところです。
 そして徐々に盛り上げて山場に繋いだ瞬間、レイ・ブラウンのブレイクから核心を突いたベースソロに続く部分は、最高です。

A-3 Flamingo
 魅惑のスタンダード曲を幻想的に解釈していくこのトリオは、やっぱり名人の集りだと痛感させられる演奏です。
 主旋律を奏でるオスカー・ピーターソンに寄添うレイ・ブラウンのベース、素晴らしいオカズを入れるハーブ・エリス♪ もう、それだけで悪いはずが無く、各々が役割交代しても、その基本線を大切にした仕上がりには、心底、酔わされてしまいます。

A-4 Swinging On A Star
 初っ端からド迫力の演奏で、トリオは馬力全開でぶっ飛ばしています。
 時折入る「チャカポコ」の効果音は、ハーブ・エリスがギターのボディを叩いて作る得意技で、抜群のアクセントになっています。
 で、ここではそのハーブ・エリスとレイ・ブラウンが前半に素晴らしい掛け合いを披露しするので、観客は大喜び♪ そして後半では、いよいよオスカー・ピーターソンが登場、呻きながらも豪快にスイングする神業ピアノで強烈なアドリブを披露していきますが、エキサイトしてもトリオとしての一体感は崩れることがなく、しっかりスジの通った演奏になっています。

A-5 Noreen's Nocturne
 オスカー・ピーターソンのオリジナルで、その素敵なテーマでは、トリオの3者が別々のメロディを奏でる瞬間もあるという、ちょっとクラシック音楽風味のアレンジが魅力です。
 そして演奏はアップテンポでアドリブパートに突入しますが、ここでもトリオの面々は唯我独尊と協調を両立させた素晴らしい展開を聴かせてくれます。
 特にハーブ・エリスは全く乱れない早弾きからタメの効いたキメ、オスター・ピーターソンは言わずもがなのグイノリ、その背後でグルーヴィなウォーキングを聞かせるレイ・ブラウンは流石の完成度です。

B-1 Gypsy In My Soul
 B面に入ってもトリオの好調さ増すばかり♪ この緊張感の持続がオスカー・ピーターソン・トリオの凄さで、実は案外、この当たり前の事が成し遂げられないのが、ジャズという瞬間芸の世界です。
 で、ここではズバリ、トリオでの物凄いノリが堪能出来ます。正直、オスカー・ピーターソンもハーブ・エリスも、何時も同じようなフレーズばかり弾いているように聴こえますが、その場その場のインスピレーションは限りなく大切にされているわけですし、それをここまでグルーヴィに表現してしまう実力と情感は最高です。
 最後には一転してクラシック調のキメが容易されており、全く楽しくなりますよ♪

B-2 How High The Moon
 さあ、ここからが怖ろしいまでのクライマックスになります。
 この曲は有名スタンダードですが、実はモダンジャズが創成されるカギとなったコード進行らしく、つまりアドリブの素材としては刺激的に面白いということで、多くの素晴らしいバージョンが生まれていますが、このオスカー・ピーターソン・トリオの演奏は一際、秀逸です。
 緩やかな出だしから、まずハーブ・エリスが独特の泣きとウネリを聴かせます。そこではギター演奏の特色であるチョーキングやピッキングの妙技が存分に楽しめますし、歌心の豊かさは言わずもがなです。
 そしてレイ・ブラウンはバッキングの巧みさに加えて、ソロでも野太くスイングしながら繊細なアドリブ・メロディを披露するのです。
 さらにオスカー・ピーターソンは徹頭徹尾、グルーヴィ♪ 「ビディビディ」呻く濁声も素晴らしい芸になっていますし、自分だけが倍テンポで攻めまくり、いつしかバンド全体が猛烈なスイングの波にノッた時には、凄まじいブロックコード弾きの嵐を巻き起こしているという、強烈な演奏です。
 おまけにその瞬間、サッと鮮やかな引き際で演奏がラストテーマに入るあたりは、本当にゾクゾクさせられるのでした。

B-3 Love You Madly
 大拍手の中、これも緩やかに演奏がスタートしますが、テーマ部分から複雑なアレンジが施されており、それを何気なくこなしていくトリオは素晴らしい♪ あぁ、この和み、このスイング感、この黒っぽさ、粋なメロディ解釈……等々、何度聴いても呆れるほどに纏まったトリオだと思います。
 もちろんアドリブパートではオスカー・ピーターソンが思いっきり自己主張! ハーブ・エリスもカントリー・リックで応戦し、レイ・ブラウンは技巧の全てを発揮して繊細なソロを披露しますが、その3者が絡みあう瞬間が本当に強烈で、特に4分50秒目あたりからの大爆発には必ずや興奮させられるでしょう。
 そして一端押さえた感情を再び烈しく吐露していくトリオは、ネバリと自意識過剰のクライマックスに突入するのですが、最後まで緊張感が途切れない、大名演だと思います。
 
B-4 52nd Street Theme / 52丁目のテーマ
 オーラスはビバップの代表曲が猛烈なアップテンポで演奏されるという、当にこのトリオでなければ成し得ない、究極の至芸が展開されます。
 オスカー・ピーターソンは言わずもがなのフルスピード・スイング! 途中で仕掛けられているリフも鮮やかですし、続くハーブ・エリスも必死の早弾き! これには早弾き自慢のロック系ギタリストも仰天でしょう。
 また絶対に崩れないレイ・ブラウンのタイム・キープも流石です!

ということで、あまりにもエネルギッシュな演奏ばかりですから、聴いていて当然、疲れます。しかしそれは、心地良い疲労であって、その生命力の発散がジャズの魅力なわけですが、それにしても昔のLPは上手く出来ていて、ちょうど片面を聴くと、心地良い疲労がピークにくるように設定されていますね。

ですから、ここでもCD鑑賞ならば、半分ずつ聴くとか、じっくりお楽しみ下さい。全てが素晴らしいトラックばかりですので、安心して身も心もジャズに浸ることが出来ると思います。

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秘宝発掘♪

2006-07-13 17:53:08 | Weblog

午前中は物凄い集中豪雨でした。今でも雨は降り止まずですが、被害が出ないことを祈りつつ、本日は特選盤してこれを――

The Giants Of Jazz Live In Prague 1971 (Impro-Jazz)

久々にとてつもないDVDに曹禺しました。

その内容は、1971年に欧州巡業を敢行した大物ジャズメンから成るオールスターズ=ジャイアンツ・オブ・ジャズのライブ映像です。

なにしろメンバーが物凄く、ディジー・ガレスピー(tp)、カイ・ウィンディング(tb)、ソニー・ステット(as,ts)、セロニアス・モンク(p)、アル・マッキポン(b)、アート・ブレイキー(ds) という、モダンジャズの歴史を作り上げてきた偉人ばかり!

このツアーからは既に公式・非公式を含めて何枚かのアルバムが発表されており、その中のひとつは3月7日のプログでも取上げましたが、映像があったとは驚愕でした。恐らく映像・音源ともに初パッケージ化と思われますし、もちろん内容は見所満載♪ タイトルどおり、1971年10月30日のプラハでのステージを約68分収めており、画像は白黒ですが、カメラワーク&画質も良好♪ もちろん「リージョン・フリー」です――

01 Around Midnight
 ご存知、セロニアス・モンク畢生の大名曲に3管のフロント陣が彩りを添えるテーマ解釈から、ソニー・ステットがアルトサックスで泣きます。またカイ・ウィンディングは厚みのある音色を活かして悠々自適のブロー、それを引き継ぐセロニアス・モンクは神妙に自己分析です。
 ここは大きな指輪が印象的なセロニアス・モンクの指の動きがたっぶり映し出されますし、アル・マッキボンの的確なサポートも素晴らしいかぎり♪
 そしてディジー・ガレスピーがミュートでミステリアスなソロを聴かせますが、そのトランペットはもちろん、45度に上向きに曲がった、例のやつです。
 全体の演奏としては、やや大人しい雰囲気ですが、まあ、名刺代わりの1曲という趣でしょうか。最後にはディジー・ガレスピーのオトボケも楽しめます。

02 Tour De Force
 ド派手なビバップ曲が期待通りに演奏されます。
 アドリブ先発はカイ・ウィンディングで、この人はメンバー中、唯一の白人ですが、その闊達なプレイは本当に迫力がありますねっ♪ バックでリフをつけるディジー・ガレスピーとソニー・ステットもカッコ良いです。
 そして続くソニー・ステットは早々と上着を脱いでテナー・サックスで熱演! やや調子が出ていない雰囲気ですが、その貫禄と自然体のアクションはジャズの歴史を体現するものです。
 さらにお待ちかね、セロニアス・モンクはリズムに対して緩急自在のノリからモンク節をたっぷりと披露しています。ベースとドラムスの相性も素晴らしく、このトリオは好き勝手をやっているようで、実は緻密に互いの演奏を尊重していると思います。
 もちろん最後に登場するディジー・ガレスピーも負けずに至芸を見せつけ、特にベースとのデュオで聴かせる抑えた表現は、流石の奥深さです。またベースのアル・マッキボンは分厚く大きな手で地鳴りの如きソロを展開、ここは映像作品ならではの楽しみになっています。

03 Everything Happens To Me
 ソニー・ステットがアルトサックスで一人舞台♪ アナログ公式盤「The Giants Of Jazz」でも素晴らしい演奏が残されていたので、期待してしまいますが、結論から言うと流石の素晴らしさ♪ 先のアルバムとは別の良さがあり、指の動きがたっぷり見られるという、映像作品ならではの楽しみがありますし、背後で慎重に音を選びながら伴奏するセロニアス・モンクの姿も印象的です。
 また中盤にソニー・ステットが怖ろしいばかりの倍テンポ吹きを見せてくれますよ♪ この人は何時だって真剣勝負! その表情、観客に大きく礼をする嬉しそうな場面等々も、たっぷりご覧になれます。

04 Woody 'n You
 アート・ブレイキーのアフロなドラムスがリードする白熱のビバップ曲です。
 アドリブパートはもちろん4ビートになりますが、その熱いドラムスに煽られて、まずソニー・ステットがスピード感満点に突進すれば、カイ・ウィンディングは唯我独尊で早いフレーズを連発し、最後のキメのアクションがとてもカッコ良いんですねっ♪
 またディジー・ガレスピーはハイノートの乱れ打ちから急降下フレーズという十八番の展開を披露してくれますし、アート・ブレイキーの楽しそうな表情と黙々とピアノと格闘し、その場を異次元にワープさせるセロニアス・モンクの恐ろしさが対照的です。
 そしてここでは、アル・マッキポンが終始、セロニアス・モンクを見ながらバックをつけていますが、鍵盤で弾き出されるコードを見ているのでしょうか? なかなか緊張感のある名場面だと思います。

05 Lover Man
 これはカイ・ウィンディングのワンホーン演奏で、歌心と和みが存分に楽しめます。速攻でマイクの位置を直すあたりが見られるのも、映像作品ならではの楽しみでしょう。
 ちなみにこの人はローリング・ストーンズの初期のヒット曲「Time Is On My Side」のオリジネイターですが、ちょっと関係なかったですね……。
 それはそれとして、存分に素晴らしい演奏をお楽しみ下さいませ。クライマックスではバンド全体の咆哮とブレイクの妙技も用意されています。

06 Tin Tin Deo
 つづいてディジー・ガレスピーの見せ場となりますが、前段としてのアート・ブレイキーの司会と主人公のオトボケも流石です。なにしろ演奏そのものが、凄まじい緊張感に包まれているのですから!
 それは無伴奏のトランペット吹奏に始まり、ベースがお約束のリフを弾きながら参入すると、セロニアス・モンクも間隙を縫って危険なコードを炸裂させるのです。もちろんディジー・ガレスピーは緊張感を維持させようと、無駄を省いた表現から、一気に音符過多なスタイルに突入しては撤退を繰り返すのでした。
 う~ん、ハードボイルド! アル・マッキポンのベースの素晴らしさも特筆物で、流石のセロニアス・モンクも無条件降伏か? なんとディジー・ガレスピーがピアノで隠し芸を披露するという、恐い映像がご覧になれます♪

07 A Night In Tunisia
 大団円にはモダンジャズ永遠の名曲が用意されていますが、その主役は皆様ご推察のとおり、アート・ブレイキーです。もちろん御大は期待を裏切りません! 初っ端から猛烈な煽りでホーン陣をエキサイトさせるのです。
 それはまず、ディジー・ガレスピーが全力疾走フレーズを連発、ソニー・ステットはテナーサックスで悪戦苦闘、カイ・ウィンディングも細かいフレーズで応戦するという展開になるのですが、お約束のリフもヤケクソ気味です。
 そしてここからアート・ブレイキーのドラムソロが存分に鑑賞出来ます。あぁ、あのフレーズはこうして叩いていたのかっ! という発見とお楽しみがたっぷりで、目が離せません♪ 力演の中にも余裕と自らの魂の爆発があって、観客は大喜び!
 演奏はこの後、ラストテーマに突入するのですが、その後にまたまた、アート・ブレイキーが納まらないとばかりに再びのドラムソロ! 会場は興奮のルツボです! そして叩くだけ叩いて、スパッと演奏を止め、いきなりバックステージに入ってしまう姿が、もう最高です。

映像はこの直後に美女からの花束贈呈がありますが、肝心の彼女達が後姿ばかりで残念……。

まあ、それはそれとして、本当に見所満載の強烈な作品です。特にカイ・ウィンディングのキメのアクションとかソニー・ステットの真摯な演奏態度、また本場の超一流のメンツが見せつけるタフな部分等は、音源だけでは分からないところで、まさに映像の力を見せけられます。

ただしちょっと残念なのは、セロニアス・モンクにやや元気が無く、まあ、それはこの巡業の趣旨であるジャズの巨人達の共演という部分から、自己主張を抑えた結果かもしれません。ちなみにセロニアス・モンクはこの巡業からほどなく隠遁生活に入りますので、実質的に最後の勇姿になっています。

ということで、これは激オススメのDVDです。正直言うと、1回目に観た時はそれほどでもなかったのですが、観るほどにその凄さがジワジワと染みてきて、いまではその場面全てから、怖ろしいまでのパワーを感じています。落ち着いた中にも考え抜かれた編集&カメラワークがその秘密かもしれません。

あぁ、こんな映像が残されていたのだなぁ……。という感慨が……♪

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困った嬉しさ

2006-07-12 17:17:47 | Weblog

どこで情報を得たのか、最近私の保険が満期に近いことを知って、保険屋のセールスレディが頻繁にやってきます。大抵は昼メシ時なんですが、夏とはいえ、その服装がなかなかセクシーという、困った嬉しさがありますね♪

なにせ胸元が、どうぞ見て下さい状態ですし、もちろん巨乳がウリなのは言わずもがな……。見たから、あるいは見せてくれたからといって保険に入るほど私は青くないつもりですが、まあ、それは……。いったいその巨乳で幾つ契約を取ったんですか?

そんなことよりも、どうやって私の個人情報を得たのかが問題!

ということで、本日は第一印象が大切という、これを――

Free Form / Donald Byrd (Blue Note)

森羅万象、第一印象の影響は大、ですね。

その意味で、このアルバムは長らく私の中で避けられ続けた1枚です。

それはズバリ、タイトルに原因があり、「フリー・フォーム」じゃあ、フリー・ジャズかなぁ……? という思い込みだったのです。

ところがある日の某ジャズ喫茶、なんとなく居眠りモードに入っていた私の耳を直撃したのが、このアルバムA面1曲目でした。その第一印象は、おぉ、なんて気持ちの良いっ♪

というこの作品が録音されたのは1961年12月11日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という硬派な面々です。

実はそこがクセモノで、実はジャズを聴き始めた頃の私は、このアルバムの存在だけは知っていたのですが、当時の先入観念としてウェイン・ショーターとハービー・ハンコックはフリージャズもやる恐い人、ビリー・ヒギンズはオーネット・コールマンという、これもフリージャズの大御所と共演していた人! というところから、このアルバムもてっきりフリー系の内容と思い込んでいたのです。

なにしろブルーノート・レーベルと言えば、ハードバップ~ファンキー物と同じ位の量で所謂新主流派~フリー物も出していたのですから……。しかし、これは――

A-1 Pentecostal Feeling
 取っ付き難いタイトルとは裏腹に、とても快楽的なジャズロックです。しかも録音年月日にご注目! なんとリー・モーガンの演奏で破格のヒットとなったジャズロックの代表作「The Sidewinder」よりも2年以上早い演奏なのです!
 まあ、ビートはラテンリズムの変形というところですが、4ビートとは一線を隔して楽しいロックという雰囲気は抜群ですし、基本がブルース進行なので、否が応でもウキウキさせられます。もちろん、前述した居眠りモードの私を直撃したのは、この曲です。
 まず出だしこそ不気味なブッチ・ウォーレンのベースが蠢きますが、直ぐにビリー・ヒギンズの軽快なドラムスが響き、気分は完全にジャズロック♪ テーマ~ドナルド・バードのアドリブに入っても、とにかく分かりやすいメロディの連続です。
 しかし続くウェイン・ショーターは、やはり一筋縄ではいきません。全く楽しく無い音の羅列で盛り上げておいて、いきなり脱力するような変態フレーズでの展開が、妙に心地良いのです。
 そしてハービー・ハンコックはいきなりファンキー♪ 当然、これから半年後に吹き込まれる「Watermelon Man」を想起させる楽しいソロを聴かせてくれます。
 それとビリー・ヒギンズの快演は言わずもがな、全くこの人のジャズロックは快適の一言です♪ おぉ、最後はゴスペルっ!

A-2 Night Flower
 ハービー・ハンコックが作った静謐なスロー曲を、ドナルド・バードが丁寧に歌い上げます。あぁ、このテーマが、なんとも魅力的なんですねぇ~♪
 しかしここでのハイライトは、やはりハービー・ハンコックの美しいタッチのピアノです。ちょっと正体を見せないようなミステリアスなアドリブは絶品! 当時はドナルド・バードのバンドでレギュラーを務めていたわけですが、マイルス・デイビスが目を付けていたのが肯ける演奏です。
 そしてウェイン・ショーターが、これまた、良い! やはり同根のミステリアス・ムードで迫っており、独自のウネリと低音での呻きが印象的です。

A-3 Nai Nai
 こんなタイトルのバラエティ番組がありますが、ここでは生真面目にハードバッブが演奏されてます。そこには和みのムードが漂い、まずドナルド・バードが歌心満点のアドリブを披露すれば、ウェイン・ショーターは脱力感だけで勝負! これが当時在籍していたジャズ・メッセンジャーズでの演奏とは微妙に違うという、このセッションのミソになっています。
 そしてハービー・ハンコックは、もはや後年のマイルス・デイビスとの共演で聴かせていたものと同質のノリとフレーズで、粋なところを披露しています。
 ただしビリー・ヒギンズが意想外に大人しく、全体に緊張感が足りないと……。

B-1 French Spice
 ところが一転、これが出だしからハードボイルドな緊張感に包まれた名演になっています。このファンキーな雰囲気はジャズ・メッセンジャーズに似て非なるもので、まずウェイン・ショーターが思いっきりブッ飛んだアドリブで飛翔しています。そこにはフリーに近いフレーズとノリがあり、アート・ブレイキーとの共演では出せないものが聞かれるのです。
 そこでドナルド・バードは得意のフレーズを連発し、お約束のハードバップに流れを引き戻すのですが、ハービー・ハンコックがどちらに付こうか迷ったようで、そこが面白い演奏になっています。
 ビリー・ヒギンズの張り切ったドラムスとブッチ・ウォーレンの直向に蠢くベースも効果的で、テーマの衝撃性が最後まで持続しています。

B-2 Free Form
 おぉ、やっぱりタイトルどおりのフリージャズだぁ~!
 なにしろビリー・ヒギンズがオーネット・コールマンと共演して生み出したのと同質のリズム&ビートを叩き出していますし、なによりテーマが思わせぶりです。
 もちろんアドリブパートには集団即興演奏の趣が加味されています。そしてウェイン・ショーターは、これがやりたかった! というような、当時としては破天荒な展開を聴かせてくれるのです。
 またハービー・ハンコックも当然、ツッパリ気味の演奏に終始しますが、意外なことに、この人はこういう部分になると保守的なものを消すことが出来ない体質を露呈するのです。
 しかし全体をリードしているのは、明らかにビリー・ヒギンズの尖がったドラムスで、その色彩豊かで刺激的なビートは最高です。もちろん演奏は収拾がつかなくなってフェードアウトするのですが、今聴くと、なんとも憎めないものに満ちています。

ということで、最初と最後の落差があまりにも大きい作品集ですが、そこはドナルド・バードの先進性の表れと思います。

このセッション当時のジャズ界は、ジョン・コルトレーンやエリック・ドルフィーあたりのハード&タフな世界、あるいは爛熟したハードバップ&ファンキーな泥沼、はたまたマイルス・デイビスのような拘りのジャズ王道派等々が入り乱れ、そこにフリージャズの波が押し寄せていたという、ある種の幸せな混迷状態にありました。

その中で様々な可能性に臨んだ作品が生み出されていたわけですが、このアルバムはそれをやりすぎて一回転、元に戻って迷盤にもなれなかったという雰囲気でしょうか……。もちろんガイド本にも載っていないと思われます。

ですから、いくらウェイン・ショーターのファンとはいえ、こんな盤を買ってしまった私は、全くのハズミで、当に一期一会を痛感しているのでした。もちろん、後悔していません!

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