OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

コンガレグレ♪

2006-07-11 19:42:00 | Weblog

今日は暑かったです。いや、今日もと書くべきでしょうね。

昔の日本では暑い時に我慢大会があり、炬燵に入って鍋焼きうどん、みたいな自虐の涼しさを求める一幕もありました。

本日はそんな1枚を――

Headin' South / Horace Parlan (Blue Note)

往年のジャズ喫茶という暗い閉鎖空間では、全く独自の人気者が存在しています。

本日の主役であるホレス・パーランという黒人ピアニストもそうしたひとりでしょう。そのスタイルは打楽器的奏法とドス黒いグルーヴ、さらに全く逆の洒落たセンスがゴッタ煮状態になった脂っこいものです。

このあたりは私の稚拙な文章力では書くほどに虚しいだけで、実際に聴いてもらう他は無いのですが、その存在感は地味ながら強烈という二律背反の恐さを秘めています。

なにしろ1950年代後半にはチャールズ・ミンガスというジャズ界の強面ベーシストのお気に入りとなり、そのハードな粘着性を存分に発揮していましたし、同郷の盟友であるスタンリー&トミーのタレンタイン兄弟との活動、さらに自己のトリオ&カルテットによる演奏も聞き逃せないものばかりです。

ただし既に述べたように、この人のアルバムは歴史的名盤とか一般的な人気盤には程遠く、その要因はスバリ、アクの強さ! 

と言うことは、好きになったら、トコトン付いていけるタイプ♪

そういう個性が存分に発揮されたリーダー盤は、主にブルーノート・レーベルと契約していた1960年代に沢山残されており、中には無く子も起きる「Us Three」という大偏愛盤も残されていますが、本日の1枚も負けず劣らずの激烈盤です。

録音は1960年12月6日、メンバーはホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘイウッド(ds) という当時のレギュラー・トリオに、レイ・バレット(per) の参加がミソになっています――

A-1 Headin' South
 野太いベースのイントロが、ちょっとエルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」を想起させますが、チャカポコのパーカッションとチンチン・シンバル、そして思わせぶりなブロックコード弾きのピアノが、独特のクールなグルーヴを生み出しています。
 その雰囲気はアドリブ・パートにも引き継がれ、無機質なのか、それとも熱っぽいのか、一瞬、理解不能という不思議なノリに引き込まれてしまいます。
 そして中盤からはホレス・パーラン十八番の打楽器&粘着コード演奏も飛び出しますが、まあ、これはアルバム全体の序曲というところでしょう。変態ラテン色だけは抜群です。

A-2 The Song Is Ended
 前曲で変態的黒さを披露したこのバンドは、ここでは一転、地味なスタンダード曲を素材に洒落たムードが横溢する解釈を聴かせてくれます。
 しかし所々に滲み出すファンキーなフレーズとノリは健在で、気軽に聞いているうちにグリグリと抉られるようなグルーヴの虜になっているのでした。ジョージ・タッカーのベースもエグイ!

A-3 Summertime
 お馴染みのスタンダード曲が徹底してホレス・パーラン流儀で解釈されていきます。それはジョージ・タッカーの思わせぶりな弓弾きベースによるテーマの提示を経て、グイノリのアドリブパートではホレス・パーランの執拗なコード粘着弾きに繋がります。
 あぁ、このグルーヴこそ、ホレス・パーランの真骨頂です。
 ちなみにこの人は左手に小児麻痺の後遺症があり、その手首の按配からニュアンスの違うノリが生まれているとのことですが、まあ、そんなことよりも、やはり自己の感性から指が異次元を彷徨った展開と受け取るべきだと思います。

A-4 Low Down
 そして出ました! このアルバムの目玉演奏が、これです。曲はスローなブルースで、ここではレイ・バレットが抜けたトリオでの演奏となり、その分、思いっきり粘っこいノリに撤していく展開が強烈です。特に1分41秒目から延々と続く同じフレーズの繰り返しは怖ろしいほどの脂っこさで、これはけっしてプレイヤーの故障ではありません!
 その背後で蠢くジョージ・タッカーのドス黒いベース、さらに淡々としていながらグサッと決まっているアル・ヘイウッドのシンバルも聞き物です。
 演奏はこの後、その執拗さが頂点に達した瞬間、ズル~っと開放されるクライマックスとなり、しかしそれも束の間、またまたブルースの泥沼へ落ち込んでいくのでした。
 まずは必聴の名演!

B-1 Congalegre
 これがまた、非常に調子の良い演奏で、そのキモはレイ・バレットのコンガとアル・ヘイウッドのドラムスのコンビネーションです。
 とにかくテーマがシンプルな分だけリズムの楽しさが倍加されており、アドリブパートでは、そのウサを晴らすかのようにホレス・パーランがひたすらに突進! もちろん烈しいブロック・コードを炸裂させています。
 しかしここでの主役は、やはりタイトルどおりにレイ・バレットのコンガ♪ いつまでも続く白熱のグルーヴは、侮り方ものがあります。

B-2 Prelude To A Kiss
 お馴染み、デューク・エリントン楽団の十八番にして永遠のスタンダード曲が、しっとりと演奏されます。もちろんここでは、ホレス・パーランの洒落たセンスが堪能出来るいう仕掛けなのですが、それにしても、この歌心の豊かさは素晴らしいかぎり♪ 地味なサポートに撤するベースとドラムスもシブサ満点です。

B-3 Jim Lover Sue
 これも小粋なセンスが滲み出た素敵な演奏です。なにしろレイ・バレットのコンガが必要以上に気持ち良く、ホレス・パーランはファンキー節を連発してくれるのです♪ 全くジャズが楽しくて何が悪い? というしか言葉がありません。

B-4 My Mother's Eyes
 オーラスもあまり知られていないスタンダード曲ですが、こういう隠れ名曲を取上げるセンスもまた、ホレス・パーランのシブイところです。
 もちろんレイ・バレットを中心としたリズムとビートのキレも楽しく、主役のピアノはホレス・パーランという個性を全開させています。
 それは正直、ちょっと大人しい演奏に聴こえますが、このあたりの軽さが魅力のひとつかと思います。

ということで、なかなかクセのある演奏集になっています。なかでも「Low Down」の脂っこさと「Prelude To A Kiss」の洒落たセンスの落差は大きく、最初に聴くと、これ、本当に同一人物の演奏? と思われるかもしれません。

それとこのセッションの立役者は、言うまでも無くレイ・バレットのコンガです。そのチャカポコの気持ち良さは絶品で、これからの暑苦しい毎日には意外な清涼剤になるでしょう。

そして実は、私はそんな日々にネッチネチの「Low Down」を聴くという、自虐の鑑賞も楽しんでいるのでした。

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末節を汚す

2006-07-10 17:57:21 | Weblog

ほとんど徹夜状態で見たW杯の決勝、一進一退の白熱の勝負は延長戦になりました。

しかしその土壇場で飛び出したフランスの某有名選手のバカな行為には、シラケるというか、後味が悪くなりましたですね……。

結果はご存知のように、PK戦でイタリアの優勝になりましたが、例え結末がなんであろうとも、フランスの選手の緊張感が切れたような雰囲気が濃厚でした。

見ていたこちらも気分が悪い!

個人攻撃はしたくありませんが、おかげで本日は何も聴く気がしなくなりました。

愚痴だけのプログでもうわけありません。ご容赦下さい。

 

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今日もいろいろありました

2006-07-09 19:09:05 | Weblog

またまた地震とか台風とか、災害が頻発しています。

被災された皆様には、心からお見舞いもうしあげます。

それとひし美ゆり子様のお嬢様が、この度目出度く、入籍されました♪

そのあたりの経緯&彼女の心境は、彼女自身のブログをご覧下さいませ。

ということで、本日の1枚は――

Hub Cap / Freddie Hubbard (Blue Note)

フレディ・ハバードは間違いなくジャズの歴史に屹立するトランペッターですが、さて、代表作は? と問われると、私は悩んでしまいます。

もちろんフレディ・ハバードはハードバップ期にデビューし、モードやフリー、ジャズロックやフュージョン等々、とにかく何時の時代も王道バリバリの路線を歩み、その卓越したテクニックで輝かしいトランペットを響かせてきたのですが……。

器用貧乏というのでも無く、節操が無いということかもしれませんが、そんな人は他にも大勢いるわけですから……。

まあ、結局、フレディ・ハバードというミュージシャンに独自の「味」や「ぬくもり」が無かった所為かもしれないと、私は思います。何と言うか、勢いが勝ちすぎているという感じでしょうか? 私にはピンッとくるところが無い人です。

で、このアルバムは私からみれば、そんなフレディ・ハバードが張り切りすぎた1枚で、当然、爽快な部分がたっぷり詰まっているのですが……。

録音は1961年4月9日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ジュリアン・プリスター(tb)、ジミー・ヒース(ts)、シダー・ウォルトン(p)、ラリー・リドレイ(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、なかなかのクセモノが揃っています――

A-1 Hub Cap
 フレディ・ハバードが作った、叩きつける様な豪快なハードバップです。
 とにかく初っ端から白熱するその演奏は、売出中の勢いに溢れていますし、全員がバリバリ突進するんですから、私の何時もの感性からすれば最高なはずなんですが、どうも面白くありません。
 それはメンバーの演奏&アドリブに「味」が無いからです、たった1人を除いては!
 で、そのたった1人が、実はこのアルバムの立役者であるフィリー・ジョーです。とにかく要所で入れるオカズの切れ味が素晴らしく、また煽りのシンバルとキメのハイハットのコンビネーションが強烈! これではアドリブをとるメンバーが気が抜けず、それゆえに張り切りすぎたとも言えるわけですが♪

A-2 Cry Me Not
 モヤモヤした、如何にも新主流派がお得意のスロー曲です。
 テーマのアンサンブルから抜け出して全体をリードするのは、もちろんフレディ・ハバードですが、やや「ぬくもり」が足りないという……。まあ、その分、強烈なハイノートを炸裂させて盛り上げようとしているのですが、聴いている私の耳は、どうしてもフィリー・ジョーの控えめなブラシに行ってしまうのでした。

A-3 Luana
 フレディ・ハバードが作ったエキゾチック系ハードバップです。もちろんフィリー・ジョーのドラムスがラテン・リズムと4ビートを巧みに叩きわけながら全体を盛り上げていきます。
 ただしフレディ・ハバードのトランペットは冷たいというか、上手いのですが「泣き」が感じられず、そのあたりが同時代のライバルであるリー・モーガンとの差でしょうか?
 このあたりはジミー・ヒースやジュリアン・プリスター、そしてシダー・ウォルトンにも伝染しているようで、イマイチ無機質なソロの連続は聴いていて楽しくありません。まあ、それが当時の最新フィーリングかもしれませんが……。
 唯一、昔っぽい感性のフィリー・ジョーがいればこそ、なんとか纏まった演奏ではないでしょうか?

B-1 Osie Mae
 ゴスペル感覚に彩られたフレディ・ハバードのオリジナル曲で、テーマはなかなか魅力的♪ 擬似ジャズ・メッセンジャーズという趣があります。
 ちなみにフレディ・ハバードとシダー・ウォルトンは、このセッションからほどなく、2人揃ってジャズ・メッセンジャーズに入団するわけですが、そう思うと、ここでの演奏も楽しく聞こえてくるから不思議です。
 そう、確かにここでのフレディ・ハバードは如何にも黒人ジャズという感性ですし、他のメンバーのアドリブにも独自の熱気が感じられます。そしてそれは、ここでもフィリー・ジョーの最高のドラムスに支えられ、煽られているからだと思うのでした。

B-2 Plexus
 これこそ後にジャズ・メッセンジャーズの重要演目になった名曲で、作者はシダー・ウォルトン♪ ということで、フレディ・ハバードも大張り切り!
 という結果を述べるまでもなく、まずアドリブ先発のジミー・ヒースが擬似コルトレーン風のフレーズで奮闘すれば、ジュリアン・プリスターはモゴモゴと口ごもったフレーズを連発しています。
 そしてシダー・ウォルトンのソツの無いピアノを経て、いよいよフレディ・ハバードの快演がスタートし、フィリー・ジョーと烈しい対決を聴かせるのです。
 というよりも、フィリー・ジョーが煽りまくり! 痛快です。

B-3 Earmon Jr.
 大団円を飾るにはちょっと物足りないテーマ曲が問題ではありますが、演奏そのものは快調です。もちろんそれはフィリー・ジョーの気持ちの良いドラムスにあるわけですが、ここではベースのラリー・リドレイが良い仕事♪ ツボを押さえたバックでのウォーキングと地味ながらキラリと光るソロが素晴らしいと思います。

ということで、空回りした熱意と情熱がたっぷり聴かれる名・迷盤というのが私の素直な感想です。

ただしそれが、結果的にここで纏め役を果したフィリー・ジョーのカッコ良いドラムスによって、何度も聴きたいと思わせられるのは、皮肉でも何でもなく、ジャズの魅力のひとつではないでしょうか? もしこれが、フィリー・ジョー以外のドラマーであったなら、その結果は押して知るべし……。

フィリー・ジョーのドラムスに浸りたいなら、これは素敵なアルバムです♪ 

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好きですと、告白

2006-07-08 18:41:45 | Weblog

暑くなりましたですね……。

常日頃、ジャズは熱気だ! 緊張感だ! とホザイている私だとて、これではかないません……。脱力して全て成すがまま、Let It Be をきめこむ休日があってもいいはず……、ということで本日はこれを――

Quiet Nights / Miles Davis with Gil Evans (CBS / Sony)

言わずと知れた脱力盤でありながら、凄~~~く、これが好き♪ というファンも多いアルバムだと思います。かく言う私もその1人……。

で、どうしてこんなに極端な賛否があるかというと、まず、それぞれの曲が短く、未完成というか、煮え切らない演奏に聴こえてしまうからでしょう。

それは、どう贔屓目に聴いても否定出来ない部分が、確かにあります。

その内容はマイルス・デイビスを主役に、ギル・エバンスがアレンジした楽曲を臨時編成のメンバーを集めて演奏したものが6曲、冒頭から入っています。そしてオマケ的に最後の1曲だけが、マイルス・デイビス+ピアノ・トリオというワンホーンの演奏になっています。

録音時期も1962年夏~秋、1963年春と分裂しており、どれも短い演奏ばかりなのです――

A-1 Song #2 (1962年11月6日録音)
 おっ、グリーンスリーブス? と一瞬思わせて、アッという間の終わる名曲です。如何にもギル・エバンスらしい色彩豊かなアレンジは素敵なんですが、肝心のマイルス・デイビスが腰の据わっていない吹奏で、アドリブはもちろんありません。
 しかしリズムは快適なボサノバ、終りはエリック・サティみたいで、案外クセになる魅力があります。

A-2 Once Upon A Summertime (1962年11月6日録音)
 お馴染み、ミッシェル・ルグランが書いた名曲をギル・エバンスがアレンジするという、ワクワクさせられる目論見ですが……。
 結果は聴いてのお楽しみとしか書けません。お察し願います。
 マイルス・デイビスはハスキーな音色で思わせぶりな吹奏に撤しますが、ギル・エバンスのアレンジが強すぎるというか……。
 これも3分半ほどの短い演奏です。

A-3 Aos Pes Da Cruz (1962年7月27日録音)
 これはっ、良いですね♪ ギル・エバンスの膨らみのあるアレンジが和みのボサノバを作り上げています。もちろん違和感と難解な部分を含んでいる部分は健在で、安易に大衆に迎合しない姿勢がマイルス・デイビスには良かったんでしょう。アドリブはまあまあですが、テーマ吹奏は魅力があります。
 個人的には、かなり好きです♪

A-4 Song #1 (1962年8月13日録音)
 初っ端からギル・エバンス的ショック療法が炸裂しますので、覚悟が必要です。
 と、いきなりネタバレを書いてしまいましたが、そこが演奏の最良点なんです。
 それゆえにマイルス・デイビスは思いっきり脱力していますし、演奏しているメンバーも気疲れしている雰囲気がミエミエでは?
 しかし中盤から徐々に盛り返していくあたりが、グルーヴィ! なんて、このアルバムでは一番似合わない言葉を使ってしまうほど、グッときます。

B-1 Wait Till You See Her (1962年8月13日録音)
 元ネタはスタンダードの隠れ人気曲ですが、ギル・エバンスが大胆にアレンジと改変を加え、マイルス・デイビスの自覚に任せたような展開になっています。
 したがって好き嫌いが分かれるでしょう。これで良いのか? マイルス・デイビスは必死の吹奏を聴かせてくれます。

B-2 Corcovado (1962年7月27日録音)
 当時のボサノバ・ブームを当て込んだ演奏でしょう、誰でも推察は容易です。
 それにしてもこの脱力感は、ボサノバの本質? そんなわけは無いでしょうね。
 この人気曲にして、このアレンジとこの吹奏……。妙なところで力んでいるマイルス・デイビスは、多分ヤル気が無かったんじゃないでしょうか……。
 煮え切りません……。

B-3 Summer Night (1963年4月17日録音)
 この曲だけがマイルス・デイビス(tp)、ビクター・フェルドマン(p)、ロン・カーター(b)、フランク・バトラー(ds) という布陣になっています。そしてこれが、最高なんです♪
 まずビクター・フェルドマンのイントロで気分はロンリー、続くマイルス・デイビスが十八番のミュートで演じてくれる一撃必殺のバラードです。
 あぁ、これがマイルス・デイビスです♪
 これまでの演奏がモヤモヤしていただけに、ここでは身も心も投げ打って、マイルス・デイビスに酔い痴れてしまいます。この1曲を聴くために、いままで我慢してきたと言ってもいいほどです。
 そしてビクター・フェルドマンのピアノが、また、絶品です。この人はイギリス人ですが、その所為か否か、不思議な気品とファンキーさが同居したような魅力があって、私は大好きです♪
 演奏はこの後、マイルス・デイビスがテーマを変奏して終焉を迎えますが、最後に主人公の濁声があるのは、嬉しいプレゼント♪ 狙った演出だとすれば物凄いことですが、自然体でこれが出来るというのも天才の証明かもしれません。

ということで、これは脱力したり感動したり、ボケたりツッコンだりするバラエティ盤になっていますが、私はこれを暑い夏の夜に聴きながら、うたた寝モードに入るのが最高の幸せになっています♪

ただし世評は、良くありませんね……。まあ、そのあたりは私も充分納得しています。なにしろ残り物の寄せ集めという雰囲気が濃厚ですし、ボサノバ・ブームを当て込んだ会社側の策略に、一応はノッてみせたマイルス・デイビスという評論家の先生方の御意見も、謹聴致しますが……。

これも、俺だけのS級盤なのでした。 

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続・俺だけのS級盤

2006-07-07 17:55:23 | Weblog

Good Pickin's昨日に引き続き、本日も俺だけのS級盤です――

Reach Out ! / Hank Mobley (Blue Note)

どんな世界にもひとりはいるが、イイ人♪

人望とか信頼とは一味違う、頼りになるけど必要以上の自己主張をしない人♪

物分りが良いというか、頼まれるとイヤとは言えない人?

内向的でもシンのしっかりした人!

こういう人は、苦境に落ちた時に最期まで残る友人のような存在かもしれません。

ジャズ界では、その残された音源やジャケット写真に接する度に、私の大好きなハンク・モブレーは、きっと、そういう人だろうと、勝手に決めつけてしまうのですが……。

それは、このアルバムでも濃厚に感じられます。

録音は1968年1月19日という、当にフュージョン前夜! メンバーはハンク・モブレー(ts) 以下、ウディ・ショウ(tp)、ジョージ・ベンソン(g)、ラモント・ジョンソン(p)、ボブ・クランショウ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) というコアな面々です――

A-1 Reach Out I'll Be There
 アメリカの黒人ソウルグループ=フォー・トップスの代表的ヒット曲を演奏していますが、その主役は、なんとサイドメンのジョージ・ベンソン! ブルーノート伝来のジャズロック・ビートに気持ち良くノッて、冒頭からジョージ・ベンソンのギターがメロディを楽しくフェイクしていきますので、最初聴くと、思わずアレッ? と驚愕してしまいます。ハンク・モブレーは何処!?
 するとようやく2分35秒目あたりでモッサリと登場してくれるんですよ、この人は♪ しかもそのアドリブがモタレのR&Bフレーズばっかりで、これこそがハンク・モブレーの素顔なの? と思うしかないんですねぇ、ファンとしては!
 そしてそれが他のメンバーにも伝染したんでしょう、ウディ・ショウは何時もの熱血ぶりを隠してオトボケ、ラモント・ジョンソンは楽しけりゃいいんだろう、と開き直りの楽しさです。
 そして演奏はラストテーマで和みの大合奏♪ ビリー・ヒギンズのブレイクも味が決まってミもフタも無いところが素敵です。
 それにしても、ここではやっぱりジョージ・ペンソンです。前半2分目あたりからのアドリブの冴えた楽しさはハイライトでしょう。
 しかし、ハンク・モブレーは自分のリーダーセッションだというのに、どうしてこんなに控えめなんでしょう? これではジョージ・ベンソンのレコードです。というか製作側は、もしかしたらジョージ・ベンソンを売り出すために、このトラックを作ったのかもしれません。
 だとすれば、そのあたりにハンク・モブレーの物分りの良さが表れているように思います。もしこれがリー・モーガン(tp) だったら、こんなことはやらないでは? ちなみにリー・モーガンは駆け出し時代、ハンク・モブレーのリーダーセッションに多数参加して、自分を売り出してもらった借りがあるはずなんですけどねぇ……。
 全く憎めない人です、ハンク・モブレーは♪

A-2 Up Over And Out
 で、ここからがハンク・モブレーの本領発揮! 物凄い勢いがある強烈なハードバッブが展開されています。
 なにしろハンク・モブレー自身が書いたオリジナルのテーマが最高にカッコ良く、先発のウディ・ションは遺憾なく熱血ぶりを発揮! 続くハンク・モブレーは誰も真似の出来ないモブレー節の連発です。
 リズム隊ではビリー・ヒギンズの白熱のシンバルが素晴らしく、ジョージ・ベンソンも野太いシングル・トーンでバリバリと弾きまくりです。そしてこの人! ラモント・ジョンソン! 独自のグルーヴでジャズ者の琴線に触れるその豪放なピアノは、隠れ人気の秘密です。
 ちなみにこの曲は、近年になってエリック・アレキサンダー(ts) が十八番にしていますが、ここでのノリには敵いません。

A-3 Lookin' East
 これもハンク・モブレーのオリジナル曲で、如何にもという和みとファンキー味が魅力の演奏になっています。
 とにかくハンク・モブレーが初っ端から黒くキメていますから、ウディ・ショウも熱くなる他はありませんし、ジョージ・ベンソンも硬派に迫っています。
 そしてビリー・ヒギンズのバックビートを強めたドラムスが、これまた最高です♪ それとラモント・ジョンソンの新主流派ゴスペルとでも名付けたいようなブロック・コード弾きも強烈で、和みのラストテーマを上手く導いています。

B-1 Goin' Out Of My Head
 ウェス・モンゴメリーも取上げているソフトロック系の名曲です。
 もちろんここでも和み優先のボサロックに仕立てており、ハンク・モブレーの些か芒洋とした吹奏が、ここではジャストミートの快感です。
 そして続くジョージ・ベンソンは、当然、ウェス・モンゴメリーを意識しないではいられないはずですが、必死でマイペースを守る心意気が健気です。したがってやや精彩が感じられないのですが、まあ、いいんじゃないでしょうか……。

B-2 Good Pickin's
 タイトルどおり、またまたジョージ・ベンソンを活躍させるための曲・演奏になっています。
 なにしろ冒頭からジョージ・ベンソンのギターが全体をリードし、死ぬほどカッコ良いテーマ曲を作り上げていくのです。さらにそのままアドリブパートに突入し、白熱の弾きまくりです。
 そしてこれに刺激されたウディ・ショウが怒りのツッコミを爆発させるあたりは、もうゾクゾクしてきます。カッコ、イイ! バックで炸裂するビリー・ヒギンズのシンバルとブレイクの素晴らしさ! ジョージ・ベンソンのオカズも強烈です。
 もう、こうなるとハンク・モブレーも黙っていられないとばかり、最後に登場するや、あたりはモブレー色で塗り潰されるのです。あぁ、これがハードバップの醍醐味です。必聴です!

B-3 Beverly
 おぉ、ついに出ました♪ ブルーノートならではの重いビートのジャズロックです。作曲はピアニストのラモント・ジョンソンで、ちなみにこの人は当時のジャッキー・マクリーン(as) のバンドではレギュラーだった隠れ名手です。
 アドリブ先発はもちろん、我等がハンク・モブレーで、そのファンキーな資質が全開♪ モタレとタメの二重奏から一転、泣きと滑らかさのコントラストの妙は、唯一無二の必殺技です。
 続くジョージ・ベンソンも得意の早弾きを披露しますが、やや調子が出ていません。しかしウディ・ショウは生真面目に手抜きしないフレーズを繰り出して、聴き手を熱くさせるのでした。

ということで、これはハンク・モブレーの新機軸というよりも、ジョージ・ベンソンのリーダー盤という趣さえ感じられます。しかし如何にもハンク・モブレーという、例えば「Up Over And Out」や「Good Pickin's」あたりの熱い演奏は強烈な魅力で、モブレー・マニアならずとも、夢中になる快演になっています。

おそらくこういうプロデュースは、リーダーがハンク・モブレーだからこそ可能だったと思われます。なにしろハンク・モブレーと言えば、ブルーノート・レーベルではバリバリの看板スタアですから、普通はこういう目論みは頼めないはずなんですが、多分ハンク・モブレーはイイ人というよりも物分りの良い人、協調性のある人というよりも、俺はいいよ、自分のペースでやれればねっ、というような控えめで憎めない人だったんじゃないでしょうか?

このアルバムを聴く度に、私はそんなことを想います。

ちなみにジャケ写には、フランスのエッフェル塔をバックにしたものが使われていますが、ハンク・モブレーはこのセッション前年の秋に欧州巡業を敢行、さらにこの録音直後に再び渡欧し、フランスを中心に2年間を異国の地で過ごしています。

願わくば、その当時のライブ音源等が発掘されると嬉しいのですが……。

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俺だけのS級盤

2006-07-06 18:50:33 | Weblog

音楽好きなら誰にでも、自分だけのお好み盤があると思います。

本日は私の1枚を――

2 Feet In The Gutter / Dave Bailey (Epic)

ジャズには完全に認定されたS級盤、例えば昨日取上げた「Study In Brown」あたりがそうですが、それとは別にB・C級盤とされるものも、当然、存在しています。

しかし、それは誰が決めるのでしょう? 評論家の先生方? それとも売行き第一の製作会社側? 否、結局は聴いて楽しみたいファンが決めることでしょう。

とすれば、その結果は十人十色、あの人が素晴らしいと言ったから、自分が聴いてつまらないと感じるのは、恥でもなんでもないのですが……。そこがジャズファンというイノセントで天邪鬼な人種のミエと苦しみ……。

このアルバムは、そんなことを私が思うきっかけになった1枚です。

録音は1961年10月6日、メンバーはビル・ハードマン(tp)、フランク・ヘインズ(ts)、ビリー・ガードナー(p)、ベン・タッカー(b)、そしてリーダーのデイブ・ベイリー(ds) というハードバップのクインテットです。

しかしこのメンツを見て、期待に胸がときめくファンが居たら、その人は相当年季が入ったバリバリのジャズ者でしょう。普通は地味~ぃ、と思うか、何、これっ? というのが本当のところでしょう。

メンバーの中ではビル・ハードマンが、恐らく一番有名だと思います。何せ一時はジャズ・メッセンジャーズのレギュラーだった人ですし、次いでリーダーのデイブ・ベイリーというところでしょうか? この人はジェリー・マリガンのバンドではレギュラーのドラマーでした。しかし率直に言って、堅実さがウリの没個性派というところです。

もちろん他の3人に至っては、ベン・タッカーの名前が辛うじて知られるくらいでしょう。

しかし、このクインテットは如何にもジャズという、良い雰囲気のハードバップを演奏してくれたのです――

A-1 Comin' Home Baby
 ベーシストのベン・タッカーが書いた調子の良いブルースで、ハービー・マン(fl) やメル・トーメ(vo) の十八番となった人気曲です。その基本はラテンリズムですが、ここでは黒いムードを前面に打出した4ビートで演奏され、まずアドリブの先発はビル・ハードマンです。
 その雰囲気はクリフォード・ブラウン(tp) を追従してはいるものの、思い余って技足りず状態……。しかし次に登場するフランク・ヘインズは、数少ないハンク・モブレー派とでも申しましょうか、R&B感覚に滑らかな歌心をこめて吹きまくるそのファンキーな黒っぽさは、もう、最高です。ハードバップ好きならば、これ1発で完全に虜になるでしょう♪
 さらに愕くのが次に登場するビリー・ガードナーのピアノで、それこそレッド・ガーランドのそっくりさん! 玉を転がす単音弾きに和みのブロックコード弾き♪ 本家に比べて少しタッチが堅いんですが、秘めたファンキー感覚にグッときます。
 演奏全体ではデイブ・ベイリーが要所を締める好演で、流石リーダーの存在感を示しすのでした。

A-2 Two Feet In The Gutter
 アルバムタイトルにするだけあって、最高に雰囲気の良いハードバップ曲です。
 そしてアドリブ先発のフランク・ヘインズが、そのフィーリングを大切にした素晴らしくファンキーなフレーズを連発してくれるので、聴いている私は狂喜乱舞♪
 続くビル・ハードマンもハスキーな音色が完全に曲調にマッチしている上に、やや危なっかしいフレーズの繋ぎが、逆にスリルになっているというラッキーさが楽しめます。
 あぁ、これがジャズです、ハードバッブです!
 そういう感激をさらに増幅させてくれるのが、ビリー・ガードナーの良いとこ取りのビアノなんですから、もう素直に楽しむ他はありません。

A-3 Shiny Stockings
 今やジャズを通り越して世界のスタンダートになった名曲で、多分、皆様一度は聴いたことがあろうかという楽しいテーマが、ここではストレートなハードバップとして合奏される、もう、それだけで満足の演奏です。
 しかしジャズはやっぱりアドリブがあってなんぼの世界ですから、まずはビリー・ガードナーの楽しいピアノに酔い痴れ、ハンク・モブレーも真っ青というフランク・ヘインズのモタレのテナーサックスに感涙し、ビル・ハードマンの独り苦しむトランペットにハラハラすれば、それがジャズの醍醐味だと納得出来るのでした。

B-1 Lady Iris B
 これがまた、真っ黒なハードバッブです! なにしろテーマを聴くだけで満足出来る雰囲気が横溢していますし、先発のフランク・ヘインズは、これ以上無いというソフト&ファンキーで泣きじゃくるのです♪ しかも徐々にハードな部分さえ披露してくれるのですから、これが嫌いなジャズ者はいないんじゃないでしょうか? もちろん分かり易さも絶品です。
 続くビル・ハードマンもミュートで好演ですが、先に出たフランク・ヘインズが良すぎためにイマイチの印象……。しかしバックで煽るデイブ・ベイリーのドラムスが溌剌としているので、この絡みが聴き物でしょう。
 そしてビリー・ガードナーはファンキーどっぷりのノリとフレーズで、周囲を真っ黒にしてしまうという、思わず指パッチンの演奏です。

B-2 Coffee Walk
 ベン・タッカーの書いたブルースですが、やはり自らのベースがリードするテーマが素晴らしく、アドリブパートに入って、いきなりビリー・ガードナーがファンキー節を炸裂させてもビートが乱れないあたりが、流石です。
 これはビル・ハードマンのミュートトランペットとデュオを演じる部分やデイブ・ベイリーと共謀してバンド全体をグイグイとノセていくところにも顕著で、当にハードバッブ魂のなせる業でしょう♪ もちろんビル・ハードマンは、このアルバムの中では一番の好演を聴かせてくれるのです。なにしろワルノリというか、マイルス・デイビスの物真似までやってしまいますから!
 そしてお待ちかね、フランク・ヘインズのソフトでパワフルなテナーサックスが、ここでも存分に楽しめます。う~ん、この雰囲気は完全にハンク・モブレーです。今となっては夢物語ですが、一度で良いから、この2人のバトルセッションを録音して欲しかったですねぇ~。

ということで、メンツは地味でもその演奏は、必ずやジャズ者の琴線に触れる楽しいものになっています。

特にフランク・ヘインズは最高で、当にハードバップ&ファンキー路線の味を独り占め♪ ソフトな黒っぽさと分かり易い歌心の展開は、まさにハンク・モブレーの路線継承者になるはずでしたが、残念ながらこの直後から体調を崩し、1965年頃に死去……。その数少ない録音は、デイブ・ベイリーと一緒のセッションがほとんどですが、いずれも魅力的な演奏ばかりです。

またデイブ・ベイリーとベン・タッカーは2人揃って白人女性歌手のクリス・コナーの伴奏者としても活躍するのですが、デイブ・ベイリーはその後、完全に裏方にまわって興行関係の仕事についたようです。

というように、やっぱりデイブ・ベイリーは縁の下の力持ちだったんですねぇ。しかしこういう人が居たからこそ、ハードバップやモダンジャズは裾野が広がったんじゃないでしょうか? 派手さが無いので万人が認める歴史的名盤は作れなくとも、ちゃんとジャズ者が満足し、密かに愛聴するアルバムで、この人は堅実にドラムスを叩き続けたのでした。

そして実はこの頃、自己のリーダー盤を5枚ほど出しており、それは当時の売れっ子だったアート・テイラーよりも多いほどです。機会があれば、このアルバムはもちろんのこと、それらも聴いてみて下さい。必ずや自分だけのS級盤が見つかると思います。

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茶色の研究

2006-07-05 16:53:52 | Weblog

今日は早起きしてサッカーW杯を観ていたら、突如、ミサイルが……、という字幕が出て驚愕しました。

その後も結局、6発も打たれて、これは6回、相手にナメられたことになります。

経済制裁も止む無し、場合によっては日本海で軍事演習ぐらいはやらなければ、納まらないかもしれません。

戦争ほどクダラナイものは世の中にありませんが、自分達の主権・安全保障が脅かされるというタテマエ論よりも、自分の家族を守りたいという本音が、私にはあるのです。これは人類共通の思いでしょう。

ということで、本日は原点という1枚を――

Study In Brown / Clifford Brown & Max Roach (Emarcy)

モダンジャズ史上、最強のバンドがクリフォード・ブラウン&マックス・ローチのクインテットです。

1954年初頭、西海岸の有力興行師だったジーン・ノーマンの誘いから誕生したこのバンドは、幾度かのメンバー・チェンジはあったものの、常にその演奏は完璧、エキサイティングなものでした。また現状に満足することの無い前進性も兼ね備えていたのです。

それが交通事故という現代の悲劇によって、1956年6月26日、メンバーだったクリフォード・ブラウンとリッチター・パウエルが天に召され、終焉を迎えたことは、ジャズの世界に止まらず、全ての音楽界にとって大きな損失となりました。

このアルバムは、そのバンド発足から約1年後の全盛期に残された名盤の中の大名盤で、録音は1955年2月23~25日、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ハロルド・ランド(ts)、リッチー・パウエル(p)、ジョージ・モロウ(b)、そしてマックス・ローチ(ds) という布陣です――

A-1 Cherokee (19552月25日録音)
 タイトルどおり、インディアンにちなんだスタンダード曲で、冒頭からマックス・ローチのドンドコ・ドラムスが響き、バンド全体でそれらしいアレンジを演奏していきますが、曲自体はそれほど魅力があるとは言えません。
 しかしこれはモダンジャズでは必須の定番で、何故ならば、モダンジャズを創成した天才黒人アルトサックス奏者のチャーリー・パーカーが、駆け出し時代にこの曲を繰り返し演奏するうちに、ビバップ特有のコードチェンジやノリを掴んだとされているからです。
 したがってアドリブの素材としては非常に面白いものだと思われます。
 しかもそれを、もうひとりの天才=クリフォード・ブラウンが演奏するのですから悪いはずがありません! 実際、テーマが終わると瞬時にアドリブパートに突入していくクリフォード・ブラウンは、息をもつかせぬ素晴らしいフレーズの連続で聴き手を圧倒します。あぁ、このスピード感、フレーズの完成度、歌心と音色のぬくもり……等々、神業です。
 そして続くハロルド・ランドとリッチー・パウエルも必死の熱演で好感が持てますし、トドメはマックス・ローチの白熱のドラムソロがお約束♪ この人のソロはベンチャーズのメル・テイラーに似ているので、私の世代には親しみやすいのではないでしょうか。
 それはさておき、この演奏はアレンジも秀逸! わりと単調な原曲を彩る様々な仕掛けが楽しくもあり、クリフォード・ブラウンとハロルド・ランドが交互にアドリブを交えてスリルを高めていくラストテーマは、もう興奮の極致です♪

A-2 Jacqui (19552月25日録音)
 バンドのレギュラー・ピアニストであるリッチー・パウエルのオリジナルで、凝った室内楽風のモダンな曲です。ちなみにこの人は、バド・パウエルの実弟で、なかなかの理論派だったと言われています。
 肝心の演奏は、とにかくアドリブ先発のクリフォード・ブラウンが最高で、和みとスリルのバランスが完璧です。あぁ、とても即興とは思えません!
 またハロルド・ランドもハードボイルド風味の快演、リッチー・パウエルは兄譲りのビバップ正統派のノリに新しめのフレーズを織り交ぜながら聴かせてくれます。もちろんマックス・ローチのドラムスは、すでにポリリズムを取り入れた斬新なものになっています。

A-3 Swingin' (19552月23日録音)
 これもタイトルどおり、アップテンポの快演です。作曲はクリフォード・ブラウンで、ファンキーな感覚もありますが、アドリブパートでは一直線のビバップ魂を炸裂させています。3分に満たない短い演奏ですが、他のメンバーも全員が力演! 特にリッチー・パウエルが熱くなっています。

A-4 Land's End (19552月23日録音)
 ハロルド・ランドが作ったファンキー曲で、仄かに漂う暗い情念が印象的です。
 もちろんそれを完全に理解している作者以下、メンバーのアドリブは素晴らしく、クリフォード・ブラウンは本領発揮の思わせぶりから熱き心に染み入る泣きのフレーズ、滑らかな展開から一転してネバリのタメ、それが黒~い雰囲気を醸し出しています。

B-1 George's Dilemma (19552月24日録音)
 これもファンキーな暗い曲想が最高に魅力です。マックス・ローチの押さえたシンバルが逆に効果的ですし、クリフォード・ブラウンは丁寧なフレーズの積み重ねから一転して鋭いツッコミと、当に緩急自在なアドリブ天国♪ この泣き、思わせぶり、そしてソフトな黒っぽさ♪ 最高という以外、言葉が見つかりません。
 またハロルド・ランドは持ち前の灰色な感性で深いエモーションを披露、リッチー・パウエルはラテン~アラビアのモードまで聴かせてくれるのでした。

B-2 Sandu (19552月25日録音)
 またまたファンキーなブルースの名曲♪ 今や定番化しているクリフォード・ブラウンの代表曲ですから、アドリブ先発から全く破綻の無い素晴らしいトランペットに身も心も奪われます。
 さらにハロルド・ランドもハードバップのテナーサックスはこれだっ! という快演ですし、リッチー・パウエルも意図的にファンキーな音を選んでいるようです。
 そしてこの人、マックス・ローチは比較的ゆるいテンポの中で、全くダレることのないドラム・ソロを展開し、テンションの高さを誇示するのでした。

B-3 Gerkin For Perkin (19552月23日録音)
 夭逝したこのバンドの初代ピアニスト=カール・パーキンスに捧げられたハードバップ曲です。
 全篇が勢いとスリルに満ちていますが、やはりクリフォード・ブラウンのアドリブが天下一品♪ 短い演奏ですが、聴き応えがあります。

B-4 If I Love Agani (19552月24日録音)
 スタンダード曲を快適に演奏していますが、クリフォード・ブラウンのアドリブが、やはり圧巻! 演奏時間が短いのが、本当に残念です。

B-5 Take The “A” Train / A列車で行こう (19552月23日録音)
 締め括りはデューク・エリントン・オーケストラの十八番にして、今や世界の大スタンダードとなった名曲を、このバンドは情景描写に優れた素敵なアレンジで聴かせてくれます。
 それはまず、列車が動き始める様をビアノとドラムスを中心に表現しており、徐々にスピードをつけていく様子に続いて、ようやくスピードが出た頃を見計らって、お馴染みのテーマが吹奏されるという凝り様です。
 そしてそのテーマ吹奏も、サビのところでクリフォード・ブラウンとハロルド・ランドが瞬時にソロを交換するという離れ業を、軽々と演じているのです! しかもこれが、たった5人だけでの演奏なんですからっ♪
 もちろんアドリブパートも素晴らしさの極致です。
 まずハロルド・ランドがハードにスイングすれば、クリフォード・ブラウンは熱気と安らぎの二重奏♪ 全てが「歌」になっているそのフレーズは、とても即興とは思えません。
 さらにリズム隊の演奏が強烈で、リフの合間で炸裂するマックス・ローチのドラムスの物凄さ、バックで煽るシンバルの潔さ! これがジャズです!
 こうして演奏は列車が止まる場面までマックス・ローチのブラシが表現し、間然する事無く大団円を迎えるのでした。

ということで、モダンジャズのある種の完成形が、このアルバムにはぎっしり詰まっています。それはあまりにも理路整然、勧善懲悪という雰囲気ですが、ここまで潔く演じられたジャズがあるでしょうか?

冒頭に「最強のバンド」と書きましたが、同時代の、例えばマイルス・デイビスやディブ・ブルーベック、ジャズ・メッセンジャーズあたりの人気バンドと比べても、その最高のアレンジを披露する音楽性の豊かさ、演奏密度の濃さ、ポリリズムでスイングするリズム隊の新感覚、そしてジャズの命であるアドリブの物凄さは圧倒的だと思います。

惜しくもメンバー2人の突然の悲報により、バンドは一時活動停止状態となり、特にクリフォード・ブラウンという天才を失ったことは、明らかにジャズの歴史の流れが変化した瞬間でした。つまりこのバンドが存続していたら、後のモードとかジャズロック、フリーといった展開が、どこに飛んでいったか分からないと思うのです。

等と大上段に構えた生意気をホザイてしまいましたが、実はこのアルバムは、私がほとんど最初に聴いたモダンジャズの1枚でした。もう、それこそ、擦り切れるほどに♪

ですから、モダンジャズの日常とはこういうものだと思い込んでいたのですが、ジャズ喫茶に行くようになり、実際にこれ以外のアルバムを様々に聴くようになってみると、どれもイマイチ、納得出来ないものがほとんどでした。

特にトランペットの物足りなさは決定的でした。しかしほどなく、クリフォード・ブラウンという人が、実はジャズ史上でも稀な天才であったことを知った私は、独り感涙したのです。

で、名盤・名演ばかり聴いていても、その真髄は分からない! ゴミとか駄盤、あるいはヘボ演奏に接してこそ、初めて世の中の素晴らしいものに気づくのだという、当たり前の事を教訓にした私は、ますますこのアルバムが好きになるのでした。

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ビートルズのエラー盤始末

2006-07-04 16:57:35 | Weblog
世界中を驚かせ、歴史に汚点を残した「キャピトル・アルバム Vol.2」の偽モノラル・マスター事件の決着がついたようです。

 実際のモノラル・マスターが使われず、ステレオ・マスターを単にモノラルに落としていたことが判明した「ラバー・ソウル」に加え、実は「ビートルズⅥ」も同様であったという、驚愕の事実!

 私は不覚にも気づきませんでした……。というよりも、「ラバー・ソウル」で呆れかえって、他は真剣に聴いていなかったという……。

 で、東芝EMIでは、そういうインチキCDの無償交換を開始しました。もちろん輸入盤が対象です。その方法は――

1.「ビートルズⅥ」と「ラバー・ソウル」のCDディスクだけをジャケットから出す。

2.郵便番号、住所、氏名、電話番号を紙に明記する。

3.下記住所に着払いの郵パックで上記2枚のディスクと「2」の紙をいっしょに送る。

  〒107-8510
  東京都港区赤坂2-2-17 東芝EMI(株)CS係
  TEL03-5512-1729


 対応は以外に早いので、早急に交換してもらいましょう。私の場合は今、地方に単身赴任中の身ですが、約1週間で交換終了、宅急便で正常盤が到着しました。都内であれば、もう少し早いかもしれません。

 ちなみに自分のCDがインチキ盤か否かを聞き分けるコツは――

ビートルズⅥ
 「I Don't Want to Spoil The Party」の間奏直前に誰かの掛声があるのがステレオ・バージョンで、これが消えているのが正しいモノラル・バージョンです。
 また「What You'er Doing」のステレオ・バージョンでは、イントロで誰かの声がしていますが、同様に、これが消えているのが正しいモノラル・バージョンです。

ラバー・ソウル
 「Norwegian Wood:ノルウェーの森」で、最初のサビの所で誰かの咳払いが、2度目のサビでは話声が入っているのが、正しいモノラル・バージョンです。ステレオ・バージョンでは、これが消えています。
 また、「I'm Looking Through You」のイントロでジョンがギターを大きくミスってやり直しているのがステレオ・バージョンで、これが消えているのが正しいモノラル・バージョンです。ちなみにこれは、アメリカ盤だけの大きな特徴です。

 それと現行発売CDですが、欧州盤はすべて回収・再発済みのようです。つまりエラー盤は、もう入手出来ません。

 しかしアメリカ盤は「SK1」という文字がステッカーにあれば正常盤とされていますが、それでも中にはエラー盤が混入しています! まったくアメリカのデタラメさが出ていますね!

 ということで、不安を感じたら積極的に交換してもらいましょう。

 そして日本盤は高いけれど、独自の純正紙ジャケット仕様になるらしいですね♪ もちろん中身も大丈夫でしょう。ただしCCCD仕様か?
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ダスコ♪

2006-07-03 18:51:43 | Weblog

最近、いろいろな物欲に押し潰されそうな私ですが、バブル期には欲しくても手に入らなかったブツが沢山あって、それは精神衛生上良くない季節でした。

まあ、今になってその頃へのリベンジという部分が否定できません。

例えば本日の1枚は、今でも怖ろしい値段がつけられていますが、幸いにも現在ではCD復刻されています――

■Dusko Gojkovic Jazz Octet (RTB)

今でこそ、欧州や日本をはじめとする極東のジャズは堂々と聴かれていますが、1970年代中頃まではアメリカこそがジャズの本場! それ以外は……、という強烈な偏見がありました。

もちろん、そういう地域から渡米して活躍している名手達の存在を認めた上での話しです。

しかしそんな状況に一石を投じたのが、ダスコ・ゴイコビッチという旧ユーゴスラビア出身のトランペッターでした。

まず欧州のエンヤ・レーベルがスペイン製作盤を買い取って発売したアルバム「アフター・アワーズ」がジャズ喫茶の人気盤となり、この名手が1960年代にはアメリカで活躍していた事が知れると、今度は当時働いてたウディ・ハーマン・オーケストラでの吹込み盤が密かな人気を呼び、また帰欧してから所属したクラーク・ボーラン・オーケストラでの看板スタアとしての吹込み盤は、日本でも発売されるという人気ぶりでした。

もちろんダスコ・ゴイコビッチは、それまでのキャリアでスモール・コンボによる吹込み盤も残していましたが、なにせ事情は欧州というジャズ的には遠い場所でしたので、ファンはその存在を知ることが出来ても、実際に聴くことはなかなか困難だったのです。

それがバブル期になり、欧州盤ブームが訪れると同時に、ダスコ・ゴイコビッチの幻の吹込み盤が我国の廃盤店に出回るようになり、異常な高値がつけられることになります。

このアルバムは、当にそうした中の1枚で、母国ユーゴスラビアの国営放送によって製作された初リーダー・セッションを収めた10吋盤です。

録音は1961年2月14日、メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp)、デレク・ハンブル(as)、カール・ドレボ(ts)、Heinz Kretschmar (bcl)、Bubi Aderhold (bs)、フランシー・ボーラン(p,arr)、Jean Warland (b)、ケニー・クラーク(ds) という布陣です――

A-1 La Campimania
 ケニー・クラークが本場の妙技というドラムスをイントロとして、厚みのあるホーン・アンサンブルによってテーマが提示され、まずカール・ドレボのテナーサックスが露払いを務めるハードバップのブルースです。
 そして登場するダスコ・ゴイコビッチは、おぉっ、マイルス・デイビス!? という最高に好ましいものです。しかも本家とは似て非なる暖かい歌心が最高です。あぁ、バグス・グループまで吹いている~♪~♪
 また、その背後を彩るホーン隊のリフが心躍るものですし、不動にスイングし、野太いソロを聴かせてくれる Jean Warland のベース、さらにビバップ魂全開のケニー・クラークまでもが、熱いドラムソロを披露するのでした。

A-2 Suvise Si Lepa / You're Too Beautful
 私が好きで好きでたまらない演奏です。魅惑のスタンダード・メロディをミュートで優しく吹奏するダスコ・ゴイコビッチは、何物にも代え難い素晴らしさです♪
 もちろん背後を彩るフランシー・ボーランのアレンジも絶品ですし、ピアノソロは硬派な歌心を秘めた素敵なものです♪
 あぁ、何度聴いても最高です。何時か必ずやってくる私の葬儀には、これを流して欲しいと遺言したくなる、心底好きな演奏が、これです。

A-3 Uspavanka Lisca / Lullaby Of The Leaves
 有名な哀愁のスタンダード♪ テーマを演じてくれるだけで私は感涙ですが、フランシス・ボーランのアレンジが素晴らしく、次々にアドリブソロを披露するメンバーも気持ち良さそうです。
 もちろんダスコ・ゴイコビッチはクールで暖かい、雰囲気満点の好演です。

B-1 Doo-Doosh
 ラテン色もついた最高にカッコ良いハードバッブ曲は、フランシス・ボーランの作編曲によるものです。
 アドリブ先発はデレク・ハンブルのアルトサックスからカール・ドレボのテナーサックスにリレーされ、いよいよ登場するダスコ・ゴイコビッチは、ラテン・リズムも4ビートも完全に乗り切って、本当に最高♪ 完全に虜になります。
 もちろんバンド全体としてのノリも強烈です。

B-2 Mr. X
 マックス・ローチ(ds) が作った真ハードバップの隠れ名曲です。
 その所為か、ケニー・クラークのドラムスも力感がありますし、ダスコ・ゴイコビッチは何となくケニー・ドーハム(tp) を感じさせる部分があります。しかし、ちゃ~んと自分の個性を表現することを忘れていません。
 クライマックスではケニー・クラークとの対決で荒々しいところも披露しています。

B-3 To Je Sve / That's All
 オーラスはスタンダードの大名曲を強烈なアップテンポにアレンジして、大団円としています。とにかくホーン隊の合奏が大迫力! テーマのサビで炸裂するカール・ドレボとデレク・ハンブルのサックスにも熱くさせられます。
 そしてアドリブの主役は、もちろんダスコ・ゴイコビッチ♪ マイルス・デイビスのフレーズと雰囲気を借用しつつも、実はそこがファンにはたまらないところ♪
 短い演奏時間が本当に勿体無いとしか思えません……。

ということで、これは10吋盤なので、演奏時間が短いのが弱点ではありますが、その密度はどこまでも濃密です。

しかしそれを私が知ったのは数年前の事で、このアルバムがCD復刻されてからでした。つまりオリジナル盤は高嶺の花というか、高値の華でしたから……。とにかく最初に聴いた瞬間、感涙狂喜しましたですねぇ♪

今ではいろいろな形で復刻されていますが、個人的には日本のノーマというレーベルからの紙ジャケット仕様盤をオススメしておきます。

ちなみに、このセッションに参加したメンバーは、本場アメリカでビバップ創成期から活動している偉人ドラマーのケニー・クラークを要に、欧州各国から集められた精鋭で事実上スタートしていたクラーク・ボーラン・オーケストラの雛形であり、この3カ月後にほぼ同じメンツで行ったセッションは、アメリカの名門レーベルであるブルーノートから「ゴールデン・エイト」というタイトルで発売されています。

ただしそこではダスコ・ゴイコビッチの出番が少なく、それゆえにこのアルバムへの愛着が、一層、深まるのでした。

とにかくダスコ・ゴイコビッチのファンならずとも、聴けば虜の名盤だと思います。例によってジャケ写からネタ元へリンクしてありますので、チェックしてみて下さいませ。

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ジャズはこれから♪

2006-07-02 18:48:21 | Weblog

大雨に地震があったりして、日本列島は今年も災害が多いですね……。

被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。

とはいえ、平穏な時には楽しみを追求するのが人間のサガですし、先の事はクヨクヨせずに過ごしたいのが、私の本音です。

ということで、本日は気楽に聴ける分かり易さが、実はジャズ地獄への招待となる、この1枚を――

A Night At The Vanguard / Kenny Burrell (Argo)

雰囲気作りの名人ギタリストがケニー・バレルです。

それは正直言うと、難しいテクニックやフレーズを用いなくとも、ジャズ的に優れたセンスや黒っぽいフィーリングを持っていれば、それなりに聴かせることが出来るということですが、これが逆に難しいという矛盾を孕んでいます。

つまり結局は素質の問題というか、ケニー・バレルこそジャズを弾くために生まれてきたギタリストだと、私は思います。

まず、黒いフィーリング、そして都会的な洒落たセンス、さらに緩急自在で協調性が強いアドリブ演奏、おまけに難しく無い音楽性が大きな魅力です。

さて、このアルバムはギター・トリオによるライブ盤♪ 録音は1959年9月16&17日、場所はタイトルどおりにニューヨークの名門クラブ=ヴィレッジ・ヴァンガードで、メンバーはケニー・バレル(g)、リチャード・デイビス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という名手が揃っています――

A-1 All Night Long
 ロイ・ヘインズのズンドコ寸前の楽しいドラムスが演奏をリードするブルースで、ケニー・バレルはコード弾きのテーマを提示、そこにリチャード・デイビスのベースが寄添うあたりで、もう周辺は洒落た黒っぽさが充満します。
 そしてアドリブパートでは、単音弾きとコード弾きのバランスが本当に秀逸で、聴いているこちらは、すんなりとノセラれてしまいます。もちろん難しいフレーズは繰り出さない分かり易さも魅力です。
 このあたりは同じブルースでも黒人ブルースギタリストが弾くようなギリギリ・ゴリゴリ、ギュンギュンの演奏では無く、本当に夜のムードというか、柔らかなフィーリングで、これがジャズそのものになっているのですねぇ♪
 サポートするリチャード・デイビスとロイ・ヘインズも自分のソロパートではしっかりと自己主張していますが、3人がお互いの意志の疎通を大切にしている見事な演奏だと思います。

A-2 Will You Still Be Mine
 鳴り止まぬ拍手の中、スマートなスタンダードの名曲がアップ・テンポで演奏されます。そしてここではまず、テーマ部分で聴かせるロイ・ヘインズのブラシが見事! さらにアドリブパートに入ってはスカッとしたスティックの妙技を聴かせてくれます。
 もちろんケニー・バレルも主役として奮闘し、柔らかな黒人感覚を披露していますが、全体のペースはロイ・ヘインズに握られており、終盤のソロ・チェンジでは神業のドラムスと烈しく対峙するのですが、完全に敗北してしまったという……。
 とにかくロイ・ヘインズのドラムスを中心に聴いてほしいトラックです。

A-3 I'm A Fool To Want You
 さて、お次はセンチメンタルなスタンダード曲をムード満点に聞かせるという、ケニー・バレルの真髄が楽しめます。それはまず、テーマの変奏が見事ですし、スローな流れの中でもビートの芯を大切にしたフレーズの展開、さらに単音弾きで生み出す泣きのメロディと膨らみのあるコード弾きが素晴らしさの極致です。

A-4 Trio
 一転して、ここでは迫力のコード弾きを披露するアップテンポの演奏になります。もちろん最初は単音弾きで、十八番のブルース色が滲むフレーズを聴かせてくれますが、徐々にコード弾きを交えつつ盛り上げていくところは、本物のハードバップだと思います。
 そしてここでもロイ・ヘインズがビシバシとキメているのでした。

B-1 Broadway
 アナログ盤では、ここでオサラをB面にひっくり返すという儀式があって、この演奏が聴けるわけですが、曲調やノリが「A-4」と似ているので、それを軽んじてはなりません。
 肝心の演奏はハードバップの快演で、ケニー・バレルのギターもギスギスと熱演しています。
 そしてもちろん、ここでもロイ・ヘインズ♪ この人は、オカズが多くてメシが無い! というタイコが特徴ですが、それが存分に楽しめます♪

B-2 Soft Winds
 再び黒い雰囲気が濃厚なブルースになりますが、通常よりテンポが速いのでクサミがありません。まあ、それが物足りなくもありますが、都会派のケニー・バレルには合っているようです。全く淀みの無いフレーズを積み重ねて山場を作っていくあたりは、流石の上手さです。もちろん口ずさめるアドリブが素敵ですねっ♪
 ところが途中でテープ編集された痕跡があるんです! そこが、やや残念です。

B-3 Just A-Sittin' And A-Rockin
 これもブルースやゴスペル味を上手く融合させた名曲で、デューク・エリントン楽団の十八番のカバーですが、ソフトな黒っぽさがここでも全開♪ 密やかなチョーキングや擬似早弾きがニクイところです。

B-4 Well You Needn't
 そしてラストはセロニアス・モンクが作った有名ジャズ曲を、誠に分かり易く演奏するという裏ワザを披露してくれます。
 なにしろトリオの一体感は最高♪、リチャード・デイビスのベースが素晴らしくしなやかですし、ロイ・ヘインズのドラムスも刺激的♪ さらにケニー・バレルは持ち前の黒い歌心でセロニアス・モンクの変則コードを乗り切ってしまうのでした。

ということで、これはジャズギター物の名盤にして、ジャズ入門用の1枚でもあります。それはロックで親しんだギターが、ジャズではどう使われるのかという取っ掛かりが明確になっていますし、加えて演目が名曲揃い、さらにとても聴き易い演奏だということです。

ただしその密度は非常に濃く、それほど難しいフレーズを弾いていないケニー・バレルにしろ、そこには天性のセンスが無ければ、これほどの雰囲気は出せないという真髄が、確かにあるのです。

またリチャード・デイビスの堅実なサポート、ロイ・ヘインズの闊達なドラムスも素晴らしく、ケニー・バレルを、そしてジャズを聴くなら、まずこのアルバムからと、私は強く思っています。 

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