今日は久々に自発的に行動できる休日ということで、各所に出没してみました。
それにしても街は暑かったですが、だる~い天候に人イキレというか、人体から発する熱が渦巻いたような……。
まあ、それゆえに気に入ったサングラスも虚しくはありましたが、どうせなら、カッと熱く照りかえすような気分が欲しかったです。
そこで、本日は熱くて黒いこの1枚を――
■Easterly Wind / Jack Wilson (Blue Note)
ジャック・ウィルソンはそれほど知名度はありませんが、スバリ、ジャズ喫茶の人気者です。
そのスタイルはマッコイ・タイナー系の音符過多モードを使いながらも、歌心と黒いノリを大切したところが、人気の秘密でしょう。特に私は、この黒いノリという部分が大好きです。
このアルバムは、そういうジャック・ウイルソンの好ましい部分に加えて、参加メンバーの豪華さ、演奏そのものの素晴らしさがあり、加えてジャズ・マスコミがあまり取上げないというマイナー性が、ジャズ者の気を惹くのです。
録音は1967年9月22日、気になるメンバーはリー・モーガン(tp)、ガーネット・ブラウン(tb)、ジャッキー・マクリーン(as)、ジャック・ウィルソン(p)、ボブ・クランショウ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という人気・実力共に超一流の猛者達です――
A-1 Do It
ジャック・ウィルソンが作ったミディアムテンポの典型的なジャズロック曲ですが、この黒いノリはどうでしょう! ビートの重心が低いというか、重くタメの効いたリズム隊が最高で、まさにジャック・ウィルソンの特質がモロに出た名演だと決めつけます。
アドリブ先発は泣きのジャッキー・マクリーン♪ 特に手のこんだフレーズは吹いていませんが、太い音色にピッタリのノリを聞かせるリズム隊と上手く協調した快演だと思います。
そして続くリー・モーガンは、当にこういう雰囲気が十八番とあって、ブレイクでの独特のネバリとタメ、さらに烈しいツッコミを存分に聞かせくれますし、ガーネット・ブラウンは、いささか芝居がかっているとはいえ、ダーティな味のトロンボーンをたっぷりと披露しています。ちなみにこの人は知る人ぞ知るという隠れ実力派として、ビックバンドやスタジオ中心に活躍した名人です。
さて、主役のジャック・ウイルソンは、うむ、やっぱり魅力的です。それは不思議と黒い雰囲気♪ 分かり易い中にも妙に懐の深い演奏が素敵です。
A-2 On Children
一転してアップテンポの硬派なモード曲! このカッコ良いテーマはもちろん、ジャック・ウィルソンの作ったものです。
イントロはビリー・ヒギンズの至芸ともいえるポリリズムのリムショットが冴え渡り、まずはガーネット・ブラウンの力感溢れるトロンボーンが炸裂、ジャッキー・マクリーンは少しばかり縺れ気味ですが、後半になると思い切ったフレーズで反撃しています。
そして、やはりこの人♪ リー・モーガンが余裕を感じさせつつも鋭いツッコミの熱血トランペットを聴かせてくれます。
続くジャック・ウィルソンのピアノは纏まりを重視した方向に流れてしまいますが、その背後ではビリー・ヒギンズがリムショットで煽りまくるので、再びカッコ良いテーマに戻るあたりも、違和感がありません。
A-3 A Time For Love
結論から言うと、このアルバムの目玉演奏が、これです。
このスローな美曲を、ジャック・ウィルソンは自己のソフトに黒い歌心で、さらに美しく作り変えていくのです。
この人はマッコイ・タイナー系のモード派ではありますが、ジャズピアノ王道のスイング感と仄かに暗いピアノタッチ、そしてセンスの良いコード変奏♪ とにかく聞くほどに味が滲んで来る素晴らしさがあります。
ちなみに、この演奏はリズム隊だけのピアノトリオになっていますから、尚更、心が温まるのでした。
B-1 Easterly Wind
B面初っ端はアルバム・タイトル曲ということで、これも景気の良いモード曲ですが、テーマメロディが如何にもジャズ的に覚え易く出来ているので、つい、いっしょに合唱してしまいます。
しかも演奏全体で参加メンバーが絶好調! リー・モーガンは得意技を連発し、ジャッキー・マクリーンは不条理に泣きじゃくります。そしてさらに凄いのがガーネット・ブラウンの爆裂トロンボーン! あぁ、これが新主流派の良さですねぇ♪
そして最後にはジャック・ウィルソンが十八番のノリノリ・ピアノが登場するわけですが、ビリー・ヒギンズのシンバルが、これまた最高です。
テーマのカッコ良さに酔いしれましょう。
B-2 Nirvanna
スローな美メロを中心にしていますが、ホーン隊がリフを変奏しつつ絡んでくるあたりは、油断がなりません。
ちょっと聴きには優しさ優先モードですが、ビリー・ヒギンズは過激なものを秘めていますし、リー・モーガンの突き放したようなアドリブからは暗い情念のようなものが感じられます。
またジャッキー・マクリーンは、やっぱり泣いてくれるのです。
そんな中でジャック・ウィルソンは、最初から最後までマイペースを守りつつ、豊穣な香りに包まれたピアノを披露し、聴き手を幻想の世界に誘うのでした♪
B-3 Frank's Tune
締め括りは、これもモードを使った気持ちの良いテーマが魅力の名曲♪ ちょっとソニー・クラークあたりが作りそうな一抹の哀愁があります。
ですからジャッキー・マクリーンは自分の「節」をたっぷりと繰り出して、最高に素敵なアドリブを聞かせてくれますし、ガーネット・ブラウンも大健闘、さらにリー・モーガンはソフトな情感と歌心をメインに、極めるところは決めるという名演です。
肝心のジャック・ウィルソンは、完全に歌心優先の好ましいモード展開で、ちょっと甘さに流れそうになりますが、それに歯止めをかけるているのが、ビリー・ヒギンズの素晴らしいドラムスです♪
それはこのトラックだけでなく、アルバム全体に及ぶものですから、ファンは必聴でしょう。
ということで、これはジャズ喫茶の人気盤でありながら、実は密かに入手して自宅でも楽しみたくなる実用的名盤でもあります。なにしろ捨て曲がひとつも無いという充実の内容に加えて、ただただカッコ良いテーマ曲、分かり易いノリとアドリブ、おまけに不思議な黒っぽさを秘めたビートの楽しさ♪
このアルバムが製作されていた頃のジャズ界は、神様のコルトレーンが天空に去り、ロックやR&Bに押されて迷走しはじめた時期で、以降、ハードバップは落目の三度傘になるわけですが、ここに新たな展開を予感される演奏が出来ていたのですねぇ。
それは、スバリ、黒いノリ♪ グッと重心を落としたビートは、やがてエレキベースを導入したオルガンジャズとか、8&16ビートを使ったピアノトリオの登場に繋がるのです。
ところがここでの主役、ジャック・ウィルソンは、どういうわけかモロにその世界には飛び込まず、頑なに自分のハードバップ精神を守りぬくのですねぇ……。
しかしそれゆえに、いつまでもイノセントなジャズファンからは忘れえぬ存在となり、また雑多なジャズ者からも好まれるピアニストとして、隠れ人気を集めるのです。
録音はそれほど多く残していないピアニストですが、まずは、このアルバムあたりから聴いてみて下さいませ。