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書き下し小説 「読者って、いじわる」(3)  文科系

2012年05月05日 11時15分06秒 | 文芸作品
 さて、このギター友だちK氏との会食前夜、彼へのメールをいつものように連れ合いに見せた。「家出に限る」自身と、これを同人誌月例冊子に載せたという事実とも、全て読みとれるメールだ。読み終わった彼女は、全くの無返答。これも僕の体験上想定内のことではあったが、流石にちょっと驚いた。「文芸作品とは、随筆でさえ事実かフィクションかとかは度外視可能なもの」とわきまえた態度だと、これがまず僕の脳裏に浮かんだことだった。まー40年も高校の国語教師をやってきたのだから不思議な応対ではないのだが、討論を避けたというのも明らかだろう。もっとも彼女が作品内容上の問題提起や討論を避けるのはいつものこと。そう思い出せば、やはり不思議なことではないのである。たとえ「家出に限る」が、30年に一度の出来事を描いたものであるとしても。

 翌日、とある和食屋の明るい個室。K氏との会食は初めから「僕の相談、彼の応答」という展開になっていった。もちろん僕が、そのように準備して臨んだからだ。
「連れ合いとのことは驚かせたようだけど、最近の僕はどうも度外れに熱くなると言うか、怒るようになったなという事件がいくつかあってね。それもどうも、年のせいだけじゃないみたいで、ちょっと整理してみたかったんだよね」
「ブログの討論でもみんなとよく喧嘩してるようだし、メールにもあった随筆の同窓生飲み会にケンカを売った事件も、その口かな? 他にもまだあるの?」
 散歩とゴルフとかで焼けた顔をほころばせて、そう応えた。なんせ彼は、僕のブログ記事を全部読んでいるのだ。コメントも含めてすべてと、よく豪語している。
「うん、同人誌の会合でもよく『意見を押しつける』と言われるしね。あー君もギター談義の、その練習法なんかで、僕の押しつけをよく指摘するよね。同人誌では、先日もこんなことがあったよ」

 それは、2ヶ月前の月例会で、初めての孫について書いた「何処より来たりしものぞ」という僕の作品への合評の時のことだ。問題の発端は、主宰のN氏がこう言われたことにある。この題名が、万葉歌人、山上憶良の長歌「子を思う歌」の長歌に由来することは作品中に書いてあるのだが、これに関わってN氏がこう質問された。
「この『子を思う歌』が、我が子が死んだ時に作られた歌だということを娘さんが知っていたら、果たしてどう思うでしょうね」
 この質問に僕はカチンと来たのである。思わず、ちょっと大きなつぶやきのように、こう口走っていた。
「そんな縁起物みたいな話、どうでもいいですわ!」
 小声ではあったが、小さな部屋で皆に聞こえたのは明きらかだ。一瞬座がしーんとなったことでもあるし。もっともその直後に誰かが何か言いだして、別の話題に移っていったのだったが。あの言わば方向転換にも見えたものは、誰かが気を遣ってのことだったのか。
 この時の僕の心中はこういうものだったと言える。正直に言うが、この歌を長歌・反歌ともに全て暗唱できるほどに親しんではきていても、そういう背景は知らなかった。だが、娘が例えこれを知っていたところで、何か気持ちを悪くするような類の人間ではないという確信だけはあったのである。「白銀も黄金も玉もなにせむに」という我が子が「どこから来たのか」と、それだけで十分なのであって、N氏の態度は「娘に縁起論理様のものを持ち込んで一種の批判を展開する、そんな為にする批判をやった」というわけである。まーイチャモンの類と捉えたということだ。「僕なら嫌ですね」と言われただけならば、僕にも何も文句はなかったろう。が、「娘さんが」というのにカチンと来たのである。「『俺は』気分を悪くするね」と「『人は』気分を悪くするもんだ」とは、僕にとっては全く重要度が違うのである。

 例会後にいつもある有志の飲み会でこの問題を取り上げてみたが(ちなみに、N氏は最近欠席されている。80半ばを過ぎられて、心臓病を抱えておられる)、皆の反応はどうもはっきりしない。いろんな側面から何度か説明してみても、みなさん返答の口を濁される。N氏の言葉へのご自分の解釈は語られず、僕の解釈にただなんとなく不賛成という感じを示し続けている。
〈こんな易しい論理が通じないって、いったいどういうことなのだ!〉
 こういう時の僕は口調、表情だけでなく、身振り手振りまでも熱くなる。特にその夜は、溜まってきた日ごろの鬱憤をはき出すようにして喋り続けていたはずだ。日ごろの僕と会とのすれ違いへの思いなど知る由もない皆からすれば、今振り返れば熱くなりすぎているだけでなく、異常なほどにちょっと激しすぎると見えたことでもあろう。

(続く) 
  
コメント (4)
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