Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

一昨日のお豆腐

2009-05-02 10:50:03 | 新音律
芦原すなお「ミミズクとオリーブ」創元推理文庫(2000) のなかの短編「おとといのおとふ」のネタばらしです.

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エスの頭をやさしく撫で,頼みごとを強く念じながら妻に教わった呪文をエスの耳に囁いた.三度目,エスはぴくぴくと動かし,木立に向かって駆け出し,古い大きな切り株の根本を懸命に掘りはじめた.出てきたのは犯人がエスの主人を殺したときに履いていた靴...
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というのが,上記短編のハイライト.
妻に教わった呪文というのは「おもとにとうろう おとといのおとふ」である.妻によれば,この呪文をとなえると犬は喜んで,すごい信頼感を持つのだと言う.「おもとに...おとふ」はほとんど「お」の段の音で,「お」段は響きが柔らかくてやさしい.これに対し「あ」段は響きが強く叱られてるみたい,「い」段は鋭く敵意を感じさせ,「う」段はなんだか不機嫌,「え」の段はぼやけて犬にははっきり聞き取れない...とのことである.




母音の音声波形を,板橋秀一編「音声工学」森北出版 2005で参照した.ほんとは自分で測定すればいいのだが,さぼってこの本の図を引用させていただく.図によれば「お」の波形は滑らかで,高周波数成分が少ないからやさしい感じがするのだろう.「あ」「い」「え」はぎざぎざして汚い.「う」は「お」と似たようなものだが,山の数が半分である.言い換えると,「お」が4倍波(2オクターブ上の音)を含むのに対し,「う」は2倍波(1オクターブ上)までしかない.「お」のほうが明るい感じ.

この本にはもちろん周波数スペクトルも載っているが,この音声波形のデータと対応するのか否か不明.

「おもとに...おとふ」の効用は怪しいが,小説家は,「そんなことがいかにもありそうだ」というくらいのことをネタに,小説にしてしまうところが偉い.
コメント
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