Sixteen Tones

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原発のコスト

2013-01-28 08:39:02 | 読書
大島 堅一 ,岩波新書(2011/12).
以下,つべこべと書いてしまったが,とにかく存在価値がある本.

個人的には,原発は放射性廃棄物製造機であり,原発事故が皆無と仮定しても,廃棄物処理まで勘定に入れたら,原発は引き合わないのと信じている.これを定量的に裏付けてくれる本.
しかし,大佛次郎論壇賞受賞というわりには,少々食い足りないとも思った.

構成は,第1章 恐るべき原子力災害,第2章 被害補償をどのようにすすめるべきか,第3章 原発は安くない,第4章 原子力複合体と「安全神話」第5章 脱原発は可能だ」.原発のコストそのものを論じているのは,第3章の 40 ページ強で,ちょっと短すぎる.

この本が引用している,2011 年に政府が発表した資料によれば,発電コスト (円/kW) は,原子力5-6円,火力7-8円,水力8-13円等である.しかし,原子力の数値は,2004 年の時点でモデルプラントを想定して計算したものであり,多分に恣意的なものであることがあきらかにされている.

上記コストは「発電事業に直接要するコスト」にすぎない.これに「政策コスト」を加えるべきである.これには,技術開発コストと,立地対策コスト (早く言えば,原発立地地域への交付金) がある.後者の例として,上関町の2011年度一般会計では,税収 2.24 億に対し,原発がらみは 14 億であることが示されている.まさに原子力村ならぬ原子力町である.
これら政策コストは国民が負担するわけだが,国民にはその認識がない.

またこれには,事故対策のコストが勘定に入っていない.この本では,事故コストをキロワット時当たりの価格に表すことは無理とつっぱねている.

廃棄物処理のコストはこの本では「バックエンドコスト」と称している.政府データを提示しそれを批判する形で記述が展開する,ここでは再処理工程のみを論じている.核燃料を一度使ったら捨ててしまう「ワンスルー方式」であれば,問題がないような書き方は誤解をまねきそうだ.国策として今までさんざん国費を投じてきた再処理計画は頓挫気味で,実際はプルサーマルに移行したらしいが,この本ではプルサーマルの記述は1ページ程度である.

この本で用いているデータは,だいたい政府が発表したものである.科学としてはそうあるべきだし,このデータだけでここまで言えるのかと感心する.しかしシミュレーションでも何でも良いから,もっと踏み込んで円/kW 値を具体的に示してほしかった.

じつはこの本の出版と前後して,民主党政権下で,政府のエネルギー・環境会議コスト等検証委員会がコストを算出している.ここでは福島原発と同程度の事故が 40 年に一度起きると仮定し,損害賠償・除染費用を計上している.さらに,自治体への交付金と立地費用を 1.1 円/kW,核燃料サイクルの費用を 0.4 円/kW とした.結果は 10 円台前である.ただし燃料代が高騰するので,火力,とくに石油火力コストは 40 円台に近づく.この算定の前提の吟味は是非著者にお願いしたいところ.
この本の改訂を望みたい.

何の展望もなく廃棄物を堆積し,未来にツケを回しているのが現状だ.再処理サイクルが閉じても廃棄物は残る.この「ツケ」は定量化不能なのだろうか?
この国は何年も続けて税収と同額あるいはそれ以上の国債を発行している.廃棄物は国債のようなもの ? いやいや,国家が破綻すれば,国債は紙切れになるだけだか,廃棄物は依然として存在し続ける.おそらく人類が滅亡しても存在するだろう.

また,この国の企業は発展途上国に原発を売り込もうと躍起である.しかし,事故の確率は原発の数に比例する.いっとき,核戦争が人類を滅ぼすと言われたが,戦争より平和利用目的の原発の方が危なそうだ.
コメント
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