Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

野上照代「母べえ」

2013-02-19 08:07:29 | 読書
中央公論新社 (2007/12).

山田洋次と吉永小百合で映画化された原作を,図書館で見かけたので読んでみた.山田・吉永ご両人の文章も載っていて,吉永さんに,「この役には私は歳をとりすぎているのでは」と言われた山田監督は「あのころのお母さんはみんな疲れていたから」と答えたのだそうだ.
原作では,照代さんの叔母さんの恋人が登場するが,映画ではこの男子が吉永さんに想いを寄せることになっていて,映画は「そこは不自然」と批評されたらしい.

もともと 1984 年に発表されたときは「父へのレクイエム」というタイトルだったそうで,本で読む限りたしかに「母べえ」がヒロインという印象はない.本のタイトルが変わったのは映画化のためだろう.

本の内容は思想犯として投獄された「父ぺえ」と家族との往復書簡を野上さんの作文でつないだもの.書簡は父ぺえさんがノートに書き写しておいたもの.検閲のために滅多なことは書けないわけだが,長女の手紙は思春期らしくそれなりに深刻で,小学生だった次女 (著者) の手紙は能天気,父ぺえさんはもっぱら獄中で読む本を要求する.味わいある書簡集だった.
手紙ではない部分も,声高に反戦を叫ぶと言うのではなく,親戚付き合いとか,食べ物の心配とか,庶民の目線で語られている.野上さん自身のイラストがよい.



著者は黒澤明監督のスクリプターとして有名.本の中では父ぺえ (野上巌,筆名・新島繁) は獄死してしまうが,幸い,ほんとうは戦後 1957 年まで活躍したとのこと (http://ja.wikipedia.org/wiki/新島繁).ドラマチックな方向に脚色したのは,黒澤監督の影響があったかも.
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