サキの長編.花輪 涼子 訳,彩流社 (2019/7).
ぼくの場合,原文で米英の文学作品に触れたのはほとんど受験時代だけだった.
サキ Saki はO.ヘンリーと並ぶ短編作家だが,O.ヘンリーの作風がヒューマンなのに対し,サキはブラック・ユーモアを感じさせた.そのサキの2つある長編のひとつの翻訳.
巻頭に「これは道徳的な物語ではない」という著者からの注記があるが,不道徳な物語でもない.
ロンドンの社交界という縁のない舞台だが,訳者のあとがきにあるように,母子の情愛と男女の恋愛の機微という永遠のテーマを扱っている.主人公のバカぶりが自分の若い時と重なり,つい感情移入してしまった.これはサキの短編では経験しなかったことだ.
同じくらいの長さの17章構成で,エピソードの積み重ねみたい.やっぱり短編作家なのかもしれない.第8章の「おとぎの国を作ったものの,そこの住人になりきれなかった」話など,本筋とはなんの関係もないのだが,読み終わった後存在感が残る.
訳者はまた「一文がとにかく長い.一段落が長い」と言っているが,受験英語に最適かもしれない.ミステリなら適当に読み飛ばせば良いのだが,行きどどいた文章で,丁寧に読まなければもったいないと感じさせる.
原題は The Unbearable Bassington.「鼻持ちならない」はちょっと柔らかすぎで,直訳の「我慢がならない」の方が当たっているのではないかな.